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第一章
2話 支援術士、仕事を探す
しおりを挟む「……」
いつの間にやら着いてたんだな。俺は気付けば冒険者ギルドへと立ち寄っていた。仕事を探すためだが、勇者パーティーを追放されてからずっと放心状態で歩いてきたせいか、ここまで歩いてきたことすら夢の中の出来事のように感じた。
「アルシュ、悪く思わないでくれよ……」
仲のいい幼馴染のアルシュに一言伝えるべきかもしれないと考えたが、やめた。彼女のことだから俺のあとをついてこようとするだろう。俺のせいで苦労させるわけにもいかないと思い直したんだ。
なんせ【勇者】というのは世界で5人しかいないとされるほど希少なジョブだからな。自身のものだけでなく、パーティー全体の魔法能力、身体能力、士気も引き上げることができる。だから、【勇者】ガゼルが幼馴染だったことを幸運に思ったもんだ。
俺は一人でいることに関しては平気だが、アルシュは違う。あいつはとても寂しがりやだし、二人きりだと緊張するタイプで、しかもずっと【勇者】の庇護を受けながら戦ってきたんだ。今更環境を変えるのは酷だろう。俺がいなくなったことで多少の心配はあるが、俺といるよりパーティーでいたほうがいい。
まあそれは【支援術士】の俺も同じことなんだが、追放されたのだから仕方ないし、されたばかりというのもあってしばらくパーティーは御免こうむりたい。
ギルドには星の数ほど依頼が集まってくることで知られてるし、中には俺一人でできる仕事もあるはずだ。
「んー……」
ギルドの依頼には最大でSSSSSランク――クインティプルスーパーランク――からFランクまで非常に幅広い難易度の依頼が用意されている。俺は勇者パーティーの一人として長くやってきたこともありSランクなわけだが、だからといってこのランクの依頼を【支援術士】が一人で攻略できるかというと到底無理な話だった。
しかも同ランクでなければ依頼を受けられない仕様な上、Sランクはどれもこれも何々の森や洞窟に棲む強力なモンスターの毛皮や牙を集めてきてほしいとか、【戦闘職】向けの依頼ばかりなので途方に暮れていた。
【回復職】がなんとか一人で依頼をこなそうとして、パーティーのおこぼれを拾うなどして日数をかけて苦労して材料を集めた結果、盗賊に根こそぎ奪われてしまったなんて話はよく聞くし、無理矢理頑張ったところでどう考えても割に合わない。
勇者パーティーの一人だったことを売り出せばそれなりに食いつくパーティーもいるかもしれないが、今はそんな気分になれない。
目を皿のようにして自分にできそうな依頼がないか探したが、やはりSランクでは【回復職】向けのお使いのような仕事はなかった。やはりパーティーに入るしかないんだろうか。
……そうだ、パーティーはパーティーでも、ペアなら気持ち的にも大分違うんじゃないか?
というわけで俺は早速自己紹介文の貼り紙を作成し、ギルド内にあるパーティー掲示板に貼り付け、ほかの冒険者とともにその場で待ったが一向に声がかからなかった。
「――ダメか……」
おかしいな……何故だ? そもそも【回復職】は需要が低い仕事ではない。むしろパーティーにとっては必須であり、服装にしてもわかりやすく白装束だ。というか、驕るわけじゃないが募集してなくても声がかかってもおかしくないジョブなのに……。
「ねえ、あそこにいるの、例の噂の人じゃない?」
「あ、ホントだ……」
「ん?」
「「っ!」」
その理由はすぐにわかった。ヒソヒソと話し声がするのに気付いて振り返ると、二人組の女が俺のほうから全力で目を逸らしたのだ。そうか……なるほど、なんせ俺はあの勇者パーティーの一人なんだし、そこそこ知られていてもおかしくはないわけで、追放されたという噂が広まってるのかもしれない。
ガゼルは荒れて味方に当たり散らすことも多いが、希少な【勇者】として見られていることを意識していて、外ではしおらしくしてるから評判がいいんだ。その勇者パーティーを追い出されるくらいだから、相当な問題児なんだと思われてもおかしくない。
「――はあ……」
そうこうしてるうちに夕方になり、カラスたちが俺を小ばかにするように鳴き始めた。結局仕事は見付からなかったな。このままじゃ路上で野垂れ死にだ。
親友フレットの死を目の当たりにして以降、【支援術士】としてできるだけ多くの困ってる人を助けたいなんて思ってたが、自分さえ助けられないやつが誰かを救えるはずもないよな……。
「あの……よかったら、これをどうぞ」
「え?」
フードを頭からすっぽり被った小柄な人からパンを貰った。お礼を言う暇もなく逃げるように立ち去られて、なんともいえない敗北感に包まれる。乞食と思われたんだろうか。
俺……何やってんだよ。【支援術士】なら人を助けなきゃいけないのに逆に救われてどうするんだ。泣くのを堪えながら齧るパンはしょっぱい味がした。そうだ……俺もああいう辻支援で人を助ければいいんだ。先は見えないが、【支援術士】なら人を助けることで状況を打開していくしかない。
ってなわけで、俺は道行く人にスピードアップや治癒の魔法をかけていった。もちろん、自分がやったと気付かれないようにさりげなく、誰にでも。報酬を期待してはいけない、支援する人を差別してはいけない、気を使わせてはいけない……それが辻支援の三大ルールだからだ。
疲れた表情で野菜を載せた荷台を引く途中、『あれれ』と声を上げて不思議そうに立ち止まって周囲を見渡す少女、『まあ、急に体が軽くなったわ』と嬉しそうに顔を綻ばせる腰の曲がったおばあさん、それまで病的に青白かったものの、『ぬぁっ?』という上擦った声とともに血色のよい顔で目を丸くするおじさん……それらの様子をこっそり見ているだけで楽しくなってくる。
「――あ……」
俺はあることをひらめいた。そうだ、仕事がないなら、自分で【なんでも屋】みたいなことをすればいいんじゃないか? オールラウンダーと呼ばれていただけあって、幅広くなんでも回復できる自信はあるし、かなりいい案かもしれない。
◇◇◇
(グレイス……こんなことしかしてあげられなくて、ごめんね……)
冒険者ギルド前の路上脇に立つ白装束の男を、近くの建物の陰から涙を浮かべながら見つめるフードを被った少女がいた。
(できることなら今すぐ会いたいけど、もし私があなたの元へ行ったらガゼルを怒らせることになって、もっとあなたの立場が悪くなってしまうと思うから……)
元パーティーメンバーである【魔術士】のアルシュは、その場にうずくまると声を押し殺すようにして泣くのだった。
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