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結婚式まであと6日②
しおりを挟むエリの言葉にイレーナは目を見開いた。
今、エリは何と言った…?
瞬きを忘れてしまう程に衝撃的な言葉だった。
「ふむ…。だが、イレーナ。君は子爵令嬢としての誇りが欠けてはいないかい?」
「……あー」
成程、とイレーナは思う。
2人は未だにイレーナが子爵家の令嬢であると思い込んでいるのだ。
本当はもう既に身分など剥奪され、ただの平民になった事など知らずに。
「……別に誇りも何も有りませんよ。、ですが……農業を侮辱する様な先程の発言は、撤回して頂けませんか?」
イレーナの言葉に部屋が一気にシーンと静まり返る。
後ろで待機していたルカも、イレーナの発言には驚いた様で、ギョッと目を丸くしていた。
普段ならば軽く受け流し、身を引くのがイレーナだ。
そうれば変に巻き込まれずに済むし、何より深く傷つく事も無かった。
しかし、どうしてもあの発言は聞き捨てならなかった。
「撤回? なぜ? 私は本当のことを言ったまでよ?」
さも当然、と言うようにエリは淡々と言う。
イレーナはあまりエリとの接点は無かったが、学祭の時に実行委員で一緒になった事があった。
そして……その時と同じ感情を抱いた。
___あの時の変わらない。この人は自分の思い描いた答えがこの世の全てだと思ってるんだ。
自分軸で世界は回ってる…。
所謂自己中心的な思考をした人物、という事である。
実行委員を押し付けられるような形で任せられ、けれど引き受けた(拒否出来なかった)からには、きちんと役目を果たさなければいけない。
そして参加した実行委員会での会議で初めてエリと顔を合わせる事となったのだが……その時の実行委員会の会議については今でも忘れられない。
生徒達が出すアイデアを徹底的に却下。
終いには『皆さんのアイデアは駄目駄目。見ててガッカリです。そこで、私が素晴らしいアイデアを持ってまいりました』と言って、自身が考えたアイデアを発表した。指摘に対しても耳を傾けず、『私の意見に何か不満でも?』と周囲を更に困らせていた。
……因みに、実行委員委員長はセシルであり、『いいね! 最高だ!』と言ってエリのアイデアを即決していた。
「……あぁ、でもそうね。子爵家の落ちこぼれ。家族にも見放されてセシルの心を奪えなかった女性としても欠落した貴方には、泥臭い作業が大変お似合いだわ」
そう言って弧を描くようにして笑うエリ。
心底心から小馬鹿にする様なその笑み。
明らかにわざと嫌味を言い、イレーナの心を傷付けようとしているのが分かる。
『この食事会はエリ様が計画されたものだ。恐らく、イレーナさんを精神的に追い詰めるためにね』
食事会が始まる前、ルカがイレーナにそう言った。
そして同時にイレーナもまた、やはりかと思った。
『私はもうセシルの元婚約者なのに何でわざわざそんな事をするんだろう…。別に、エリさんからセシルを横取りしようなんて考えていないのに』
『予防線…って所かもね。それか、もしくは……ただ単に性格が悪いだけかもな』
この食事会、やはりルカの想像通りイレーナの精神的に追い込むために予定されたもので間違いないだろう。
そして……その理由は圧倒的に後者だったのだと痛感した。
しかし、何故だろう。
全く苦しくない。
胸がギュッと締め付けられる事も無かった。
ただ、思わず頬を緩ませてしまった。
そして、思わず告げてしまった。
「泥臭い……ですか。私にとっては褒め言葉ですね。だって……私にとって農作業は誇りですから。それほど私も農家の色に染まってきてるって事でしょう? 嬉しいな」
そう言ってニッコリと微笑むイレーナ。
その笑顔はかつてのイレーナでは絶対に見せなかったような…無邪気さに溢れ、輝かしく、愛らしい笑顔だった。
その笑顔にエリは目を丸くしていた。
予想していた反応とは違い、驚いたのだろう。
一方のセシルはイレーナを見つめ、エリとは違った意味で驚いてるい様子だった。
「ご馳走様でした。食事が終わりましたので私は部屋に戻ります。2人の幸せの一時にお邪魔して申し訳ありませんでした。どうぞごゆっくり」
いつの間にか平らげられていた食事。
2人が無駄話をしている間にイレーナは用意された食事を完食していたのだ。
勿論、食事にばかり集中しては失礼なので、しっかり話を聞き(流し)ながら食事を堪能でき、イレーナは大満足だった。
「……益々……な」
「セシル? 何か言った?」
「いや! 何でもないぞ、エリ! 取り敢えず、食事を再開しようじゃないか。僕も頑張って芋を食べるとしようじゃないか。好き嫌いは良くないしな! うむ!」
そう言って芋をスプーンで砕いたりと試行錯誤しながら完食を目指すセシル。
そんなセシルの行動にもエリは目を見張ると同時に、ザワりと心の奥底で嫌な予感を覚えた。
一方その頃、イレーナは部屋に戻っていた。
「はぁ…美味しかったなぁ」
食事に大満足の様子のイレーナ。
大層頬を綻ばせた後、トランクから紙とペンを取り出した。
「よし…!」
そして机に向かうと、紙へと綴り始めた。
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