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第1章 はじまりの村
第23話 気づかないふり
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「ほい、どーぞ」
胸の鼓動が少しだけ早くなるのを感じた。
まさかリアルに女の子の笛をふくことになろうとは!
――逆に考えろ、別に嫌なことではないじゃないか。ラッキーじゃないか。
アイネもスイに負けず劣らずの美少女だ。
おそらくここ数日間割と真面目に仕事を頑張った俺に神がプレゼントをくれたに違いない。
素直に喜びを受け入れろ。俺にはその資格がある。
「よしっ……」
俺は意を決してオカリナに口をつける。
スイの顔がさらに赤くなったが気が付かないふりをしておいた。
そのまま優しく、息をオカリナに入れる。奏でられた音は特に何の変哲もない、普通のオカリナの音だった。
とりあえず適当に指で穴をふさいでみる。順番に指を離していくと綺麗にドレミファと音が続いた。
「おー……! 綺麗な音っすねぇ」
「へぇ、音楽の才能があるのですね」
二人が何かキラキラしたまなざしを俺に送ってくる。
──さすがにオーバーじゃないですかね?
「大げさですよ。これがドかな……?」
穴を全部ふさいで息をふく。
もう一度ドレミファと続くのを確認。今度はソラシドを鳴らす。
「おーっ、ウチも、ウチも!」
と、アイネが足踏みをしながら手を出してきた。
その駄々っ子のような仕草が妙に可愛らしく俺はすぐにオカリナを手渡した。
「えっと、全部指をふさぐと低いドですね。右側から指をあけてくと一音ずつあがってきますよ」
「……ぅ」
再びオカリナに口をつけたアイネを見て、スイがふっと視線をそらす。
だが、ここは敢えて無視をしておく。
「おぉ、なんかそれっぽくなったっす! 先輩もほら」
――というのは失敗だったらしい。
スイへの配慮のつもりが逆に追い詰める結果になってしまった。
アイネがスイの方にオカリナを向ける。
「え? 私? いいよ、私は……」
スイは一歩後ずさりして首を横に振る。
それを見てアイネはニヤニヤと笑いはじめた。
「あれ? やりたくないっすか? さては、ウチの前で失敗するのが怖いっすね?」
「え、いや、そうじゃなくて……それは……」
──全然違うんだよなぁ。
だがそれを指摘するのは今更だろう。
もう、俺とアイネは口をつけてしまったのだから。
なんとか助け舟を出そうと俺は口を開く。
「ま、まぁ無理にやらせることは……」
「うりうり~、ほらほら、ふいてみるっすよ~」
「う、うぅ~……」
ちらちらと俺とオカリナを見るスイ。……なんか申し訳なくなってきた。
直接じゃないし別にいいかと軽く考えていたことを後悔する。
「じゃ、じゃあちょっとだけ……」
と、スイはアイネからオカリナを受け取る。
少しだけ震えているスイの手を見て直感した。
──これは失敗するな。
「う……ぴひゅぅ!?」
響くのは耳触りな甲高い音。
スイの息遣いがそのままあらわれているため妙に震えている。
それを聞いてアイネがお腹に手を当てて笑い始めた。
「あっはははははははっ! 先輩下手すぎるっす! さっき全力で吹くなって新入りさんが言ってたの忘れちゃったんすか?」
「ち、ちがっ、そうじゃなくて……えっと……」
赤面しながら首を横に振る。
しかしその内心は俺にしか伝わっていない。
アイネはスイからオカリナを奪うと俺にそれをむけてきた。
「見本見せてあげるっす、ほら」
「え? 俺が?」
「あ、アイネ……」
──マジっすか。
一つ、深呼吸をする。これはどうするのが正しい選択なのだろう?
美少女が出てくる恋愛アドベンチャーゲームでは選択肢が出てくるような場面のはずだ。
そういうゲームなら少なくともどれか一つが正解なのだが、今は考える選択肢の中に正解が入っている保証はない。
──くそっ、なんというハードモード!
