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二章 その後の物語

真実と断罪と心

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※裁判の話が始まります
お恥ずかしながら裁判の専門的な知識は存じていないので、流れ等がオリジナリティ溢れた裁判となってりおます。ご了承下さい。

改めて、記載していなかったので記しておきます。

クラウス・アデリック
(アデリック公爵家)
ステラ・リーリエント
(リーリエント伯爵家)

です。裁判で名前が直々出てくると思うので、お知らせしておきます。


長めです。時間がある時にどうぞ。
また、楽しんで頂けたら幸いです。( *´꒳`*)
読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。
___________________




「ねぇ、クラウス。お花、見ちゃダメなの?」


公爵邸の別邸にて、ヒナが頬を膨らませていた。

ご機嫌ななめな様子のヒナに、クラウスは宥める様に言う。


「ステラと約束したんだ。花が咲いたら1番最初に見せるって。だからまだ駄目だ」

「なーに頑なに約束守ってんだか…。本当に私の事愛してるの?」

「愛してるよ! ただ…これだけは守らないと、ってなんでか思うんだよ」

「ふーん」


ヒナは詰まらない、そう言いたげなぶっきらぼうな返事を返す。

クラウスの思考がステラ1色に染まっている。
それがヒナは許せなかったし、気に食わなかった。

自分を1番に優先して欲しい。
独占欲がヒナの中で蠢いていた。


「クラウス様! いらっしゃいますか!?」

「…ヒナ、隠れていてくれ」

「…うん」


ヒナは家具の物陰に隠れ、息を潜める。
それを確認した後、クラウスは扉を開けた。


「一体なんだ、騒がしいぞ」

「す、すいません…! ですが、大変なんです!」


扉を開けるとそこには顔を真っ青にしたアルスの姿があった。
アルスは息をゼェゼェと切らしながら言う。


「リーリエント伯爵と夫人が昨日の晩、宮廷の騎士達に身柄を確保されたらしく、そして今日御2人の裁判が王城で行われるとの事です…!」

「は? 一体御2人が何をされたと言うんだ?」

「それはまだ分かってはいません。旦那様と奥様がクラウス様も裁判に出席する様にとの事で、お知らせに参りました」

「そうか、分かった。少し待っていてくれ」


クラウスはそう言うと部屋へと戻る。
そして、物陰に隠れていたヒナの元へと駆け寄った。


「少し城へ行ってくる。だから今日は帰るんだ」

「……その用事、私よりも大事なの?」

「どっちも同じくらい大事だ。だがな、ヒナ。俺はこの家の嫡男だ。そしてリーリエント伯爵家の御2人とも強い繋がりがある。だから御2人の裁判となれば参加しない訳には行かない。だから機嫌を直してくれ。また明日会おう、ヒナ。それじゃあ気をつけて帰るんだぞ」


そして部屋を後にしたクラウス。
そんなクラウスにムッと頬を膨らませた後、渋々と別邸の裏口から出て行った。





▢◇▢▢▢◇◇◇◇◇◇






そして遂に伯爵と夫人の裁判が始まろうとしていた。

急に決まった裁判だったのにも関わらず、多くの貴族達が押し寄せた。
あのリーリエント伯爵家の伯爵と夫人の裁判に誰もが注目を寄せたのだ。


「ルイ。本当に参加するのか?」

「姉様の遺族ですよ、僕は。参加する権利はあると思います」

「確かにそうだが…」

「まぁ、いいんじゃねぇの? ルイくんの言う通り参加する権利があるし、重要な参考人でもあるんだから」


ルイは数少ない伯爵と夫人の行いの数々を知っている者でもある。
そう考えれば確かに裁判に参加させるのはメリットの方が強い。

しかし、アレクシアはルイの精神面での事を気にしていた。
そしてそれはもちろん、フレディもであった。

ただでさえ大切な人を亡くしたばかりで心が乱れているのだ。
そんな状況で両親の裁判に参加させる等、更にルイの心を追い詰めてしまう可能性の方が遥かに高い。
それを危惧しの事だったが、当の本人がこの様子では説得は無意味だろう。


「あの、アレクシア殿下。少しよろしいですか?」

「……2人は先に向かっていてくれ」

「りょーかい。じゃあ、ルイくん。俺っちと行こうか。あ、手でも繋ぐか?」

「場所知らないだけでしょ…? 僕が案内してあげますから行きますよ」

「げっ、バレてる…」


随分と親しげに会話する2人。

ミナは2人の姿が見えなくなったのを確認すると、話を始めた。


「すいません。突然」

「いや、構わない。何か気になることがあったんだろ?」

「はい。その…ルイ様ですが、少し味覚に異常がある様に感じます。何でもコンソメスープが苦かったとの事で…」

「コンソメスープが? 因みにそれは本当に苦かったのか?」

「ルイ様が食事をされる前に私自身が確認行った際は苦いとは一切感じませんでした。その後、もう一度厨房に確認しに行きましたが、やはりコンソメスープで苦いとは全く。ルイ様はその後、気の所為だったと美味しそうに食事を再開されましたが、その……ステラ様の病の初期症状が味覚障害でした。それで、私…」


