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18 アリアside

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『お願いだからその顔、もう二度と見せないで……!』

 頬に走る激しい痛み。
 増悪に満ち鋭い視線に……思わず笑みがこぼれる。

『なんで笑ってるの!? 何なのよ、あんたは本当にっ……!!』

 そう言い残して奥の部屋へと駆け込んでいく母親の後ろ姿を見つめながら私はふと思った。

 __もう、行っちゃうの? 終わりなの?




 私、アリアは小さな村で母と平穏な日々を送っていた。
 けど、それが一変したのは……私が五歳の誕生日を迎えた時だった。

 ある日家に誰かが訪れた。
 今思えば、その人が私の実の父親だったみたい。
 母は昔、とある貴族のお屋敷にお仕えするメイドで……その貴族の愛人だったらしい。


 そして、私はそんな二人の間に生まれた子どもだったのだ。


『お母さん……? 大丈夫?』


 その日からだった。
 心優しかった母が、酒に溺れ、暴力を振るうようになったのは。


 母は四六時中お酒に溺れる生活となってからは、私が代わりに家事全般をして過ごしていた。
 そうすれば母が私に構ってくれたから。
 たまに心配の声をかければ、頬を勢いよく叩かれた。その痛みを感じた時、私は母に愛されている。存在を認識してもらえているのだと感じた。


 そんな母との生活は毎日が幸せで、ずっとこの先も続いていくことを……私は疑いもしなかった。


『肝臓の病気ですね。お酒を辞めることをおすすめ致します』

 母は病に伏せた。
 お医者様が言うには、お酒の飲み過ぎによる肝臓の病だとか。
 禁酒をすすめられた。このままでは命に危険が及ぶと言われてしまえば、私は必死になって母の飲酒を阻止しようとした。

 でも


『邪魔ばかりしないで……! あんたがいるせいで私は捨てられたのよ! なのに……あんたは憎たらしい程にあの人にそっくりな顔をしているっ! 気持ち悪い、早く私の前から消えてっ!』


 そう言って酒瓶を私に投げつける母。
 私に暴言と愛の手が飛びかかる。

 そんな騒ぎをききつけて、村の人達がやって来た。そして母を押さえ込んで、私から母を奪おうとしてきた。


 辞めてよ。
 どうしてお母さんを連れて行こうとするの?
 私はお母さんと一緒にいたいのに。

 皆、私にこう言った。

『もう大丈夫だよ』
『気づいてあげられなくてごめんね』
『これからは安心して暮らして行けるよ』
『幸福な未来を築いていこう』

 本当に、意味が分からなかった。
 皆、私に同情の目を向けてくる。
 まるで私が、可哀想な子どものように。


 私はそれ以来、孤児院に預けられた。
 本当は村長さんが養子に迎えたい……と話してくれたけど、断った。
 私はお母さん以外の子どもになるつもりなんて一切無かったから。
 それに……母を奪った人達の元に行くなんて有り得なかった。


 孤児院での生活は……とても息苦しかった。
 大好きな母がいない。
 誰も私に、愛を与えてくれる人はいない。
 早く抜け出したくて堪らなかった。
 此処は私にとって牢獄も当然だったから。

 そんな時、私は偶然耳にしてしまった。


『アリアちゃんのお母さん、▢▢◇伯爵の愛人だったらしいわよ』

『可愛そうに。捨てられて自暴自棄になってお酒に溺れてしまったのね……』


 どうやら私の大好きな母を狂わせたのは、貴族である事を……私はこの時知ってしまった。
 そして同時に母が今何処にいるのかも。

「王都の療養所……そこに行けばお母さんに会えるんだ!」

 でも、どうやって行こう。
 孤児院は成人してからでは無いと、出られない事が決まっている。
 ……ある例外を除いたら。


『え!? 王国立の学園に通いたい!?』

 孤児院のシスター達は、それはそれは驚いた顔をしていた。
 だって名門校だもの。しかも、ご貴族ばかりが通う、平民とは場違いな。

 ……正直、母を狂わせた貴族ばかりが通う学校に通うというのは苦渋の判断だった。けど、此処しか療養所に近い学校はなかったし、特待生制度を受けることができれば学費から寮費まで免除される。

 本当は王都に働きに出て、直ぐにお母さんと二人暮しを始めたい。というのが本音。
 けど、この理由だと孤児院からは出られないみたい。
 何でも、私は【家庭の都合】で預けられた子ども……らしいから。
 だから、その原因である母との接触は成人するまでは出来ない事になっているらしい。

 学園は四年制。
 ちょうど卒業が二十歳となるため、卒業と同時に成人を迎えることになる。
 王国立の卒業生となれば就職先は引く手あまたと耳にした。
 お給金のよい所に就けば、母の療養費だって十分に稼げるはず。 
 また、母と暮らせる未来を迎える事ができるだ……!




 __そんな希望持って、私が学園への入学式をあと一週間後に控えていた夜。


「母が……亡くなった?」


 希望は……呆気なく打ち砕かれてしまった。
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