灯火屋さん(ともしびやさん)

米原湖子

文字の大きさ
2 / 3

今日のお客様

しおりを挟む
チリリーン。

「ごめんくださいまし」

美しい白髪の小柄なおばあさんです。
品の良い着物を上品に着こなし、凛と立つ姿は貴婦人を思わせます。

「いらっしゃいませ」

少女が月下美人にも似た神秘的な微笑みを浮かべ出迎えます。

「お力を拝借はいしゃくに参りました」

おばあさんは少女に勧められるまま文机近くの上がり框に腰を下ろすと、唐突にそう言いました。

「何をでしょう?」

微笑みをたずさえたまま少女はやんわりと訊ねます。そして、ゆっくり辺りを見回しました。

「ご覧の通り、店には蝋燭しかございませんが……」
「ええ、存じております」

おばあさんは深く頷き、先程より一段低い声でささやくように言いました。

「そして、こちらでは、灯火を買ったり売ったりできることも……」

少女は「そうでしたか」とニッコリ笑み頷きました。

「では、灯火を買いたいと?」
「いいえ」

おばあさんが首を左右に振りました。

「私の灯火を孫にあげたいのです」

白猫がソッと瞼を上げました。
少女はそれに気付き彼の背中を撫でます。

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

少女の問いに、おばあさんはどこか戸惑ったようにうつむいてしまいました。

コチコチと柱の大時計が時を刻みます。
それに合わせるように、蝋燭の火がユラユラと揺れます。

おばあさんは右手で左手をギュッと握り、意を決したように顔を上げると話し出しました。

「孫は今、五歳です。男の子ですからそれはもう、やんちゃで……」

紡ぎ出された言葉は愛おしい者を思う愛情が溢れていました。
そんな彼女の瞳がどこか遠くを見ます。

「――なのに体調を崩して……挙句、あと三年生きられないと宣告されました」

悔しそうにキリリと噛み締める唇がブルブル震えています。

「ですから……」とおばあさんの真剣な眼差しが少女の瞳を射貫きます。

「お願いします! 私の灯をあの子に……私は十分楽しい人生を送らせて頂きましたから……」

話を聞き終わった少女が白猫に目をやりました。
その途端、白猫が「ニャー」と一声鳴きました。



その瞬間、二センチほど残っていた蝋燭の火が、フッと消えました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

処理中です...