僕は美女だったらしい

寺蔵

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前倒しで、クリスマスの話

夏樹のサンタコスプレ

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「あら!? 美味しいじゃない!」
「見た目こんなに酷いのにめちゃくちゃうめえ!?」
「すげぇ! こ、こんな美味いケーキ初めて食ったかも」

 予想外に凄く褒めてくれた!

「あ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

 自分でも上手く出来たって思ってたけど(見た目意外は)こんなに褒めてもらえるなんて嬉しいな。

「いや、お世辞じゃありませんよ。マジで美味いですって」
「もう一個貰いっと」
「やめなさいよ。八鬼の分は残して置かないと後で全員アバラ折られるわよ」

 あっという間に食べつくされ、十二分の一程度になったケーキが薫君の手によって冷蔵庫へとしまわれた。

 細くなったケーキは立てておく事もできずに、お皿の上で死んだ魚みたいに横たわってた。

「さーて、次は俺からのサプライズってことで」

 ヒロト君がテーブルの上に缶ジュースを置いた。

「ジュース?」

「酒だ」

 ニヤリ。悪い顔でヒロト君が笑った。

「おおおおお!? お酒!? の、呑んでみたいです!」

「お。食いついてきてくれたね。夏樹ちゃんってたまに敬語になるよねぇ可愛い」

「オレ、これもらい」
 僕にも八鬼にも薫君にも敬語なのに、なぜかヒロト君には敬語を使わない真十郎君が勝手にライムのお酒を手に取る。
「夏樹ちゃんはどれがいい?」

 ど、どれにしよう……!

 スクリュードライバー? オレンジ味かな。パッケージが美味しそう。

「これをください」
「はい、まいど!」

 まるでお店みたいに挨拶してヒロト君が僕の手に持たせてくれた。

 どんな味だろう。
 苦いのかな?

 ドキドキしながら口を付ける。

 あれ?

 ただのオレンジジュースだ。

 お酒の味なんかしない。

 なーんだ。

 ちょっと拍子抜けだ。

 半分ぐらい呑んで、八鬼のカレーに戻る。

 野菜と肉がゴロゴロしてボリュームあって美味しい。

 あれ?

 なんか、楽しくなってきた。


「ふふふ。楽しいね」

「夏樹さん?」

 喉が乾いたな。残ってたお酒も全部呑む。

 やっぱり美味しい。

 暖房ききすぎてるのかな?
 ちょっと熱くなってきたな。

 八鬼が買ってくれた着心地のいいニットを脱ぎ捨てる。

「シャツだけだとさむい……」

 何か着るもの無かったかなぁ。

「……いきなり酔っ払ってるわね」

 え?

「よっぱらって無いよ」
「酔っ払いはそう言うのよ」

 あ、なんだか視界がふわふわしてきた。これって酔っ払っているって状態なのかな?

 でも意識はクリアだ。酔って無い。

「サプライズ、だいにだーん!!」

 ジャジャジャンジャジャーンと口で効果音を言いながらヒロト君が赤い服を袋から出した。

「わ! サンタ服!?」

「イエス。夏樹ちゃんにプレゼント」
「僕に!? いいの!?」
「はい」

 嬉しい……! サンタの格好してみたかったんだ!

 立ち上がってズボンのボタンを外す。途端に、スパンって音が鳴る勢いで頭を叩かれた。

「い、痛い……!?」
「ここで着替えるんじゃないわよ! 個室で着替えてきなさい」

 薫君に荷物みたいに抱えられて八鬼の勉強部屋に放り投げられてしまった。

『えー!? せっかく夏樹さんのストリップ見れるかと思ったのに……!』
『邪魔すんじゃねーよ薫!』

 ドアの向こうからヒロト君と真十郎君の声が聞こえる。

 ストリップってなんだろう。酢とリップ? 僕の酢とリップ。益々意味不明になるか。八鬼が帰ってきたら聞いてみよう。

 あれ? これ、上着だけでズボン入ってないぞ。
 ズボンを買うお金はなかったのかな?
 ヒロト君も高校生だもんね。
 上下揃えるお小遣いがなくてもしょうがない。

 白のモコモコで縁どられた上着だけを着て、帽子をかぶり勉強部屋を出る。

「おおお! ミニスカサンタ!?」
「やべぇ想像以上に来るわコレ」
「可愛いじゃない。やっぱり夏樹には男物よりこっちのほうがしっくり来るわね」

 みんながゴチャゴチャ同時に喋り出す。
 言ってることは聞こえるのに、フワフワした頭が意味を理解してくれない。

 それより、赤いズボンあったかなぁ?

 クローゼットをかき回すものの、赤い服は一つもなかった。

 うーん、どうしよう。
 上はサンタクロースなのに下がジーパンだなんて僕の美意識が許さない。サンタは赤い服でないと。



 あ、これならいいかも!

 短パン。

 これなら上着に隠れる。
 鏡の前でチェック。
 うん、完全に上着に隠れて見えなくなってる。

 完璧だ!!!

「どう、似合うかな?」


「超似合います!! この世で一番可愛いサンタです! 太腿触らせてください!」

 ドガッ! 薫君の膝蹴りが真十郎君のお腹に入る。
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