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美しい供物~衛人~(8-4)
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懐中電灯と、スマホの明かりを頼りにしながら、暗い登山道を進んで、一時間ほど経った頃だろうか。視線の先の茂みに、ぼうっと白く光っている場所が見えて、衛人はハッと目を凝らした。
「……タヌキ、あれかな?」
「おぉ! あれだ、あれだ!」
タヌキの嬉々とする声に、衛人はホッとして足を速め、そこへ近づいた。登山道の途中、少し道から外れた斜面にひと際大きな木が生えていて、その根元に集まるようにして、ベル型の花が咲き、青白い光を放っている。衛人は試しに懐中電灯を消してみたが、間違いなく、花は自ら光を放っているようだ。
「これが、噂に聞く妖花ってやつだぜ……。見事なもんだなぁ」
「すごいな……。本当に光ってる」
感動はそこそこにして、早速摘み取ろうと、衛人は手を伸ばす。すると「待った」をかけるように、タヌキが言った。
「衛人、根っこから抜けよ。花とはいえ、妖だからな。傷をつけられれば祟りをもらうかもしれねえ」
「抜くのはセーフなのか?」
「さあな。知らん」
あっさりと投げ捨てるように返事をされて、思わずズッコケそうになる。ここまで案内してくれたことはありがたいものの、実はテキトーに連れて来られたのではないか、と衛人は危ぶんだ。
「お……ッ、お前なぁ……」
「おいらだって妖花を見たのははじめてだ、こっから持ってってどうなるかはわからねえさ。だが、こいつの頭をちょん切って持ってくよか、根っこから抜いてやったほうが優しいだろ?」
確かに、タヌキの言う通りだ。衛人は納得して、山菜採り用のカゴを下ろし、中からナイフを取り出した。こんなこともあろうかと、衛人は祖父の山菜取りセットを持ってきているのだ。山菜取り用のナイフは、刃が真っすぐに伸びているので、普通のスコップよりも繊細な根を傷つけずに掘り出せる。こんなことを教えてくれたのも、亡き祖父、徳治だった。
じいちゃんに、感謝だな。
衛人はタヌキを胸ポケットから出して、地べたに置いてやってから、彼に懐中電灯を持たせた。そうして、妖花の群生しているところを照らしてもらいながら、慎重にそのひとつを掘り出した。
「よし……、抜けたぞ。なかなかイイ感じじゃないか?」
掘りだした妖花を傷つけないように、背負っている山菜収穫用のカゴの中に入れる。衛人は念のために、しばらく妖花を見守ったが、花は不思議なもので、土から離れてもなお、光を放っていた。
「ほんとに不思議だな……。なんのために光ってるんだろう……」
ふと、カゴの中で光を放つ妖花を見つめながら、疑問を抱いて呟く。ちょうど、その時だった。
「そいつは、山で遭難した人間の霊魂です。自分たちと同じ、迷い人を導くために光ってるんですよ」
どこからか聞き覚えのある声がして、衛人は身構える。次の瞬間、大木のすぐそばにいた衛人の目の前に、人影が降り立った。懐中電灯の光で照らす必要はない。人影は、オレンジ色の提灯を持っていたからだ。
「レン……!」
「ご苦労さまです。妖花を供物にされるので?」
「そうだ。悪いか」
「いえ。九尾さまは妖花がお好きですので、さぞお喜びになられるかと」
それを聞くなり、衛人はハッとする。
「ちょっと待て……。妖花が好きってことは……、九尾さまは妖花を知ってるのか?」
「もちろんです。妖花は九尾さまへの供物としては定番ですからね」
思わず、ガクッと頭を垂れる。定番、ということは、妖怪たちからすでに何度もそれを供えられているということ。つまり、九尾にとってそれは、物珍しいものではないはずだ。
「なんだよー……。考えることはみんなおんなじってか……」
タヌキも、衛人の胸ポケットで落胆の声を出した。すると、レンが目を細める。
「タヌキ、久しぶりだな」
「おうよ……」
「依り代の具合はどうだ? なんだか……、久しく見ないうちに、また少し小さくなったのではないか?」
「そんなわけねえだろうが。変わってねえよ」
タヌキが言い返すと、レンはくくく……っ、と笑みをこぼす。その表情はとても嬉しそうだ。妙なことに、今夜の彼は、これまでになく不思議と嫌味な感じがしなかった。
一方で、タヌキも地べたでぴょんぴょん飛び跳ねながら、手を振っている。タヌキから、レンとは昔からの友だちで、幼馴染のようなものだ――という話は聞いていたが、これは相当、仲がよかったのだろう。ふたりの慣れたやり取りから、衛人はその関係の親密さを感じた。
「昔のよしみだ。九尾さまのお社まで案内する」
「ありがとよ。助かるぜ」
衛人は、タヌキを再び胸ポケットに入れてやってから、レンに頭を下げる。ただし、衛人はこのまま九尾のところへ行くのは、気が進まなかった。レンが案内人をしてくれるのはありがたいが、妖花が供物の定番と聞けば、千里の妖力を引き換えにしてもらうには、とても足りないのではないか、と危ぶんだからだ。
「なぁ、タヌキ。まずいんじゃないかな……? 九尾さまはきっと、こんなのもらい慣れてんだよ。ほかにもっと希少価値のあるもんじゃないと……」
「千里の妖力より希少で美しいものなんて、そうはないでしょうからね。そもそも絶望的ではあります」
前を歩きながら、レンはそう言って振り向き、ふっと笑みをこぼす。そのスカした態度に、衛人はたまらずに鼻を鳴らした。
いいヤツ発言、撤回……! やっぱ、コイツ性悪なんじゃねーか……?
