灯火屋さん(ともしびやさん)

米原湖子

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チリリーン。

「ごめんくださいまし」

美しい白髪の小柄なおばあさんです。
品の良い着物を上品に着こなし、凛と立つ姿は貴婦人を思わせます。

「いらっしゃいませ」

少女が月下美人にも似た神秘的な微笑みを浮かべ出迎えます。

「お力を拝借はいしゃくに参りました」

おばあさんは少女に勧められるまま文机近くの上がり框に腰を下ろすと、唐突にそう言いました。

「何をでしょう?」

微笑みをたずさえたまま少女はやんわりと訊ねます。そして、ゆっくり辺りを見回しました。

「ご覧の通り、店には蝋燭しかございませんが……」
「ええ、存じております」

おばあさんは深く頷き、先程より一段低い声でささやくように言いました。

「そして、こちらでは、灯火を買ったり売ったりできることも……」

少女は「そうでしたか」とニッコリ笑み頷きました。

「では、灯火を買いたいと?」
「いいえ」

おばあさんが首を左右に振りました。

「私の灯火を孫にあげたいのです」

白猫がソッと瞼を上げました。
少女はそれに気付き彼の背中を撫でます。

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

少女の問いに、おばあさんはどこか戸惑ったようにうつむいてしまいました。

コチコチと柱の大時計が時を刻みます。
それに合わせるように、蝋燭の火がユラユラと揺れます。

おばあさんは右手で左手をギュッと握り、意を決したように顔を上げると話し出しました。

「孫は今、五歳です。男の子ですからそれはもう、やんちゃで……」

紡ぎ出された言葉は愛おしい者を思う愛情が溢れていました。
そんな彼女の瞳がどこか遠くを見ます。

「――なのに体調を崩して……挙句、あと三年生きられないと宣告されました」

悔しそうにキリリと噛み締める唇がブルブル震えています。

「ですから……」とおばあさんの真剣な眼差しが少女の瞳を射貫きます。

「お願いします! 私の灯をあの子に……私は十分楽しい人生を送らせて頂きましたから……」

話を聞き終わった少女が白猫に目をやりました。
その途端、白猫が「ニャー」と一声鳴きました。



その瞬間、二センチほど残っていた蝋燭の火が、フッと消えました。


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