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十 織田家混乱
五
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大殿の信秀が存命ならば、信時は年内には養子に入った犬山城を継ぐはずだった。しかし、城代の従兄の信清が、信秀の死を契機に、信時が那古野へ出向むく隙に、犬山城を乗っ取り追い出した。
仕方なく信時は、再び、信長の配下へ収まったのだ。
「まあ、お善の実家への居候だから、私の勝手とは行かないが、入り婿のつもりで過ごしておる」
信時の冗談を初めて聞いた。それに、少し酔っている。
「信時、すまんな、俺の愚痴を聞いてもらってばかりで」
信時は、酒をグイっと飲んで語気を強めた。
「いいや、今日、恒興を呼んだのは、お前の愚痴を聞いてやろうと思って呼んだのではない。俺の愚痴を聞いてもらうためだ」
いつも、穏やかな信時の目が据わっている。
「なんだって! 信時、お前でも不満に思うことがあるのか」
「ああ、そうだ大有りだ。俺は、今夜、お前に洗いざらい聞いてもらう」
困ったことになった。いつも静かで控えめな男ほど、こういう時には根が深く重くなるものだ。
「おっと、腹が痛い。ちょっと厠へ……」
恒興は、厠へ立つフリをして、そのまま、帰ってしまおうと立ち上がった。
ニギリッ!
信時が、強く恒興の肩を掴んだ。
「返さぬぞ! 今日は、お前にありったけの文句を言ってやる‼」
「俺に文句だって⁉」
恒興は思いもしなかった。まさか、信時の口から、恒興に文句があるとは夢にも思わない。
「俺は、お前がお善と会うのが気にくわん!」
気づかなかった。恒興は、お善とは生まれた時からの幼馴染みだ。まさか、そんな二人に信時が、焼きもちを妬いているとは思いもいなかった。
「俺とお善⁈ まさか、信時。お前の思っているようなことはまったくない」
恒興は、手を振って信時の懸念を否定した。
「いや、俺が許せないのは、そんなことではない。お前とお善には、俺には踏み込めない目には見えない、切っても切れない絆があるのだ。俺はそれを妬いている」
そんなこと言われても返事に困る。恒興とお善には確かに絆がある。しかし、それはガキの頃から自然に生まれた姉弟のようなもので、意識して紡いだものではない。
それは、信時の言いがかりだ。
「信時、俺とお善はガキの頃から……」
「わかっている。わかっているから妬いているのだ」
恒興は、信時の叫びに言葉を失った。返す言葉がなかった。
スー!
部屋の襖が開いて、お善が膳を持って入って来た。
「勝三郎、よくお越しになりましたね。荒尾の家は懐かしいでしょ?」
「ああ……」
信時の手前、言葉がなかった。
「あら、勝三郎、随分と不愛想ね。そういえば帰蝶様がまた呼んでいたわよ」
お善は、恒興と信時の前に膳を運ぶと、恒興の隣に座った。
「お善、ちょっと、離れろ!」
お善は、尚、恒興にくっついて、
「あら、勝三郎。めずらしく照れている。おかしいわね、信時様?」
と、信時に微笑みかけた。
「そうだな……」
信時は、相槌をうったが、恒興とお善の仲の良さが気に入らないのだろう。
プイッ!
と、背を向けて手酌で酒を呷った。
「あら、信時様は本当にお酒が好きね。せっかく、勝三郎が一緒だし、仲良く、お酒を飲んだらいいのに。ごめんね、勝三郎」
お善、違うのだ。信時の心はその逆だ。お前が俺に構うから、人の良い信時は背を向けているのだ。
恒興は、お善の矛先を変えようと話を転じた。
「お善、信時との子供はまだか?」
ブーッ!