「ほら、早くっ」
ぐいっと俺の顔にオカリナを近づけるアイネ。もう断れる空気じゃない。
俺はオカリナを受け取るともう一度深呼吸をする。
スイが顔を真っ赤にして視線をそらすのが視界に入った。
「おー、うまいっすね。コツつかんだっすか? さっきより綺麗な音が出てるっす」
「ど、どうも……」
俺の覚悟が伝わったのか、確かに綺麗な音が出た。
意外に俺は音楽の才能があるのかもしれない。
「ほっらほら、こんな感じっすよ~……」
今度はアイネが吹く。アイネもコツをつかんだようだ。
なるほど、誰にでもできることなのかもしれない。
俺に音楽の才能はそんなに無いと思われる。
「あ、あのさ……アイネ……」
と、スイが赤い顔のままアイネに何かを耳打ちする。
その瞬間、アイネは目を大きく見開いた。
「……う? ん……んひゅっ!」
直後、耳を貫く甲高い音。
すぐに察してしまった。
――あ、結局言ったんだ。
「いや、それは……えっと……」
口をぱくぱくさせながら俺とオカリナを交互に見るアイネ。
……さて、俺はどうすればいいのだろうか。
ここで何も気づかない程俺は鈍感じゃない。
しかし、それっぽい態度を出してあげるのが優しさかもしれない。
そう思って首を傾けた。無表情になるように強く意識して。
「あー……なんというか……そのっ……し、新入りさんっ!」
と、アイネはぐっと俺に詰め寄ってくる。
「これ、あげるっす」
「え?」
そしてそのまま俺にオカリナを無理やり握らせた。
「プレゼント! ウチからの!」
「え、なんで?」
「その、なんかその……別に新入りさんのことは嫌いじゃないよ? でも、その……嫌じゃないんだけど……えと……ウ、ウチはうまくふけそうにないのでっ!」
顔を赤くしながら叫ぶように言葉を続けるアイネ。
……深くつっこむのはかわいそうだ。ここは黙って受け取るべきだろう。
「そ、そうですか……じゃあ、ありがたく……」
「んじゃっ! ウチ帰るね! あ、帰るっす! もう遅いしっ!」
「え、アイネさ……ちょっ……」
お礼の言葉も遮りアイネは俺達に背を向けて走りだした。
唐突な彼女の態度に、俺とスイは動けないままだった。
「…………えっと、私たちも帰りましょうか」
「そうですね……」
少しの間流れた気まずい空気の後、俺とスイは顔を見合わせる。
二人っきりになったことで少し間接キスのことを意識してしまったが……
「また今度、三人で来ましょう。今日は楽しかったです」
照れ臭そうに明るく笑うスイを見ていると、そんなことも忘れてしまうのであった。
胸の鼓動が少しだけ早くなるのを感じた。
まさかリアルに女の子の笛をふくことになろうとは!
――逆に考えろ、別に嫌なことではないじゃないか。ラッキーじゃないか。
アイネもスイに負けず劣らずの美少女だ。
おそらくここ数日間割と真面目に仕事を頑張った俺に神がプレゼントをくれたに違いない。
素直に喜びを受け入れろ。俺にはその資格がある。
「よしっ……」
俺は意を決してオカリナに口をつける。
スイの顔がさらに赤くなったが気が付かないふりをしておいた。
そのまま優しく、息をオカリナに入れる。奏でられた音は特に何の変哲もない、普通のオカリナの音だった。
とりあえず適当に指で穴をふさいでみる。順番に指を離していくと綺麗にドレミファと音が続いた。
「おー……! 綺麗な音っすねぇ」
「へぇ、音楽の才能があるのですね」
二人が何かキラキラしたまなざしを俺に送ってくる。
──さすがにオーバーじゃないですかね?
