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なつかしの再会~千里~(7-3)
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衛人はその日、祖父、徳治の遺品整理をしながら、九尾への供物になるものを探すという。千里は、可能な範囲で衛人を手伝うことにした。――といっても、いまだ体力は戻らず、よれよれの状態で、衛人の力になれるかどうかは怪しかったが、力仕事でなければ、なにか役に立てるかもしれない。そう思ったのだ。衛人は千里の手を引いてくれて、物置部屋に案内してくれた。
「この部屋は俺が小さい頃から、ずっと物置みたいにして使ってたんだ」
「へえ……」
そこは、この家のちょうど北側に位置していた。物置として使うにしては、ずいぶんと広く、見たところ八畳ほどはありそうだ。もみじ柄の昭和ガラスの窓は美しいが、北側にあるせいか、入る日は弱く、厚めのカーテンがかけられているのもあって、少し薄暗い印象があった。衛人はカーテンを開け、部屋の明かりを点けると、押入れの襖を開け、大きな衣装ケースを引っ張り出した。
「じいちゃん、物持ちがよかったから、服とかみんな古いんだよな。甚兵衛は数年前に買ったみたいで、比較的新しい感じだったけど……」
衣装ケースの中にはおそらく徳治が愛用していたであろう、洋服や帽子が、きれいに畳まれて入れられていた。衛人はその中から服を取り出していく。
「この辺の服は……、さすがに処分するしかないかなぁ。一応、親戚に全部見てもらうことにはなってんだけどね。幸い、そんなに量はないんだ」
「そうなんですか……」
洋服や帽子の数を見れば、衛人の祖父が質素な生活をしていたということは一目瞭然だった。高級志向でもなかったそうなので、時計やアクセサリーもほとんど持っていなかったようだ。しかし、その割には押し入れの中にたくさんの収納ケースや、段ボール箱が積まれていた。
「ここ……、ほかにはなにが入ってるんですか?」
「じいちゃんの服とか、あとばあちゃんの遺品。じいちゃん、ばあちゃんが亡くなってから、遺品整理してたみたいだけど、なかなか捨てられないって、ずっとここに取ってあったんだよ」
「おばあちゃんの……」
衛人の祖母――つまり、徳治の妻は短命だったそうで、六十五歳で亡くなってしまったのだという。衛人はまだ小学生に上がったばかりだったらしいが、この家で通夜と葬式をやったのも、親戚が大勢やってきたのもはっきり覚えていると話してくれた。
「……で、今回、俺がやんなきゃなんないのは、どこになにがあるかを明確にしておくこと。じいちゃんが見ればわかるんだろうけど、俺らじゃ開けてみないとわかんないからね」
押し入れの中には、衣装ケースと段ボール箱が積み重なって入っているが、その中になにが入っているのかを書いておくらしい。今度、正月にここに集まったとき、みんなが形見として欲しいものは持っていけるようにしておくのだそうだ。
形見、か……。
千里は、両親の形見を持っていないので、衛人や彼の親戚が少し羨ましかった。千里の母も、徳治と同様、持ち物は少なかったはずだが、それでも、なにかしら遺品になるようなものはあっただろうし、父の遺品だって持っていたはずだ。だが、世話になっていたペンションを出てくるとき、千里は不安感から逃げ出すように出てきてしまい、両親の遺品をなにひとつ持ってこなかった。形見を探す余裕もなかったのだ。
父の遺品と、母が愛用していた櫛や手鏡のひとつでも持って出てきたってよかったのに――と、千里は心の奥で、過去の自分の未熟さを悔やむ。――とはいえ、後悔したところで、やはり当時の千里ではどうしようもなかった。
「お正月、みんなが集まったら、にぎやかになりそうですね」
「うん。あ――……、心配すんなよ。千里のことは、俺からちゃんとみんなに話しておくから」
「あ、ありがとうございます……」
「それまでに、父さんには会ってもらわなくちゃな。千里のこと、ちゃんと紹介したいし」
