138 / 170
第6章 再就職
06
しおりを挟む
***
全く! 私という奴は……食い物に釣られるとは情けない。
食材を調達し終え早々にマンションに戻ると、樫野チーフは我が家のキッチンを占領して調理に取りかかった。
「さあ、座って!」
小一時間ほどすると、『出来上がりを待つのも楽しみのひとつよ』と言われ、自室に追いやられていた私を樫野チーフが呼び戻した。
普段私は一人だ。だから食事は対面式となっているカウンターで取っている。
でも……出来上がったばかりの料理は両親と囲んでいた四角いテーブルの三辺に並んでいた。
――懐かしい光景だ。
自然と上がる口角をそのままに、その一辺――私の指定席に腰を下ろした。
「すっごく綺麗なお料理。これ賄いじゃないですよね?」
「ミニ会席。年明けのランチに出すの」
「――ということは、もう決定している料理ですか?」
「そう」と樫野チーフがニッコリ笑った。
「年始の開業日第一弾ランチは友宏の会席って決まっているんだ」
料理を見つめながら白戸さんが言う。万感迫る思いがあるようだ。感嘆の息を吐いた。その気持ち、分かる気がする。本当に見事な料理たちだった。白戸さんだけじゃない私も感涙にむせびそうだった。でも――。
「あのぉ」と突然挙手する私を「はい、どうぞ」と樫野チーフは先生みたいに指差した。
「今日、お会いしたときから思っていたんですけど……お二人は、そのぉ、お付き合いをされているのでしょうか?」
――おまけに、樫野チーフはオネエ様全開だし……と心の中だけで呟いていると、「やだぁ、寧々ちゃんったら」と右隣に座る樫野チーフが大きな掌で私の背中をバシンと叩いた。
「いっつぅぅ」
顔を顰める私を白戸さんは気の毒そうに見ながら、「友宏の馬鹿力!」と諫める。
「あら、ごめんなさい。でも、お付き合いって……照れるじゃない」
ポッと頬を染めた樫野チーフがハニカミながら「私たち恋人同士なの」と微笑んだ。
全く! 私という奴は……食い物に釣られるとは情けない。
食材を調達し終え早々にマンションに戻ると、樫野チーフは我が家のキッチンを占領して調理に取りかかった。
「さあ、座って!」
小一時間ほどすると、『出来上がりを待つのも楽しみのひとつよ』と言われ、自室に追いやられていた私を樫野チーフが呼び戻した。
普段私は一人だ。だから食事は対面式となっているカウンターで取っている。
でも……出来上がったばかりの料理は両親と囲んでいた四角いテーブルの三辺に並んでいた。
――懐かしい光景だ。
自然と上がる口角をそのままに、その一辺――私の指定席に腰を下ろした。
「すっごく綺麗なお料理。これ賄いじゃないですよね?」
「ミニ会席。年明けのランチに出すの」
「――ということは、もう決定している料理ですか?」
「そう」と樫野チーフがニッコリ笑った。
「年始の開業日第一弾ランチは友宏の会席って決まっているんだ」
料理を見つめながら白戸さんが言う。万感迫る思いがあるようだ。感嘆の息を吐いた。その気持ち、分かる気がする。本当に見事な料理たちだった。白戸さんだけじゃない私も感涙にむせびそうだった。でも――。
「あのぉ」と突然挙手する私を「はい、どうぞ」と樫野チーフは先生みたいに指差した。
「今日、お会いしたときから思っていたんですけど……お二人は、そのぉ、お付き合いをされているのでしょうか?」
――おまけに、樫野チーフはオネエ様全開だし……と心の中だけで呟いていると、「やだぁ、寧々ちゃんったら」と右隣に座る樫野チーフが大きな掌で私の背中をバシンと叩いた。
「いっつぅぅ」
顔を顰める私を白戸さんは気の毒そうに見ながら、「友宏の馬鹿力!」と諫める。
「あら、ごめんなさい。でも、お付き合いって……照れるじゃない」
ポッと頬を染めた樫野チーフがハニカミながら「私たち恋人同士なの」と微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる