微笑み三回~萌葱色のマフラー~

米原湖子

文字の大きさ
7 / 7

エピローグ

しおりを挟む
真っ暗な家を出る白猫の脳裏に大好きなご主人の顔が浮かびます。

あの方に会えるまで――彼に会えるならどんな苦労も厭わない。でも……まだ八十もある。

おもむろに立ち止まった白猫の頭上に無数の星が輝いています。
空気が澄んでいるから煌めく星の一つ一つがくっきり見えます。
白猫はその星々に向かって愚痴を言い始めました。

「いくら無理なお願いをしたからと言ってもこき使いすぎです!」

ようやく回収できたのは二十です。まだ八十もあります。



白猫はご主人に恋をしていました。でも、不慮の事故に遭って彼の腕の中で息絶えました。

しかし……彼への想いが強かった白猫は旅立てませんでした。

そんな白猫の前に、眩しい光りを放ったこの世の者とは思えないようなモノが現われました。

『彼に会わせてあげます。代わりに魂の回収屋になりなさい。そして、この世に止まる百の魂を救いなさい。救いの条件は微笑み三回。さすれば貴女の願いを聞き届けましょう』

白猫はそう言われて一も二もなく了承しました。



――そうでした。ごめんなさい。分かっているんです。でも、早くあの方に会いたいのです……。

白猫は泣きそうな顔で星々に向かってペコリと頭を下げ、視線を丘の下に向けました。

視線の先にカラフルな明かりが見えます。街の明かりです。

星々とは違う人工的な煌めきに、白猫の瞳からポロリと一粒涙が零れ落ちました。
賑やかそうに見えるその明かりの中に、“孤独”という二文字が見えたからです。

あの方は淋しがっていないかしら……。

雪明かりの中を白猫は再び歩き出しました。
踏み締める雪がキシキシという音を辺りに冷たく響かせます。
それは、まるで白猫の胸の痛みを代弁しているようでした。

それでも……と白猫は思います。“希望”という二文字がある。だから何があっても負けない……と。

弱気な心を振り払うように、白猫は凜と背筋を伸ばします。そして、再び雪を踏み締め前へ前へと歩み始めます。

――信じる未来を現実にするために。


(了)
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

処理中です...