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二章 その後の物語

朝と奇跡

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「おはよう…姉様」


早朝、ルイはステラの居る部屋へと足を運んでいた。

あの後、ステラは医務室から客室へと運ばれた。
葬儀に関してはまだ何も決まっていない。
何故ならルイが拒んだからだ。

せめて、もう少し…ステラと一緒に居たい。
そして、裁判の判決後に葬儀については決めたい。

そうルイが願ったからである。


「姉様。今日は父様と母様の裁判があるだ。2人はまだ罪を否認してる。けどね、アレクシア殿下が頑張ってくれてるんだよ! 本当に頼もしい味方だよね」


そう誇らしげに話すルイ。
しかし…その表情は悲しげだ。

ルイは眉を下げて、言った。
今にも消えてしまいそうな声で。


「僕……姉様の為に何もしてあげられなかった。そして姉様が亡くなった今も何もしてあげられない。……ごめんなさい」


ルイは溢れ出そうになる涙を堪えた。

泣いてはステラを心配させてしまう。
だから、笑うんだ。
そう強く言い聞かせる。


「ん? 先客か」

「ルイ。随分と早いな。おはよう」

「あ、アレクシア殿下、おはようございます! えっとそれと…」

「彼はフレディ。俺が呼んだお医者様だよ。フレディさん。彼はルイ。ステラの弟だ」


『弟』

その言葉にフレディはピクリと眉を動かした。

一方ルイは『医者』という言葉にピクリと反応を示した。

アレクシアから聞いていた。
何でもステラの患った病の専門医を呼んだ、という話を。



「アレクシア殿下。そろそろ…」

「あぁ、分かってる。それじゃあルイ、フレディさん。俺は戻ります」

「おう」

「は、はい」


ルイは頷く。
しかし、その表情には不安の色で染まっている。

アレクシアを引き留めようと思ったが、彼が今裁判の為に忙しくしているのをミナから聞いた。

だから邪魔をしてはいけない。

ルイはギュッと拳を握り締めた後、フレディの方へと恐る恐る視線を向けた。


すると2人視線がバッチリと重なった。


「そう怯えるなって。俺っちは怖くないよ~?」


まるで子猫と接するかのような態度である。
ルイは少しムッとする。
確かに怖そうだと思ったが、子ども扱いされるのはまた別の問題である。


「なぁ、ルイくん」

「な、何ですか?」

「もしかして怒ってる? 俺っちが間に合わなかったこと」


フレディの言葉にルイは目を限界にまで見開いた。

そして


「別に怒ってなんかいません。けど……フレディさんがもっと早く来てくれていたら姉様は助かったのかもしれない。そう思うと複雑な気持ちになります。すいません…」

「いや、そうなるのが普通だ。謝る必要なんて無い。現に俺っちがもう少し早く到着出来ていれば、延命処置が出来ていたはずだ。余命なんて壁、ぶっ壊せていた筈なんだよ」


フレディの言葉でルイは改めて思う。

____やはり、ステラは本当に亡くなってしまったのだと。
いや、本当は分かりきっている事なのだが、どうしても心が受け付けないのだ。
ステラの死を。

だから


「……姉様は本当に死んじゃったんですか? もう本当にお別れなんですか? フレディさん、姉様を生き返らせてよ……グス」


堪えていた涙が溢れた。
そして同時にフレディを困らせると分かっていた言葉をルイは思わず口にしてしまった。

そして……やはり人を頼ることしか出来ない自分にルイは嫌気がさしていた。

無力な自分が…大嫌いで仕方なかった。


「…大切な人の死をそう簡単に受け入れられねぇよな。俺っちもそうだったし。だけどな、医者って言うのは神様じゃない。だから死者を甦らせることなんて出来ねぇ」

「……そんなの、分かってます」

「けどな…ルイくんの思いは絶対にステラさんに届いてる。だから…もしかしたら奇跡っていうのが起きるかもしれねぇよ?」

「奇跡…?」


ルイは思わず復唱してしまった。

フレディは優しく微笑む。


「あぁ。こんな俺っちにもそんな奇跡があったんだ。お利口で心優しいルイくんに起こらないわけがねぇよ」

「……ありがとうございます。無理を言って困らせたのに気を使って慰めて頂いて」

「なんだ、奇跡とか信じないタイプか?」

「僕を慰めるための話としか思えないです…」

「ちとそれは可愛げなくないか? まぁ…信じるかはルイくん次第だ」


フレディの言葉にルイはステラへと視線を向けた。

奇跡

そんなものが本当にあるのならどれだけいいだろう。


ルイはステラの手を握った。


その手は___とても冷たかった。



__________________

申し訳ございません。
時間変更です。
19時頃に投稿したいと思います。
よろしくお願いしますm(*_ _)m
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