ミナの体が震え始める。

ミナは明らかに最悪のケースを想像し始めていた。
そしてそれはもちろん、アレクシアもだった。


「報告ありがとう、ミナ。フレディさんには俺から伝えておく。裁判が終わり次第、ルイを診てもらう」

「は、はい。お願いします…」


本当は早急に診て欲しい所だが、如何せん2人はもう裁判の執り行われる場所へと向かってしまった。


「ミナは先に向かってくれ。俺は後で合流する」

「わ、分かりました。あの、もしかして…!」

「……あぁ。絶対に勝つぞ」








▢◇◇▢▢▢▢▢










「被告人、前へ」


こうして遂に伯爵と夫人の裁判が始まった。


裁判官の言葉と共に姿を現した2人。
その姿は酷くやつれていた。


「貴殿達には2つの容疑がある。1つが貴殿達の子どもに対する悪逆非道の行いの数々。そして2つ目が長女に対する殺人未遂である」


裁判官の言葉にザワつく傍観者たち。

そんなざわつきを打ち破るように声を上げたのは伯爵だった。


「無罪だ! 自分の子どもにそんな行いをする筈がないだろう!」

「無罪を主張するか。では、一体これらは何だろうか」


裁判官が見せた1枚の紙に更に会場がザワついた。
そして伯爵と夫人は目を限界にまで見開き、言葉を失った。

それは彼らが処分したはずのステラの病についての事が書き記された診断結果や処方箋だったのだ。


「これらを見るとステラ・リーリエントは病を患っていた…という事になるが、そういった情報を一切公にされていなかった。そしてそれはステラ・リーリエントと婚約を交わしていたアデリック公爵家にもその事実を伝えていなかった。間違いないか?」


裁判官が尋ねたのはアデリック公爵家の公爵。クラウスの父親であった。
そんな公爵の隣には唖然とするクラウスの姿があった。


「ステラが病気…? 一体どういう…」

「婚約者にも伝えていなかったとは。これは一体どういう理由でか、説明を頂こうか」

「それはステラが望んだからです!」

「ふむ。だが、それは違うとの意見がありそうだぞ」


裁判官が次に視線を向けたのはルイ達の方だった。


「私はステラ様の侍女をしておりました、ミナです。そして私の侍女として仕事の中にはステラ様の監視も含まれていました。全てはステラ様が病についてを公言しないようにする為です。ステラ様は言動を全て、伯爵と夫人によって縛られていたのです」