「大げさですよ。これがドかな……?」
穴を全部ふさいで息をふく。
もう一度ドレミファと続くのを確認。今度はソラシドを鳴らす。
「おーっ、ウチも、ウチも!」
と、アイネが足踏みをしながら手を出してきた。
その駄々っ子のような仕草が妙に可愛らしく俺はすぐにオカリナを手渡した。
「えっと、全部指をふさぐと低いドですね。右側から指をあけてくと一音ずつあがってきますよ」
「……ぅ」
再びオカリナに口をつけたアイネを見て、スイがふっと視線をそらす。
だが、ここは敢えて無視をしておく。
「おぉ、なんかそれっぽくなったっす! 先輩もほら」
――というのは失敗だったらしい。
スイへの配慮のつもりが逆に追い詰める結果になってしまった。
アイネがスイの方にオカリナを向ける。
「え? 私? いいよ、私は……」
スイは一歩後ずさりして首を横に振る。
それを見てアイネはニヤニヤと笑いはじめた。
「あれ? やりたくないっすか? さては、ウチの前で失敗するのが怖いっすね?」
「え、いや、そうじゃなくて……それは……」
──全然違うんだよなぁ。
だがそれを指摘するのは今更だろう。
もう、俺とアイネは口をつけてしまったのだから。
なんとか助け舟を出そうと俺は口を開く。
「ま、まぁ無理にやらせることは……」
「うりうり~、ほらほら、ふいてみるっすよ~」
「う、うぅ~……」
ちらちらと俺とオカリナを見るスイ。……なんか申し訳なくなってきた。
直接じゃないし別にいいかと軽く考えていたことを後悔する。
「じゃ、じゃあちょっとだけ……」
と、スイはアイネからオカリナを受け取る。
少しだけ震えているスイの手を見て直感した。
──これは失敗するな。
「う……ぴひゅぅ!?」
響くのは耳触りな甲高い音。
スイの息遣いがそのままあらわれているため妙に震えている。
それを聞いてアイネがお腹に手を当てて笑い始めた。
「あっはははははははっ! 先輩下手すぎるっす! さっき全力で吹くなって新入りさんが言ってたの忘れちゃったんすか?」
「ち、ちがっ、そうじゃなくて……えっと……」
赤面しながら首を横に振る。
しかしその内心は俺にしか伝わっていない。
アイネはスイからオカリナを奪うと俺にそれをむけてきた。
「見本見せてあげるっす、ほら」
「え? 俺が?」
「あ、アイネ……」
──マジっすか。
一つ、深呼吸をする。これはどうするのが正しい選択なのだろう?
美少女が出てくる恋愛アドベンチャーゲームでは選択肢が出てくるような場面のはずだ。
そういうゲームなら少なくともどれか一つが正解なのだが、今は考える選択肢の中に正解が入っている保証はない。
──くそっ、なんというハードモード!
「ほら、早くっ」
ぐいっと俺の顔にオカリナを近づけるアイネ。もう断れる空気じゃない。
俺はオカリナを受け取るともう一度深呼吸をする。
スイが顔を真っ赤にして視線をそらすのが視界に入った。
「おー、うまいっすね。コツつかんだっすか? さっきより綺麗な音が出てるっす」
「ど、どうも……」
俺の覚悟が伝わったのか、確かに綺麗な音が出た。
意外に俺は音楽の才能があるのかもしれない。
「ほっらほら、こんな感じっすよ~……」
今度はアイネが吹く。アイネもコツをつかんだようだ。
なるほど、誰にでもできることなのかもしれない。
俺に音楽の才能はそんなに無いと思われる。
「あ、あのさ……アイネ……」
と、スイが赤い顔のままアイネに何かを耳打ちする。
その瞬間、アイネは目を大きく見開いた。
「……う? ん……んひゅっ!」
直後、耳を貫く甲高い音。
すぐに察してしまった。
――あ、結局言ったんだ。
「いや、それは……えっと……」
口をぱくぱくさせながら俺とオカリナを交互に見るアイネ。
……さて、俺はどうすればいいのだろうか。
ここで何も気づかない程俺は鈍感じゃない。
しかし、それっぽい態度を出してあげるのが優しさかもしれない。
そう思って首を傾けた。無表情になるように強く意識して。
「あー……なんというか……そのっ……し、新入りさんっ!」
と、アイネはぐっと俺に詰め寄ってくる。
「これ、あげるっす」
「え?」
そしてそのまま俺にオカリナを無理やり握らせた。
「プレゼント! ウチからの!」
「え、なんで?」
「その、なんかその……別に新入りさんのことは嫌いじゃないよ? でも、その……嫌じゃないんだけど……えと……ウ、ウチはうまくふけそうにないのでっ!」
顔を赤くしながら叫ぶように言葉を続けるアイネ。
……深くつっこむのはかわいそうだ。ここは黙って受け取るべきだろう。
「そ、そうですか……じゃあ、ありがたく……」
「んじゃっ! ウチ帰るね! あ、帰るっす! もう遅いしっ!」
「え、アイネさ……ちょっ……」
お礼の言葉も遮りアイネは俺達に背を向けて走りだした。
唐突な彼女の態度に、俺とスイは動けないままだった。
「…………えっと、私たちも帰りましょうか」
「そうですね……」
少しの間流れた気まずい空気の後、俺とスイは顔を見合わせる。
二人っきりになったことで少し間接キスのことを意識してしまったが……
「また今度、三人で来ましょう。今日は楽しかったです」
照れ臭そうに明るく笑うスイを見ていると、そんなことも忘れてしまうのであった。
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