衛人は優しく微笑んで、そう言った。千里は申し訳なさを感じながらも嬉しくてたまらない。思わず頬が緩んでしまう。衛人の家族に紹介してもらうとき、単なる同居人だとしても「ちゃんと紹介したい」と言われると、なんだか照れくさい。ただし、正月まで、自分が今の姿のまま、まともに生きていられるかどうかを思うと、やはりとてつもなく不安になった。ふわふわと浮かれた心の中に、暗く重い闇がぽとん、と落ちる。
「それにしても、きれいなもんってどんなもんがいいのかなぁ。この家にあるもので、九尾さまが気に入ってくれるもんが見つかればいいんだけど……」
衛人はため息を混じらせ、ひとり言のように呟く。衛人もまた、千里の身を気にしてくれているのだろう。彼の気持ちは嬉しかったが、この家にある遺品は、すべて衛人の祖父母の大切なものに違いなかった。九尾に供物として差し出してしまっていいものだろうか。
「でも……、ここにあるものは、おじいちゃんの大切なものなんじゃ……」
「そうだけどさ……。千里の妖力だって、なんとかして取り戻さないといけないだろ……。それに、じいちゃんは事情があればちゃんとわかってくれるし、許してくれると思うんだ。だって千里は――……」
そう言いかけて、衛人は一度口を噤む。だが、すぐに頬をぽりぽりと掻いて続けた。
「俺にとって、大事な家族だから……」
「は、はい……」
「まぁ、アレだ……! じいちゃんは俺には甘かったからさ。千里のことも、きっと多めにみてくれるって」
衛人はそう言うが、千里は心配だった。衛人に甘かったからといって、徳治が千里にまで優しいとは限らない。今となっては、家事の手伝いもまともにできなくなってしまった千里が、ここに棲むことすら反対するのではないか――と、危ぶんでしまうが、衛人は千里の肩をぽん、と叩いて言う。
「とにかく! 片っ端から開けてみよう」
そう言って、衛人は押入れの中に頭を突っ込んで、中から衣装ケースや段ボール箱を引っ張り出していく。千里はそのうちのひとつ、ひと際小さく、古ぼけた段ボール箱の蓋を開けた。ところが、その瞬間。箱の中から、なにかが勢いよく飛び出して、千里の額に勢いよくゴチンッ! とぶつかった。
衛人はその日、祖父、徳治の遺品整理をしながら、九尾への供物になるものを探すという。千里は、可能な範囲で衛人を手伝うことにした。――といっても、いまだ体力は戻らず、よれよれの状態で、衛人の力になれるかどうかは怪しかったが、力仕事でなければ、なにか役に立てるかもしれない。そう思ったのだ。衛人は千里の手を引いてくれて、物置部屋に案内してくれた。
「この部屋は俺が小さい頃から、ずっと物置みたいにして使ってたんだ」
「へえ……」
そこは、この家のちょうど北側に位置していた。物置として使うにしては、ずいぶんと広く、見たところ八畳ほどはありそうだ。もみじ柄の昭和ガラスの窓は美しいが、北側にあるせいか、入る日は弱く、厚めのカーテンがかけられているのもあって、少し薄暗い印象があった。衛人はカーテンを開け、部屋の明かりを点けると、押入れの襖を開け、大きな衣装ケースを引っ張り出した。
「じいちゃん、物持ちがよかったから、服とかみんな古いんだよな。甚兵衛は数年前に買ったみたいで、比較的新しい感じだったけど……」
衣装ケースの中にはおそらく徳治が愛用していたであろう、洋服や帽子が、きれいに畳まれて入れられていた。衛人はその中から服を取り出していく。
「この辺の服は……、さすがに処分するしかないかなぁ。一応、親戚に全部見てもらうことにはなってんだけどね。幸い、そんなに量はないんだ」
「そうなんですか……」
洋服や帽子の数を見れば、衛人の祖父が質素な生活をしていたということは一目瞭然だった。高級志向でもなかったそうなので、時計やアクセサリーもほとんど持っていなかったようだ。しかし、その割には押し入れの中にたくさんの収納ケースや、段ボール箱が積まれていた。
「ここ……、ほかにはなにが入ってるんですか?」
「じいちゃんの服とか、あとばあちゃんの遺品。じいちゃん、ばあちゃんが亡くなってから、遺品整理してたみたいだけど、なかなか捨てられないって、ずっとここに取ってあったんだよ」