「そんなデタラメを! 証拠はあるの!?」

「それは有りません。なぜなら私が報告していた書類は全て貴方方は既に処分されてしまったからです」

「何だ、証拠も無いのか。それにも関わらずに私たちにそんな罪を償わせようとしたのか!?」

「本当に有り得ないわ…!」

「私たちは娘が自殺を図ってしまうほど娘を追い詰めた病を恨んでいる! それにも関わらずその病の存在を私たちがねじ伏せたいたなどと…!」


自殺

その言葉に更にまた会場がザワついた。

そんな中、クラウスだけが呆然としていた。

「自殺…ステラが? 」


頭の中がパンクしそうだった。
けれども、これだけでは終わらない。

次々に新たな情報がクラウスの頭へと飛び込んでくる。


「ステラ・リーリエントは自ら毒を含み、自殺を図った。病との闘病生活に嫌気がさして。それが2人の証言だったな」

「えぇ、そうです! あの子は私たちの目の前で……ウッ」


夫人はその場に崩れ落ちる。
涙を流し、声を殺して夫人は泣いた。
泣いて見せた。
娘が命の危険に脅かされ、不安で怖くて仕方ない心優しい母親を演じる為に。


「それは真っ赤な嘘です」


そう言ったのはアレクシアだった。
突然の第2王子の介入にまたもや会場がザワつく。


伯爵と夫人はまさかアレクシアが姿を現すとは思っていなかったからか、あんぐりと口を開けている。


「ステラは伯爵と夫人。貴方方2人から指示され、毒を含んだのです。そしてそれをミナは目撃しています」


アレクシアの言葉にミナは頷く。


「そしてこの場をお借りして御報告させて頂きます。ステラ・リーリエントは昨夜、息を引き取りました。死因は…彼女が元々患っていた病によるものです」


アレクシアの言葉に会場が一気に静まり返った。
あまりにも信じられない。
受け入れられない。

困惑する会場の人々。
中にはステラ泣き出してしまう人も居た。


「……ステラが、しん、だ…?」


そしてそれは、クラウスも同様だった。
愕然とし、クラウスは瞬きをも忘れ、ただ酷く動揺していた。


「毒は一切関係ありませんでした。毒は彼女が服薬していた鎮痛剤によって中和されたのです。そうですよね?」

「はい。間違いないかと。必要ならば、その過程を詳細に記した資料も準備しておりますので」


いつものおチャラけた言動はどこへやら。
真剣な眼差し、態度、言葉を発するフレディにルイは「別人だ…」と思った。

そしてルイはクラウスを見つめる。
顔を俯かせているため、その表情は見えない。


_____姉様が亡くなったことを知って、貴方は今、どんな思いを馳せてる?


そう心の中で尋ねる。
ふつふつと湧き上がってくる怒りを、ルイは堪えた。


「そしてクラリアル王国では毒の所有は医療機関以外禁止とされています。それにも関わらず、毒を所持されていた」

「し、知らない! それはステラが…!」

「入れ!」

「…!!」


アレクシアの声と同時に扉が開いた。
一気に扉へと視線が集まる。


「さぁ、入れ」

「くそ…!」


入ってきたのはアレクシアの近衛隊のメンバーと厳つい容姿をした明らかにガラの悪い3人の男たちだった。


「お、間に合ったみてぇだな」


フレディがニヤリと笑う。


そしてその男たちを見て、伯爵と夫人の様子が明らかに変わった。
焦りと不安に満ちた顔に。


「彼等のこと、ご存知ですよね?」

「っ…!」

「……自身が不利になると口を閉じる。本当に困った罪人達だ」


アレクシアはそう冷たい声色で吐き捨てると、近衛隊が連れてきた3人の男たちの元へと寄った。

そして


「お前達を雇ったのはあの2人で間違いないか?」

「あぁ、そうだよ。地図に記された病院から毒を取ってこいと指示された」

「っ…! しょ、証拠は!!」

「ほらよ」


1人の男が顎をクイッと動かす。
すると近衛隊の1人が2枚の紙を伯爵達に見せた。

その紙は契約書と地図だった。
そして契約書にはハッキリとリーリエント伯爵のサインが施されていた。


「それは処分するようにとあれ程……あ!!」

「馬鹿、お前っ!」


戸惑った夫人が思わず零した本音。
夫人はしまった、と口をおさえるがもう遅い。

アレクシアはギロリと2人を睨みつけた。


「それで……まだ容疑を否認しますか?」


アレクシアの言葉に…伯爵と夫人は顔を伏せた。


そこで裁判官が声が響いた。


「自身の子に対する暴虐非道の行いの数々、そして殺害未遂。これら全てを認めるか」


……2人はゆっくりと頷いた。
もう勝ち目がないと分かったのだろう。
いや、そもそも最初から勝ち目など無かったのだと…2人は気が付いた。


そこで裁判官の高らかな声が響き渡った。


「判決を下さす! リーエント伯爵とその夫人が起こした行いは到底許されるものでは無い! よって罪人に終身刑を言い渡すっ! 」


裁判官の判決後、伯爵がギロリとルイを睨み付けた。

そして…伯爵はルイの方へと足を向けた。

ビクリとルイの肩が揺れる。
伯爵が明らかにルイへと殺意を向けたのだ。
アレクシアがルイを引き寄せ、抱きしめたのと同時に騎士達が伯爵の身柄を抑えた。

鍛え抜かれた肉体をもつ騎士3人がかりで抑え込まれてしまえば、いくら身を捩り抵抗をしても無意味だった。

伯爵は床に伏した状態で声を荒らげた。


「お前があの時、バカな真似をしたせいで私たちは…!! さっさと殺すべきだったんだ! そうだ、ルイ! お前が居たからステラが死んだんだぞ! お前という枷があったからステラは多くの物を背負うことになって苦しんだんだ!」

「それって…どういう」

「ルイ。耳を貸すな! 早く2人を連れて行け!」


アレクシアの言葉に騎士たちが頷く。
しかし、伯爵は止まらない。


ルイのボロボロな心を…
更にズタズタに切り裂いた。


「あいつが誰にも病について話さなかった理由、それはお前だルイ! 病について話したらお前を殺すとステラを脅していたからだ! はっははははははは! 」


伯爵の高笑いがこだまする。


もう限界だった。


その瞬間、ルイはアレクシアの腕から抜け出し、部屋を飛び出した。





◇▢◇◇▢▢▢▢◇◇◇






部屋を飛び出したルイが向かった先、ステラの遺体が置かれた部屋だった。



「ちょっと君、勝手に入っちゃ!」

「僕はステラ・リーリエントの弟だ! 入る権利はある!」


そうルイは言うと、部屋に入り、扉に鍵をかけた。


そして…ルイはベッドの上で横になるステラを見つめた後、背を向けた。

瞬間…丸い瞳から溢れ出た涙。


「……僕のせいで姉様は苦しんだ…。大好きな姉様を苦しめてしまった。僕がいなければ姉様は……」


ルイはそのまま崩れ落ち、唇をかみ締め、声を押し殺して泣いた。






そして…そんなルイに寄り添い、涙を流す少女の姿がそこにはあった。
しかし、少女の姿は何故かハッキリとはしていなかった。

まるで、この世には存在しない人物の様に。





少女は____ステラは目の前で涙を流すルイを抱きしめようと試みる。
しかし、触れられず、貫通してしまう我が手を悔やみ、苛立った。


そんな事ない。
貴方の存在が何よりの支えだった。

そう伝えたいのに、その思いは声はルイには届かない。


死と生の境界線。
それはあまりにも遠く、ステラはただ苦しむルイの姿を見ている事しか出来ない自分が悔しくて…唇を噛み締めた。



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