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美しい供物~衛人~(8-3)
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「……言うなよ」
「言うなよって……、千里だってきっとわかってんだろ」
タヌキの言葉に、ドキッとさせられる。衛人は千里に惚れている。さっき、家を出るとき、衛人は自分の確かな想いを確信した。これまで、千里の妖力に当てられただけの、まやかしだと思っていた千里への想いは、彼が妖力を失った今も、まだこの胸にある。
朝食を一緒にとったときも、遺品整理をしたときも、昼食をとったときも、いつもより少し早い夕食をとったときも。衛人は千里への想いを確かめていた。
もしも、この恋がまやかしなら、妖力を失ったことで消えてしまうのかもしれない。衛人はそう予想しながら、同時に途方もなく寂しくなった。だから、弱った千里を連れて帰ってきてから、毎分毎秒、自分の感情を確かめていたのだ。そして今、自ら理解している。この気持ちがまやかしではないこと。衛人は心の底から彼に惚れてしまっていることに。
まやかしじゃない。きっと俺は、本気で千里のことを――。
妖力を失ったのに、衛人の胸の内で、千里への想いは膨れあがるばかりだった。この確かな想いを、衛人は玄関先で、千里に見送られながら感じていた。しかし、あのとき衛人が感じていたのは、それだけではない。
――僕は、やっと大事な人を見つけたんです。衛人さんのそばにいられなくなるくらいなら、妖力なんか要りません……!
九尾に言い放った千里の言葉。あの瞬間、衛人は胸を千里に掴まれたような衝撃を感じた。彼の言葉がなにを意味していたのか。あの状況で、どんな思いで、九尾にそれを言ったのか。それが理解できないほど、衛人は子どもではない。息がつまるほど、胸が苦しくなった。家族や同居人としてではない、友人ともまた違う、特別な感情。それが言葉に込められていることを確かに感じたからだ。
「どう見たって、千里はおめえさんにホの字だ。そんで、おめえも千里にホの字だ」
「わかってる――いや。やっと、わかったって感じかな……」
九尾に言い放った千里の言葉と、膨らみ続ける自分の気持ち。それを確かめ、衛人はようやく自分の恋がまやかしでも偽りでもなかったことを確信した。だから、玄関先で千里に告げたのだ。帰ってきたら話そう、と。彼と想いを確かめ合いたくて、衛人はそう約束した。
本当なら、家を出てくるときに、彼に想いを打ち明けてしまいたかったが、恋人になった途端、千里は衛人と一緒に行くと言い出して聞かなくなるような気がした。千里は半妖で、今は妖力を失っているとしても、男だということに変わりはない。衛人が千里を守りたい、と思うように、彼もまた衛人を守ろうとするだろう。そうして、一緒について行くと言い出すに決まっている。衛人はそう思ったのだ。しかし、どんなに千里に頼まれたとしても、夜の山が危険だとわかっていて、弱りきった今の状態の彼を連れていくわけにはいかなかった。
「妙だよな……。千里は今、妖力がないんだろ」
「そうだなぁ。ハッキリ言って、ゼロだ」
「なのに、俺……、さっき出てくるとき、すごく感じたんだ。あいつの気持ち……」
「ほう……」
「なんか、感情がリンクしてるっつーか……。変な話なんだけどさ。あぁ、今、俺と千里は考えてることが同じなんだなって、そう感じたんだよ。千里には、今、妖力がなくて、俺だって霊感も超能力もないはずなのに」
衛人の話を聞きながら、タヌキは低く唸る。
「なるほど。愛だねぇ……」
「わざわざ言うなって……。恥ずかしいじゃん」
妖力がなくなった千里は今、誰かを誘惑したり、たぶらかすことはできなくなっている。それなのに彼に見つめられて、衛人はその眼差しに囚われ、これまで以上に膨れ上がる想いを感じていた。同時に千里が、自分と同じ感情を向けていることもまた、衛人は感じたのだ。
「皮肉なもんだが……、千里が妖力をなくしたおかげで、おめえさんたちは今、素直に感情を感じ取ってんのかもなぁ」
そう言われると、思い当たる節があって、どうしようもなく照れくさい。だが、確かにタヌキの言う通りかもしれない。衛人はこれまで、どんなに千里に惹かれても、彼の妖力がある限り、それが純粋な想いだと認められなかった。ただのまやかしだと思うようにしていた。しかし、その妖力の影響がなくなった今、もう、この感情を認めるしかなくなっている。皮肉なもので、衛人が自分の気持ちを認め、向き合えるようになったのは、千里が妖力を失ったからだった。
千里と両想いってわかって……、すげえ嬉しかった。自分の気持ちが、千里の妖力ナシでもちゃんと残ってることも……。
しかし、だからこそ情けなくもなる。昨夜、千里はひとりで九尾のもとへ行って、衛人のそばにいるために、自らを犠牲にした。衛人はなんとしても彼を止めなければならなかったのに、守ってやれなかったのだ。ただ、見ていただけ。「やめろ」と叫んだだけ。それだけで、なにもできなかった。衛人は今、好きな人を守れなかった自分の情けなさを責めながら、なにがなんでも千里の妖力を取り戻そうと、気を逸らせていた。
「言うなよって……、千里だってきっとわかってんだろ」
タヌキの言葉に、ドキッとさせられる。衛人は千里に惚れている。さっき、家を出るとき、衛人は自分の確かな想いを確信した。これまで、千里の妖力に当てられただけの、まやかしだと思っていた千里への想いは、彼が妖力を失った今も、まだこの胸にある。
朝食を一緒にとったときも、遺品整理をしたときも、昼食をとったときも、いつもより少し早い夕食をとったときも。衛人は千里への想いを確かめていた。
もしも、この恋がまやかしなら、妖力を失ったことで消えてしまうのかもしれない。衛人はそう予想しながら、同時に途方もなく寂しくなった。だから、弱った千里を連れて帰ってきてから、毎分毎秒、自分の感情を確かめていたのだ。そして今、自ら理解している。この気持ちがまやかしではないこと。衛人は心の底から彼に惚れてしまっていることに。
まやかしじゃない。きっと俺は、本気で千里のことを――。
妖力を失ったのに、衛人の胸の内で、千里への想いは膨れあがるばかりだった。この確かな想いを、衛人は玄関先で、千里に見送られながら感じていた。しかし、あのとき衛人が感じていたのは、それだけではない。
――僕は、やっと大事な人を見つけたんです。衛人さんのそばにいられなくなるくらいなら、妖力なんか要りません……!
