勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

35話 支援術士、静けさを生む

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「だ、大丈夫か……!?」
「大丈夫……?」
「……は、はい……大丈夫……で、す……」
「「……」」

 俺は、出番が回ってきた一人の女性客を前にして、アルシュと困った顔を見合わせる。どう見ても大丈夫そうじゃないからだ。目の前にいる患者の目元にはくっきりと隈ができてて、目は虚ろで小刻みに肩を震わせていた。

「それで、どういった病で?」
「……急に全然眠れなくなって……。もう、一月くらい……」
「なるほど……こういうことは、以前にも?」
「……いえ、本当に、つい最近――」
「――し、しっかりしてっ」

 倒れそうになった患者をアルシュが支えてくれてる。かなり弱ってるみたいだし、一月も眠れないってことは、おそらく稀に突発的に発症する致死性不眠症だな。極めて危険な病気で、このままだと間違いなく命を落とす。

 脳細胞の一部が破壊することで起こることが多いが、それを再生するだけでは病気そのものを治すことは難しい。

 ここで大事なのは、安眠を阻害する雑念をできるだけなくすことだが、それを無理になくそうとするとまた強迫観念という雑念が生まれて焦りすら生じてしまう。

「グレイス、どうにかなりそう?」
「ああ、大丈夫だ」
「ほ……本当なんです、か……」

 俺は不安そうな患者に向かって力強くうなずいてやった。まず回復術でリラックスさせたあと、再生術で脳の一部を治していく。

 正直俺にとってみたら、切断や損傷等で失った細胞を復活させる再生術は大きな治癒エネルギーがいるので苦手な分野だが、これくらいならいけるはずだ。

 ――よし、回復術をバランスよく脳に流し込むことで壊れた箇所がわかったので、すぐに再生していく。その際、治癒に比重が偏るため尋常じゃなく疲労が覆い被さってくるが、なんとか堪えきった。ただ、これで病気が治ったわけじゃなく、ここから最終段階に移行する。

「えっと、患者さん、あなたに言いたいことがある」
「……は、はい……?」
「あなたはもう、眠らなくてもいい」
「……はい――え、ええっ……?」
「ど、どういうことなの、グレイス?」

 患者だけでなくアルシュもわけがわからなそうだが、この言葉こそ大事なんだ。不眠症の患者に対し、寝る前に余計なことを考えないようにアドバイスすると逆に考えてしまう。何故なら、それはわかりきったことで常に実践してるはずだから。鬱病の患者に頑張れというようなもので、逆効果になってしまうんだ。

「逆に、考えて考えて、気が付いたら眠っていたという感覚でいいんだ。力みは興奮状態につながってしまうから、脳が覚醒してしまう。もっと気楽に考えてほしい」
「……た、確かに、今までは考えまい考えまいとしようとして、却って眠れなくてそれが常態化してしまったような感じです……」

 やっぱりか……それが拗れた結果こうなってしまったんだろう。

「もう眠らなくてもいいから」
「は、はい――」
「――あっ……」

 アルシュがはっとした顔で口を押さえる。まもなく俺の目の前から安らかな寝息が聞こえてきた。回復術の効果もあるだろうが、安心したことが大きいのか熟睡してる様子。俺たちはそっとギルドまで運ぶことにした。係員にわけを話せばしばらく置いてもらえるだろう。



 ◇◇◇



(う、嘘だ。あれを治しちまうなんて……)

 不眠症だった女性が眠った状態でギルドへと運ばれる中、ナタリアの隻眼がこれでもかと見開かれる。しばらくしてグレイスが連れの少女とともに戻ってきた。

「――待ってました、さすがグレイス先生っ!」
「本当に凄いわ!」
「ヒーローのご帰還だ!」
「みんな、しばらく歓声を上げないように、静かに頼むよ」
「折角寝ることができたのに、起こしちゃうからね」
「「「「「はーい……!」」」」
「……」

 口元に人差し指を置き、また何事もなかったかのように治療し始めるグレイスを前に、ナタリアはしばし呆然と立ち尽くしていたが、やがて怪しい光を細めた瞳に灯した。

(だ、騙されるもんか……。こんな見え透いた芝居でこのあたしを騙せるとでも思ったのかい? 甘いよ。この世ってやつは隅から隅まで嘘で塗り固められてる。欺瞞の笑み、欺瞞の喜び、欺瞞の賞賛……。何が、【なんでも屋】だよ。そんなくだらないもの、破壊してやる。全部あたしがぶっ壊してやるってんだよ。見ててご覧……地獄を見せてやる。この世は全てが欺瞞だってことを証明してやる……)

 項垂れ、泣きながら笑うナタリア。それは誰にも聞こえない程度のものだったが、異様さは際立つばかりだった。
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