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一緒にダンジョン編
20 ドリルパンチ
しおりを挟むダンジョンは塔のような場所だった。
てっきり洞窟とかだと思ってたんだけど予想は外れた。
しかし、足を踏み入れるダンジョンは私の想像を大きく上回るほどの広さと大きさを誇っており、全部で十階まであるらしい。
まさかこうして自分がダンジョンに入る日が来るなんて思ってもいなかったので凄くドキドキしているのが分かった。私は胸に手を当て、速まってばかりの鼓動をなんとか落ち着かせようと試みる。
すると
「モンスターが出たぞ!」
そんな声が聞こえてきて、私は慌てて構える。
落ち着く暇はどうやら無いらしい。
私は魔導師だけど魔法のコントロールはまだまだなので今回は魔法は使わずにいきたい。けれどそれだったら魔導師じゃなくなってしまう。
本当はアンくんの精神力を鍛える為にと思ってギルドを訪ねた。それでメルさんのオススメを断れず今に至る訳だが、今更後悔しかなかった。
なにせ私はまだまともに魔法だって使えない。
あの時の治癒魔法はもしかしたら偶然だっただけかもしれない。
ため息が出そうになるのを堪えながら、私は目の前に現れた鋭い牙を持つモンスターへと視線を向ける。
鋭い牙に黄色いギラギラした瞳。
毛並みはボサボサで全体的に黒い毛並み。
その毛並みからでも分かる厚い肉厚…………
「……Bランクかな?」
「何が? お師匠? 」
そうアンくんに聞き返されてしまい、私は思わずハッとする。
――あれ? 私、今なんか言った?
自分でも何を言ったのかよく分かっていない私にアンくんが呆れたように呟く。
「しっかりしなよね」
「あははは。ごめん、ごめん。えっと……私達はレオン殿下のサポートだから特に出番は無いかもね」
「……これ、精神力の稽古になるの?」
「うーん……ならない、かも?」
メルさんはギルドの評判と評価を上げるために私達に期待してくれてるみたいだけど、あまり期待されすぎても困る。なにせ私はやっと家を出ることが出来、のんびり過ごしたいと思っているのだから。
でも、メルさんの頼みは断れそうに無い。
今まで人に頼られる事が無かった私にとって頼られること程嬉しいことは無いのだ。
「エデン嬢! そっちにモンスターが!」
エデン……嬢?
なんか新しい呼び名出来てる……。
そう思いながらもこちらに走ってくるモンスターを向かい打つ体制に入る。
…………取り敢えず、パンチしとこうかな。
私は拳を向かってこちらに走ってくるモンスターへと突き出す。
すると
どるぅぅぅぅぅぅ
「へ?」
私の拳がまるでドリルのように回転し、その拳がモンスターの顔面へとヒットした。モンスターはその波動で跳ね上がり、宙に浮く。そして少したった後、地面へと落ちた。
シーンと静まるダンジョン内。
皆、ポカンと口を開け私を見ている。
そしてこの状況を作り上げた私でさえも驚きを隠せずにいた。
だってパンチの威力が明らかにこの前よりも上がっていたのだから。
「お、お師匠って……やっぱり悪魔?」
「違います」
「エデン嬢。まさか世界拳王チャンピオンとか……?」
「違います」
てか、世界拳王チャンピオンって何ですかっ!?
新たな疑問が浮かんだ。
私は一つ咳払いをして
「と、取り敢えず……先に進みませんか?」
と空気を変えるべく、私は話を切り替える。
きっと今の私に対する皆の印象は«世界拳王チャンピオン»だろう。
額に伝うのは冷や汗であり、決して頑張りすぎてかいた汗などでは無い。
私は心底早くこのダンジョンをクリアしたいと思ったのであった。
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