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第5章 解雇

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火というものは、消えたと思ってもいつまでもくすぶり続けるものだ。彼の想いも同じだった。不完全燃焼のまま抱き続けている想いが今もなお心にあるようだ。

そんなひた隠しにしている恋心を暴露することなど……いくら私でもできない。まして相手は人妻。おまけに義理といっても姉だ。

――これは神の啓示? 人間関係の希薄な私にもっと精進せよという神が与えた試練なのだろうか?

「ああ!」と髪を掻きむしっていると、「何やってんの?」とマミさんが私の顔を覗き込んだ。

「いえ、別に」と答える私に、マミさんは物知り顔で「分かるわぁ」と言った。いったい何が分かると言うのだろう?

「恐怖よねぇ。何をさせられるか分からないって」

どうやら仮装パーティーのことを言っているようだ。

「でもねぇ、夏乃お嬢様の無茶振りには閉口するけど……見ている分には面白いのよね。今年は楽しみだわぁ」

それは……自分には被害が及ばないと言っているのも同じではないだろうか?
嬉々とするマミさんを薄い目で見ながら反撃するように言う。

「でも、マミさんもクーラウの一員ですからそれなりには仮装するんですよね?」
「勿論。でも、ターゲットは絶対に私じゃないから、それほど被害を受けないと思うわ」

ウフッと笑うマミさんが小悪魔な夏乃お嬢様と被る。
本当、この人って……。
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