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なつかしの再会~千里~(7-4)
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「あぃた……っ」
「ん……?」
千里は額をさすりながら、きょろきょろと周りを見回してみる。すぐそばには、狸の置物が転がっていた。今、飛び出してきたのは、この置物だろうか。千里はそれを手に伸ばした。
「狸の置物……?」
ところが、次の瞬間。
「ちょっ、うわ……!」
「えっ?」
「それ……、タヌキじゃん!」
衛人がそう言って、慌ててそばへやってきて、狸の置物を手に取る。千里は首を傾げた。今、衛人の手の中にあるそれは、もう見るからに狸なので、それ以外にはないだろうと思うのだが、なにやら衛人は感動の再会を果たしたような表情で、その狸の置物をそっと撫でている。
ちょうど、手の平に乗るくらいのサイズで、おそらくは焼き物なのだろう。しかし、どうしてそんなものが、いきなり段ボール箱から飛び出してきたのか。あまりに奇妙だった。
「い、今、その狸さん……、箱から飛び出てきたんですけど……」
「えっ……?」
「おじいちゃんの、大事なものだったんですか……?」
そう訊ねると、衛人は頷いた。
「これさ、ばあちゃんの手作りなんだよ。たぶん昔、益子焼を習ってたから……。その頃、作ったんじゃなかったかな」
「おばあちゃんの手作り……」
「その頃、じいちゃんとばあちゃん、ずんぐりむっくりの、ふさふさした狸みたいな犬を飼っててさ。タヌキって名前だったんだ。これは、そのタヌキをばあちゃんが余った土かなんかで作ったんだよ。たしか……、箸置きを作るつもりが、でっかくなっちゃったとか、なんとか……」
「へえ……。じゃあつまり、これは……、タヌキというワンちゃんの――」
千里がそう言いかけた時だった。不意に、衛人の手の中でタヌキの置物がぶるぶるっと身震いをした。
「うわっ!」
「衛人さん……っ」
衛人の手から転げ落ちたタヌキの置物は、再び畳の上に転がった。だが、今度はさっきとは違い、しっかりと受け身を取って着地し、畳の上に四つ足で立っている。衛人は驚いたようだったが、何度か目をこすりながら、まじまじとタヌキの置物を見つめていた。もしかしたら、この家へ来てから妖怪に驚かされてばかりの彼は、耐性がついてきているのかもしれない。
「な……っ、なんだコイツ……」
衛人はそう言ったが、千里にはすでに見当がついている。これは衛人の祖母の手びねりで、飼い犬のタヌキをモチーフにしたものだ。さらに、ここに大事に仕舞われていたのだとしたら、祖父母の相当な思い入れがあったものに違いなかった。そこになにかしらの魂が宿ったり、妖が依り代にするには十分だ。
「衛人さん、これ……、もしかしたら――……」
このタヌキはおそらく、妖だろう。古いものや、人の思い入れがあるものに宿る妖。付喪神ではないだろうか――と、千里は予想した。だが――。
「おうおうおう! おめえさんたちよう!」
おそらくタヌキがそう言って、衛人がビクンッと肩をすくめる。千里も口を噤み、心臓をバクバクさせながら、体を硬直させた。すると、タヌキが続ける。
「大の男がふたりも揃って、ガタガタ怯えてんじゃねえや」
千里は、衛人と顔を見合わせる。衛人は呆然として、まだ目の前に現実を受け止めきれず、半信半疑でいるようだ。無理もない。千里だって驚いている。どう見ても、ただの焼き物のタヌキが、目の前で、まるで生きているかのように動き、しかも、しゃべっているわけだ。しかし、タヌキはそんな千里と衛人には気にもせず、後ろ足でカカカ……と耳の後ろを掻くと、次に、グイーンと伸びをしてから、その場にペタリと腰を落ち着けた。
「おいらぁ、タヌキだ。この家で昔、飼われてた犬だよ」
「えっ!」
「久しぶりじゃねえかよ、衛人」
タヌキは自己紹介をすると、まるで本当に生きているかのように、お座りをしたまま、尾を左右にブンブン振っている。ずいぶんと威勢のいい――というよりも、若干えらそうな口調のわりに、彼の態度は感心するほどに従順だ。さすがはワンちゃんだ、と千里は感心してタヌキを見つめる。
「タヌキって、あの、タヌキ……? 嘘だろ……!」
「嘘なんか吐くかよ」
「だって……、タヌキが死んだの、もうずいぶん前だぞ……。じいちゃんとばあちゃんがちゃんと焼いて庭に埋めてくれたのに、お前、成仏できてなかったのかよ」
「いやぁ、それが……、ばあちゃんが逝っちまってから、じいちゃんがひとりぽっちで寂しそうで、もう見てらんなくってよお。おいら、コイツに入って、ここでじいちゃんと暮らしてたってつーわけだ」
付喪神とは少し違うが、似たようなものかもしれない。少し訛ったようなしゃべり方で、タヌキはそう話した。しかし、彼の口調はこの辺りの訛りなのだろうか。言葉の意味が理解できないほどではないが、現代の話し方ではないような気がする。もちろん、妖ものにも、多少の言葉訛りや特徴のあるしゃべり方をする者はいるが、ここまで訛っているのは珍しい。ただし、衛人はタヌキの口調は特に気にならないようだった。
