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夏休みも終わり、また再び学校が始まった。朝方に眠り昼前に起きるという怠惰な生活をおくっていた俺は授業中にあくびが止まらない毎日だ。どうやら木島も同じようなものだったらしく、二人仲良く睡魔と戦っている。そんな中、三咲だけは元気だ。
「きーなみ!きじま!ご飯行こ!」
昼前の世界史の眠気に負けて机と仲良くなっている俺たちを、三咲の明るい声が起こす。のろのろと頭を上げると、跳ねるように近づいてくる三咲が見えた。
「ほら!起きて!おはよう!」
「うーーー……」
「きーじま!」
「俺昼めしパス……」
木島が再び机に突っ伏して、そのまま動かなくなった。三咲が声をかけているが微動だにしない。そんなやりとりをまだ覚醒しきらない頭でぼーっと眺める。
「もう!知らないよ!木南、食堂行こ」
こくっと頷いて三咲に腕を引かれるがままに、食堂に向かった。なんで三咲はこんなに元気なんだ。
食堂は昼休みも既に始まってしばらく経っているので混雑していた。委員長がいれば一緒に食べたりするが、今日は風紀の用事があるとかでいないと聞いていた。三咲と二人で隅の方のあいた席に座る。今日のメニューは、三咲はカレー、俺は蕎麦だ。ここのところあまり食欲がない。今も温かいものや、味の濃いものを食べる気にはなれなかった。夏バテだろうか。体のだるさも食欲の無さもそう考えれば説明はつくけれど。しかし三咲はこのクソ暑い中、よくカレーなんか食べれるな…やる気なく蕎麦をつついていると、三咲が首を傾げる。
「お腹空いてないの?」
『うーん、なんかここのところ食欲ないんだよな』
「そうだったの?昨日は普通に食べてたから気づかなかった」
大丈夫?と心配そうな顔つきになる三咲に返事をしつつ考える。そういやそうだ。昨日の昼は委員長、三咲、結城先輩と食べたのだがその時は普通に食べられた。あれ、じゃあなんで“ここのところ”食欲がないというように思っていたのだろう。昨日の朝食と夕食はあまり食べられなかった。一昨日は朝は最低限だったし、昼も確かそう。夜は委員長と食べた。その時はがっつり食べた気がする。
「今日の夕ご飯どうしよっか。あんまり重くないのがいいよね」
『いや、なんか普通に食べられたりする時もあるからあんま気にしなくてもいいよ。胃もたれとかそんな感じでもないんだよな』
「そう?んー、でも最近あんまり調子よさそうじゃないよね、木南」
『あー、確かにずっと体が重いというかダルいというか』
俺がそう言うと三咲はカレーを食べる手を止めて、何か考え込んでしまった。
「あのさ……それ、欲求不満だったりしない?」
声のトーンをぐっと落として発されたその言葉に数秒固まる。欲求不満……?え、何そういう話?
「あ、違うよ!なんか誤解が生まれてる気がする。俗な方の話じゃなくてダイナミクスの方」
『Subとして欲求不満だってこと?』
Subの欲求不満。ダイナミクスはある種の体質であるため、それによる欲求が満たされないとDomもSubも体に不調を来たすことがあるのだ。
「うん。なんか木南の症状ってそれっぽいなって思って。俺も自分で体験したわけじゃないからよくわかんないんだけどさ」
Subとしての欲求不満。言われて考えてみれば腑に落ちることばかりだ。夏バテっぽくない体の芯のダルさに、不定期に訪れる食欲不振。さっきは気づかなかった共通点は、食べられていたのは委員長といた時で、食べられなかったのは委員長がいない時。
気づいた途端、苦い思いが心に広がった。相変わらず俺はSubであるということに疎いらしい。
『確かにそうかも』
「これはすっごいお節介なんだけどさ……委員長とプレイしてないの?」
『委員長は俺がDom苦手なのわかってるから全然やってない』
俺に露骨に影響が出ているということは、委員長もそうなのだろうか。世の中には恋人とダイナミクスのパートナーを割り切って分けている人もいる。でも委員長はそんなことはしないだろう。ということは恋人であってパートナーでない今の状況は俺が委員長に余計な我慢をさせてしまっているということでもある。
「そっかぁ……まあ話してみるしかないよねぇ。体調に影響でちゃってるし」
『うん。』
今日は委員長と夕ごはんを一緒に食べる予定だ。話をするちょうどいい機会だろう。だけどいったいどう話を切り出したものか。俺たちがまだパートナーになっていないのは委員長が俺を尊重してくれているからだ。それなのに『俺が欲求不満なのでプレイしてください』なんて。軽い気持ちで言い出せることじゃない。いっそのこと『委員長は俺とプレイすることをどう思いますか』と聞いてみるか。いや、それは卑怯すぎる。
そこまで考えて、はたと気づいた。
俺は委員長とプレイすること、彼がDomで自分がSubであるということを明確にすることに躊躇いはないらしい。委員長とパートナーになるということに疑問が一切無かった。俺はいつの間にか少し前進できていたのかもしれない。
