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第一章 リトア王国

ちょっと座っていいですか?

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伯父様の言動に固まってしまった私をお父様はそっと下ろし背後に控えていたダミアンさんが私の肩に優しく手を置いてくれた。

「私は君をどちらかと言うと自信家なタイプだと思っていたんだがな。
自分自身の積む功績でランギャー家の名を保つことは充分可能だったろう?」

お父様の問いかけにフンっと伯父様は鼻を鳴らして小声でブツブツ呟き始めた。

「嫌味な奴だまったくこちらが下手に出てやっているというのに何が自信家なタイプだ。
私は努力している、自身があって当然だろう。血の滲むような努力をし続けてきたんだ。相応の評価を受けるのが当然なのだ。評価、そう評価だ。努力して努力して身につけた全てがたった一言で崩される。魔力を持たなかったのは残念なことだと。これほど優秀ならば魔力をお持ちだったならばどんなに素晴らしい当主になられたでしょうと。
父もそうだ、どんなに優秀な成績を収めても仕事で褒賞を受けても決して満足しない。喜びもしない。ただ黙って見つめ返してくる。お前はその程度で満足かと言わんばかりに。」

申し訳ないけど、いや、ひどいな~そんな目に遭ってきたんだって思うけど…

ひたすらブツブツ言ってる姿怖すぎますよ?

後ずさる私と違いお父様は黙って異様なその姿を見下ろしながら呟きに耳を傾けている。

「ディルが生まれた時だってそうだ。生まれてすぐに魔力を持っていると判断されたのにあの人は…あの人は…」

伯父様はガバッと顔を上げると血走ったうつろな目をこちらに向ける。

「足らんっと言ったんだ。ただ一言。足らんっと。

そして、そして、そう。彼女が教えてくれたんだ。あの人の企みを。リド教の企みを。」

「彼女とはベルと共にスリジェ家へ来た侍女か?」

静かに問いかけたお父様の方を向いて伯父様は首を振る。

「違う違う、あの時はまだベルの侍女ではなかった。マーガレットの侍女にと父上が雇ったのだから。彼女は魔力を持っていて特に鑑定の力に優れていた。
だからディルの魔力もすぐに分かったんだ。足らんという言葉の意味を教えてくれたのさ。父上は、あの人は、より強い力を求めていた。
リド教のものと一緒により強い魔力を持つ子を生み出そうと試みていたんだ。
兄や私やベルに魔力がないのは当然だ。全部吸い取られたんだから、この子に。」

真っ直ぐにさされた指が私に向けられ、いよいよ気分が悪くなって座り込みたい気持ちになった。

「リド教は賢者イリスを崇める新興宗教だったな。何故そんな者が伯爵と?」

「知らないな。大事なのは父上がなによりもこだわり続け、生まれさせようとしていた子が今目の前にいるということだ。
あの人が叶えられなかった野望を私が叶える。
そうすれば、きっとあの人は後悔するだろう。
私を無視し続けたことを。」

今度はケラケラと笑い始めた伯父様を見ていられなくて私は離れた場所で待っているアロイス様たちの方へヨロヨロと近づいた。
今すぐ椅子に座りたい。
そんな気持ちをくみとったようにアロイス様が何やら魔法を使っている。

ようやくたどり着いた私をアロイス様は軽々と抱き上げフワフワしたものに座らせてくれた。

伯父様に当てられた毒気がドッと身体から抜け落ちるような素晴らしい座り心地の椅子だ。
嬉しくなって見下ろすと、椅子じゃなかった。
真っ赤なかさに白い水玉模様がファンシーな巨大キノコだった。

キノコに座る私をお祖母様がギョッとしたように眺めている。
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