「ん……?」
千里は額をさすりながら、きょろきょろと周りを見回してみる。すぐそばには、狸の置物が転がっていた。今、飛び出してきたのは、この置物だろうか。千里はそれを手に伸ばした。
「狸の置物……?」
ところが、次の瞬間。
「ちょっ、うわ……!」
「えっ?」
「それ……、タヌキじゃん!」
衛人がそう言って、慌ててそばへやってきて、狸の置物を手に取る。千里は首を傾げた。今、衛人の手の中にあるそれは、もう見るからに狸なので、それ以外にはないだろうと思うのだが、なにやら衛人は感動の再会を果たしたような表情で、その狸の置物をそっと撫でている。
ちょうど、手の平に乗るくらいのサイズで、おそらくは焼き物なのだろう。しかし、どうしてそんなものが、いきなり段ボール箱から飛び出してきたのか。あまりに奇妙だった。
「い、今、その狸さん……、箱から飛び出てきたんですけど……」
「えっ……?」
「おじいちゃんの、大事なものだったんですか……?」
そう訊ねると、衛人は頷いた。
「これさ、ばあちゃんの手作りなんだよ。たぶん昔、益子焼を習ってたから……。その頃、作ったんじゃなかったかな」
「おばあちゃんの手作り……」
「その頃、じいちゃんとばあちゃん、ずんぐりむっくりの、ふさふさした狸みたいな犬を飼っててさ。タヌキって名前だったんだ。これは、そのタヌキをばあちゃんが余った土かなんかで作ったんだよ。たしか……、箸置きを作るつもりが、でっかくなっちゃったとか、なんとか……」
「へえ……。じゃあつまり、これは……、タヌキというワンちゃんの――」
千里がそう言いかけた時だった。不意に、衛人の手の中でタヌキの置物がぶるぶるっと身震いをした。
「うわっ!」
「衛人さん……っ」
衛人の手から転げ落ちたタヌキの置物は、再び畳の上に転がった。だが、今度はさっきとは違い、しっかりと受け身を取って着地し、畳の上に四つ足で立っている。衛人は驚いたようだったが、何度か目をこすりながら、まじまじとタヌキの置物を見つめていた。もしかしたら、この家へ来てから妖怪に驚かされてばかりの彼は、耐性がついてきているのかもしれない。
「な……っ、なんだコイツ……」
衛人はそう言ったが、千里にはすでに見当がついている。これは衛人の祖母の手びねりで、飼い犬のタヌキをモチーフにしたものだ。さらに、ここに大事に仕舞われていたのだとしたら、祖父母の相当な思い入れがあったものに違いなかった。そこになにかしらの魂が宿ったり、妖が依り代にするには十分だ。
「衛人さん、これ……、もしかしたら――……」
このタヌキはおそらく、妖だろう。古いものや、人の思い入れがあるものに宿る妖。付喪神ではないだろうか――と、千里は予想した。だが――。
「おうおうおう! おめえさんたちよう!」
おそらくタヌキがそう言って、衛人がビクンッと肩をすくめる。千里も口を噤み、心臓をバクバクさせながら、体を硬直させた。すると、タヌキが続ける。
「大の男がふたりも揃って、ガタガタ怯えてんじゃねえや」
千里は、衛人と顔を見合わせる。衛人は呆然として、まだ目の前に現実を受け止めきれず、半信半疑でいるようだ。無理もない。千里だって驚いている。どう見ても、ただの焼き物のタヌキが、目の前で、まるで生きているかのように動き、しかも、しゃべっているわけだ。しかし、タヌキはそんな千里と衛人には気にもせず、後ろ足でカカカ……と耳の後ろを掻くと、次に、グイーンと伸びをしてから、その場にペタリと腰を落ち着けた。
「おいらぁ、タヌキだ。この家で昔、飼われてた犬だよ」
「えっ!」
「久しぶりじゃねえかよ、衛人」
タヌキは自己紹介をすると、まるで本当に生きているかのように、お座りをしたまま、尾を左右にブンブン振っている。ずいぶんと威勢のいい――というよりも、若干えらそうな口調のわりに、彼の態度は感心するほどに従順だ。さすがはワンちゃんだ、と千里は感心してタヌキを見つめる。
「タヌキって、あの、タヌキ……? 嘘だろ……!」
「嘘なんか吐くかよ」
「だって……、タヌキが死んだの、もうずいぶん前だぞ……。じいちゃんとばあちゃんがちゃんと焼いて庭に埋めてくれたのに、お前、成仏できてなかったのかよ」
「いやぁ、それが……、ばあちゃんが逝っちまってから、じいちゃんがひとりぽっちで寂しそうで、もう見てらんなくってよお。おいら、コイツに入って、ここでじいちゃんと暮らしてたってつーわけだ」
付喪神とは少し違うが、似たようなものかもしれない。少し訛ったようなしゃべり方で、タヌキはそう話した。しかし、彼の口調はこの辺りの訛りなのだろうか。言葉の意味が理解できないほどではないが、現代の話し方ではないような気がする。もちろん、妖ものにも、多少の言葉訛りや特徴のあるしゃべり方をする者はいるが、ここまで訛っているのは珍しい。ただし、衛人はタヌキの口調は特に気にならないようだった。
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