さっと心が晴れた。ごちゃごちゃ考えずに素直に話をしてみよう。委員長なら大丈夫だ。
「きーなみ!きじま!ご飯行こ!」
昼前の世界史の眠気に負けて机と仲良くなっている俺たちを、三咲の明るい声が起こす。のろのろと頭を上げると、跳ねるように近づいてくる三咲が見えた。
「ほら!起きて!おはよう!」
「うーーー……」
「きーじま!」
「俺昼めしパス……」
木島が再び机に突っ伏して、そのまま動かなくなった。三咲が声をかけているが微動だにしない。そんなやりとりをまだ覚醒しきらない頭でぼーっと眺める。
「もう!知らないよ!木南、食堂行こ」
こくっと頷いて三咲に腕を引かれるがままに、食堂に向かった。なんで三咲はこんなに元気なんだ。
食堂は昼休みも既に始まってしばらく経っているので混雑していた。委員長がいれば一緒に食べたりするが、今日は風紀の用事があるとかでいないと聞いていた。三咲と二人で隅の方のあいた席に座る。今日のメニューは、三咲はカレー、俺は蕎麦だ。ここのところあまり食欲がない。今も温かいものや、味の濃いものを食べる気にはなれなかった。夏バテだろうか。体のだるさも食欲の無さもそう考えれば説明はつくけれど。しかし三咲はこのクソ暑い中、よくカレーなんか食べれるな…やる気なく蕎麦をつついていると、三咲が首を傾げる。
「お腹空いてないの?」
『うーん、なんかここのところ食欲ないんだよな』
「そうだったの?昨日は普通に食べてたから気づかなかった」
大丈夫?と心配そうな顔つきになる三咲に返事をしつつ考える。そういやそうだ。昨日の昼は委員長、三咲、結城先輩と食べたのだがその時は普通に食べられた。あれ、じゃあなんで“ここのところ”食欲がないというように思っていたのだろう。昨日の朝食と夕食はあまり食べられなかった。一昨日は朝は最低限だったし、昼も確かそう。夜は委員長と食べた。その時はがっつり食べた気がする。
「今日の夕ご飯どうしよっか。あんまり重くないのがいいよね」
『いや、なんか普通に食べられたりする時もあるからあんま気にしなくてもいいよ。胃もたれとかそんな感じでもないんだよな』
「そう?んー、でも最近あんまり調子よさそうじゃないよね、木南」
『あー、確かにずっと体が重いというかダルいというか』
俺がそう言うと三咲はカレーを食べる手を止めて、何か考え込んでしまった。
「あのさ……それ、欲求不満だったりしない?」
声のトーンをぐっと落として発されたその言葉に数秒固まる。欲求不満……?え、何そういう話?
「あ、違うよ!なんか誤解が生まれてる気がする。俗な方の話じゃなくてダイナミクスの方」
『Subとして欲求不満だってこと?』
Subの欲求不満。ダイナミクスはある種の体質であるため、それによる欲求が満たされないとDomもSubも体に不調を来たすことがあるのだ。
「うん。なんか木南の症状ってそれっぽいなって思って。俺も自分で体験したわけじゃないからよくわかんないんだけどさ」
Subとしての欲求不満。言われて考えてみれば腑に落ちることばかりだ。夏バテっぽくない体の芯のダルさに、不定期に訪れる食欲不振。さっきは気づかなかった共通点は、食べられていたのは委員長といた時で、食べられなかったのは委員長がいない時。
気づいた途端、苦い思いが心に広がった。相変わらず俺はSubであるということに疎いらしい。
『確かにそうかも』
「これはすっごいお節介なんだけどさ……委員長とプレイしてないの?」
『委員長は俺がDom苦手なのわかってるから全然やってない』
俺に露骨に影響が出ているということは、委員長もそうなのだろうか。世の中には恋人とダイナミクスのパートナーを割り切って分けている人もいる。でも委員長はそんなことはしないだろう。ということは恋人であってパートナーでない今の状況は俺が委員長に余計な我慢をさせてしまっているということでもある。
「そっかぁ……まあ話してみるしかないよねぇ。体調に影響でちゃってるし」
『うん。』
今日は委員長と夕ごはんを一緒に食べる予定だ。話をするちょうどいい機会だろう。だけどいったいどう話を切り出したものか。俺たちがまだパートナーになっていないのは委員長が俺を尊重してくれているからだ。それなのに『俺が欲求不満なのでプレイしてください』なんて。軽い気持ちで言い出せることじゃない。いっそのこと『委員長は俺とプレイすることをどう思いますか』と聞いてみるか。いや、それは卑怯すぎる。
そこまで考えて、はたと気づいた。
俺は委員長とプレイすること、彼がDomで自分がSubであるということを明確にすることに躊躇いはないらしい。委員長とパートナーになるということに疑問が一切無かった。俺はいつの間にか少し前進できていたのかもしれない。
さっと心が晴れた。ごちゃごちゃ考えずに素直に話をしてみよう。委員長なら大丈夫だ。
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