九尾に言い放った千里の言葉。あの瞬間、衛人は胸を千里に掴まれたような衝撃を感じた。彼の言葉がなにを意味していたのか。あの状況で、どんな思いで、九尾にそれを言ったのか。それが理解できないほど、衛人は子どもではない。息がつまるほど、胸が苦しくなった。家族や同居人としてではない、友人ともまた違う、特別な感情。それが言葉に込められていることを確かに感じたからだ。
「どう見たって、千里はおめえさんにホの字だ。そんで、おめえも千里にホの字だ」
「わかってる――いや。やっと、わかったって感じかな……」
九尾に言い放った千里の言葉と、膨らみ続ける自分の気持ち。それを確かめ、衛人はようやく自分の恋がまやかしでも偽りでもなかったことを確信した。だから、玄関先で千里に告げたのだ。帰ってきたら話そう、と。彼と想いを確かめ合いたくて、衛人はそう約束した。
本当なら、家を出てくるときに、彼に想いを打ち明けてしまいたかったが、恋人になった途端、千里は衛人と一緒に行くと言い出して聞かなくなるような気がした。千里は半妖で、今は妖力を失っているとしても、男だということに変わりはない。衛人が千里を守りたい、と思うように、彼もまた衛人を守ろうとするだろう。そうして、一緒について行くと言い出すに決まっている。衛人はそう思ったのだ。しかし、どんなに千里に頼まれたとしても、夜の山が危険だとわかっていて、弱りきった今の状態の彼を連れていくわけにはいかなかった。
「妙だよな……。千里は今、妖力がないんだろ」
「そうだなぁ。ハッキリ言って、ゼロだ」
「なのに、俺……、さっき出てくるとき、すごく感じたんだ。あいつの気持ち……」
「ほう……」
「なんか、感情がリンクしてるっつーか……。変な話なんだけどさ。あぁ、今、俺と千里は考えてることが同じなんだなって、そう感じたんだよ。千里には、今、妖力がなくて、俺だって霊感も超能力もないはずなのに」
衛人の話を聞きながら、タヌキは低く唸る。
「なるほど。愛だねぇ……」
「わざわざ言うなって……。恥ずかしいじゃん」
妖力がなくなった千里は今、誰かを誘惑したり、たぶらかすことはできなくなっている。それなのに彼に見つめられて、衛人はその眼差しに囚われ、これまで以上に膨れ上がる想いを感じていた。同時に千里が、自分と同じ感情を向けていることもまた、衛人は感じたのだ。
「皮肉なもんだが……、千里が妖力をなくしたおかげで、おめえさんたちは今、素直に感情を感じ取ってんのかもなぁ」
そう言われると、思い当たる節があって、どうしようもなく照れくさい。だが、確かにタヌキの言う通りかもしれない。衛人はこれまで、どんなに千里に惹かれても、彼の妖力がある限り、それが純粋な想いだと認められなかった。ただのまやかしだと思うようにしていた。しかし、その妖力の影響がなくなった今、もう、この感情を認めるしかなくなっている。皮肉なもので、衛人が自分の気持ちを認め、向き合えるようになったのは、千里が妖力を失ったからだった。
千里と両想いってわかって……、すげえ嬉しかった。自分の気持ちが、千里の妖力ナシでもちゃんと残ってることも……。
しかし、だからこそ情けなくもなる。昨夜、千里はひとりで九尾のもとへ行って、衛人のそばにいるために、自らを犠牲にした。衛人はなんとしても彼を止めなければならなかったのに、守ってやれなかったのだ。ただ、見ていただけ。「やめろ」と叫んだだけ。それだけで、なにもできなかった。衛人は今、好きな人を守れなかった自分の情けなさを責めながら、なにがなんでも千里の妖力を取り戻そうと、気を逸らせていた。
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