「おばあちゃんの……」
衛人の祖母――つまり、徳治の妻は短命だったそうで、六十五歳で亡くなってしまったのだという。衛人はまだ小学生に上がったばかりだったらしいが、この家で通夜と葬式をやったのも、親戚が大勢やってきたのもはっきり覚えていると話してくれた。
「……で、今回、俺がやんなきゃなんないのは、どこになにがあるかを明確にしておくこと。じいちゃんが見ればわかるんだろうけど、俺らじゃ開けてみないとわかんないからね」
押し入れの中には、衣装ケースと段ボール箱が積み重なって入っているが、その中になにが入っているのかを書いておくらしい。今度、正月にここに集まったとき、みんなが形見として欲しいものは持っていけるようにしておくのだそうだ。
形見、か……。
千里は、両親の形見を持っていないので、衛人や彼の親戚が少し羨ましかった。千里の母も、徳治と同様、持ち物は少なかったはずだが、それでも、なにかしら遺品になるようなものはあっただろうし、父の遺品だって持っていたはずだ。だが、世話になっていたペンションを出てくるとき、千里は不安感から逃げ出すように出てきてしまい、両親の遺品をなにひとつ持ってこなかった。形見を探す余裕もなかったのだ。
父の遺品と、母が愛用していた櫛や手鏡のひとつでも持って出てきたってよかったのに――と、千里は心の奥で、過去の自分の未熟さを悔やむ。――とはいえ、後悔したところで、やはり当時の千里ではどうしようもなかった。
「お正月、みんなが集まったら、にぎやかになりそうですね」
「うん。あ――……、心配すんなよ。千里のことは、俺からちゃんとみんなに話しておくから」
「あ、ありがとうございます……」
「それまでに、父さんには会ってもらわなくちゃな。千里のこと、ちゃんと紹介したいし」
衛人は優しく微笑んで、そう言った。千里は申し訳なさを感じながらも嬉しくてたまらない。思わず頬が緩んでしまう。衛人の家族に紹介してもらうとき、単なる同居人だとしても「ちゃんと紹介したい」と言われると、なんだか照れくさい。ただし、正月まで、自分が今の姿のまま、まともに生きていられるかどうかを思うと、やはりとてつもなく不安になった。ふわふわと浮かれた心の中に、暗く重い闇がぽとん、と落ちる。
「それにしても、きれいなもんってどんなもんがいいのかなぁ。この家にあるもので、九尾さまが気に入ってくれるもんが見つかればいいんだけど……」
衛人はため息を混じらせ、ひとり言のように呟く。衛人もまた、千里の身を気にしてくれているのだろう。彼の気持ちは嬉しかったが、この家にある遺品は、すべて衛人の祖父母の大切なものに違いなかった。九尾に供物として差し出してしまっていいものだろうか。
「でも……、ここにあるものは、おじいちゃんの大切なものなんじゃ……」
「そうだけどさ……。千里の妖力だって、なんとかして取り戻さないといけないだろ……。それに、じいちゃんは事情があればちゃんとわかってくれるし、許してくれると思うんだ。だって千里は――……」
そう言いかけて、衛人は一度口を噤む。だが、すぐに頬をぽりぽりと掻いて続けた。
「俺にとって、大事な家族だから……」
「は、はい……」
「まぁ、アレだ……! じいちゃんは俺には甘かったからさ。千里のことも、きっと多めにみてくれるって」
衛人はそう言うが、千里は心配だった。衛人に甘かったからといって、徳治が千里にまで優しいとは限らない。今となっては、家事の手伝いもまともにできなくなってしまった千里が、ここに棲むことすら反対するのではないか――と、危ぶんでしまうが、衛人は千里の肩をぽん、と叩いて言う。
「とにかく! 片っ端から開けてみよう」
そう言って、衛人は押入れの中に頭を突っ込んで、中から衣装ケースや段ボール箱を引っ張り出していく。千里はそのうちのひとつ、ひと際小さく、古ぼけた段ボール箱の蓋を開けた。ところが、その瞬間。箱の中から、なにかが勢いよく飛び出して、千里の額に勢いよくゴチンッ! とぶつかった。
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