微笑み三回~萌葱色のマフラー~

米原湖子

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微笑み三回

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コチコチ、コチコチ。

暖炉の前に丸まっていた白猫がおもむろに頭を上げました。そして、おばあさんの方を見ます。

「白猫さん、見て! できあがったわ」

おばあさんが白猫の方に両手を伸ばしました。
その手には萌葱色のマフラーがしっかり握られています。

「みゃー」

白猫が『よかったですね』と言うように鳴きました。

「ああ、これでもう思い残すことはないわ」

ホッと安堵の息を吐いたおばあさんが、自分の言葉にハッとします。

「まさか……」

おばあさんの視線がロッキングチェアの方に向きました。
その瞳に、萌葱色のマフラーを抱き締めて眠るおばあさんが映ります。



『ようやく気付かれましたね』

おばあさんの心に白猫が語りかけます。

『貴女はそれを編み上げ、息を引き取りました。ですが、貴女は旅立てませんでした。微笑むことを忘れ、たった一人で亡くなったからです』

おばあさんの瞳に涙が浮かびます。

『――これをおじいさんのお墓に巻いてあげたかったの……』
『そう。そして、その思いが強かったからです』
『――白猫さんは誰? 天使? 死神?』

『いいえ』と白猫は首を左右に振ります。

『私は魂の回収屋です。孤独に亡くなった人が自らの死を悟り、旅立てるようにお手伝いする仕事をしています。ですが、魂の行き先が天国なのか地獄なのかは知りません。私は地上で魂を見送るだけなのです』

おばあさんは納得したように『そう』と言いながらマフラーを抱き締めます。

『これをおじいさんに届けてくれますか?』
『いいえ、雪は止みました。ご自身でお届け下さい』

白猫の視線を辿りおばあさんが窓の外に目を向けます。

『何て美しい光景なの……』

雪雲の隙間から幾筋もの光が地上に向かって降り注いでいるのが見えました。

その一本が窓から射し込みます。
そして、おばあさんを包み込みました。

光の先を見上げたおばあさんが「あっ」と目を見開き、歓喜の声を上げました。

『おじいさん!』

マフラーを持つ手を光りに向かって伸ばしたおばあさんが満面の笑みを浮かべます。

(微笑み三回)

白猫が目を細めます――と同時に、眩しいほどの光りと共におばあさんの魂は消えました。
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