信時が酒を吹き出した。
「あらやだ、勝三郎。そんなことが気になるの?」
「当たり前だ、信時は若殿の弟でもあるのだ。その子は織田家の重席を成すのだ。早く生んでもらわねば困る」
恒興の言葉に、お善は、変な含み笑いを浮かべて、恒興の手を握り腹に手を持って行った。
「わからない?」
「なんのことだ」
「動いてないかしら?」
「えっ⁉」
信時が酒を放り出して、恒興を押しのけた。信時は、お善の腹に耳を当てて、
「お善、まさか!」
信時は、お善の目を確かめた。
お善は、微笑み返す。
「お産婆さんの話では、妊娠三ヵ月ですって」
「お善でかした! でかしたぞ‼」
「はいっ!」
「よし、こうしてはおれん。生まれてくる子供のために、良い名を考えなくてはな。恒興、知恵をかしてくれ」
信時の仮屋敷、荒尾家は喜びに包まれた。
仕方なく信時は、再び、信長の配下へ収まったのだ。
「まあ、お善の実家への居候だから、私の勝手とは行かないが、入り婿のつもりで過ごしておる」
信時の冗談を初めて聞いた。それに、少し酔っている。
「信時、すまんな、俺の愚痴を聞いてもらってばかりで」
信時は、酒をグイっと飲んで語気を強めた。
「いいや、今日、恒興を呼んだのは、お前の愚痴を聞いてやろうと思って呼んだのではない。俺の愚痴を聞いてもらうためだ」
いつも、穏やかな信時の目が据わっている。
「なんだって! 信時、お前でも不満に思うことがあるのか」
「ああ、そうだ大有りだ。俺は、今夜、お前に洗いざらい聞いてもらう」
困ったことになった。いつも静かで控えめな男ほど、こういう時には根が深く重くなるものだ。
「おっと、腹が痛い。ちょっと厠へ……」
恒興は、厠へ立つフリをして、そのまま、帰ってしまおうと立ち上がった。
ニギリッ!
信時が、強く恒興の肩を掴んだ。
「返さぬぞ! 今日は、お前にありったけの文句を言ってやる‼」
「俺に文句だって⁉」
恒興は思いもしなかった。まさか、信時の口から、恒興に文句があるとは夢にも思わない。
「俺は、お前がお善と会うのが気にくわん!」
気づかなかった。恒興は、お善とは生まれた時からの幼馴染みだ。まさか、そんな二人に信時が、焼きもちを妬いているとは思いもいなかった。
「俺とお善⁈ まさか、信時。お前の思っているようなことはまったくない」
恒興は、手を振って信時の懸念を否定した。
「いや、俺が許せないのは、そんなことではない。お前とお善には、俺には踏み込めない目には見えない、切っても切れない絆があるのだ。俺はそれを妬いている」
そんなこと言われても返事に困る。恒興とお善には確かに絆がある。しかし、それはガキの頃から自然に生まれた姉弟のようなもので、意識して紡いだものではない。
それは、信時の言いがかりだ。
「信時、俺とお善はガキの頃から……」
「わかっている。わかっているから妬いているのだ」
恒興は、信時の叫びに言葉を失った。返す言葉がなかった。
スー!
部屋の襖が開いて、お善が膳を持って入って来た。
「勝三郎、よくお越しになりましたね。荒尾の家は懐かしいでしょ?」
「ああ……」
信時の手前、言葉がなかった。
「あら、勝三郎、随分と不愛想ね。そういえば帰蝶様がまた呼んでいたわよ」
お善は、恒興と信時の前に膳を運ぶと、恒興の隣に座った。
「お善、ちょっと、離れろ!」
お善は、尚、恒興にくっついて、
「あら、勝三郎。めずらしく照れている。おかしいわね、信時様?」
と、信時に微笑みかけた。
「そうだな……」
信時は、相槌をうったが、恒興とお善の仲の良さが気に入らないのだろう。
プイッ!
と、背を向けて手酌で酒を呷った。
「あら、信時様は本当にお酒が好きね。せっかく、勝三郎が一緒だし、仲良く、お酒を飲んだらいいのに。ごめんね、勝三郎」
お善、違うのだ。信時の心はその逆だ。お前が俺に構うから、人の良い信時は背を向けているのだ。
恒興は、お善の矛先を変えようと話を転じた。
「お善、信時との子供はまだか?」
ブーッ!
信時が酒を吹き出した。
「あらやだ、勝三郎。そんなことが気になるの?」
「当たり前だ、信時は若殿の弟でもあるのだ。その子は織田家の重席を成すのだ。早く生んでもらわねば困る」
恒興の言葉に、お善は、変な含み笑いを浮かべて、恒興の手を握り腹に手を持って行った。
「わからない?」
「なんのことだ」
「動いてないかしら?」
「えっ⁉」
信時が酒を放り出して、恒興を押しのけた。信時は、お善の腹に耳を当てて、
「お善、まさか!」
信時は、お善の目を確かめた。
お善は、微笑み返す。
「お産婆さんの話では、妊娠三ヵ月ですって」
「お善でかした! でかしたぞ‼」
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※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
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