この化け狐は、最初からそうだとわかっていて、バカにしたのかもしれない。美しいものを供物にすれば、妖力を取り戻せるなんて、安易に期待を持たせて、まるで協力するような姿勢を見せてから、パッとはしごを外して、もてあそんで楽しんでいるのかもしれない。衛人はじろりとレンを睨んだ。
「レン。お前、さては俺らを騙しておもしろがってんだろ……」
衛人の言葉に、レンは肩をすくめ、かぶりを振る。
「とんでもない、騙そうなんて気はこれっぽっちもありませんよ」
「嘘だね」
「嘘なんか吐きません」
「どうだかな」
「……タヌキ、あれかな?」
「おぉ! あれだ、あれだ!」
タヌキの嬉々とする声に、衛人はホッとして足を速め、そこへ近づいた。登山道の途中、少し道から外れた斜面にひと際大きな木が生えていて、その根元に集まるようにして、ベル型の花が咲き、青白い光を放っている。衛人は試しに懐中電灯を消してみたが、間違いなく、花は自ら光を放っているようだ。
「これが、噂に聞く妖花ってやつだぜ……。見事なもんだなぁ」
「すごいな……。本当に光ってる」
感動はそこそこにして、早速摘み取ろうと、衛人は手を伸ばす。すると「待った」をかけるように、タヌキが言った。
「衛人、根っこから抜けよ。花とはいえ、妖だからな。傷をつけられれば祟りをもらうかもしれねえ」
「抜くのはセーフなのか?」
「さあな。知らん」
あっさりと投げ捨てるように返事をされて、思わずズッコケそうになる。ここまで案内してくれたことはありがたいものの、実はテキトーに連れて来られたのではないか、と衛人は危ぶんだ。
「お……ッ、お前なぁ……」
「おいらだって妖花を見たのははじめてだ、こっから持ってってどうなるかはわからねえさ。だが、こいつの頭をちょん切って持ってくよか、根っこから抜いてやったほうが優しいだろ?」
確かに、タヌキの言う通りだ。衛人は納得して、山菜採り用のカゴを下ろし、中からナイフを取り出した。こんなこともあろうかと、衛人は祖父の山菜取りセットを持ってきているのだ。山菜取り用のナイフは、刃が真っすぐに伸びているので、普通のスコップよりも繊細な根を傷つけずに掘り出せる。こんなことを教えてくれたのも、亡き祖父、徳治だった。
じいちゃんに、感謝だな。
衛人はタヌキを胸ポケットから出して、地べたに置いてやってから、彼に懐中電灯を持たせた。そうして、妖花の群生しているところを照らしてもらいながら、慎重にそのひとつを掘り出した。
「よし……、抜けたぞ。なかなかイイ感じじゃないか?」
掘りだした妖花を傷つけないように、背負っている山菜収穫用のカゴの中に入れる。衛人は念のために、しばらく妖花を見守ったが、花は不思議なもので、土から離れてもなお、光を放っていた。
「ほんとに不思議だな……。なんのために光ってるんだろう……」
ふと、カゴの中で光を放つ妖花を見つめながら、疑問を抱いて呟く。ちょうど、その時だった。
「そいつは、山で遭難した人間の霊魂です。自分たちと同じ、迷い人を導くために光ってるんですよ」
どこからか聞き覚えのある声がして、衛人は身構える。次の瞬間、大木のすぐそばにいた衛人の目の前に、人影が降り立った。懐中電灯の光で照らす必要はない。人影は、オレンジ色の提灯を持っていたからだ。
「レン……!」
「ご苦労さまです。妖花を供物にされるので?」
「そうだ。悪いか」
「いえ。九尾さまは妖花がお好きですので、さぞお喜びになられるかと」
それを聞くなり、衛人はハッとする。
「ちょっと待て……。妖花が好きってことは……、九尾さまは妖花を知ってるのか?」
「もちろんです。妖花は九尾さまへの供物としては定番ですからね」
思わず、ガクッと頭を垂れる。定番、ということは、妖怪たちからすでに何度もそれを供えられているということ。つまり、九尾にとってそれは、物珍しいものではないはずだ。
「なんだよー……。考えることはみんなおんなじってか……」
タヌキも、衛人の胸ポケットで落胆の声を出した。すると、レンが目を細める。
「タヌキ、久しぶりだな」
「おうよ……」
「依り代の具合はどうだ? なんだか……、久しく見ないうちに、また少し小さくなったのではないか?」
「そんなわけねえだろうが。変わってねえよ」
タヌキが言い返すと、レンはくくく……っ、と笑みをこぼす。その表情はとても嬉しそうだ。妙なことに、今夜の彼は、これまでになく不思議と嫌味な感じがしなかった。
一方で、タヌキも地べたでぴょんぴょん飛び跳ねながら、手を振っている。タヌキから、レンとは昔からの友だちで、幼馴染のようなものだ――という話は聞いていたが、これは相当、仲がよかったのだろう。ふたりの慣れたやり取りから、衛人はその関係の親密さを感じた。
「昔のよしみだ。九尾さまのお社まで案内する」
「ありがとよ。助かるぜ」
衛人は、タヌキを再び胸ポケットに入れてやってから、レンに頭を下げる。ただし、衛人はこのまま九尾のところへ行くのは、気が進まなかった。レンが案内人をしてくれるのはありがたいが、妖花が供物の定番と聞けば、千里の妖力を引き換えにしてもらうには、とても足りないのではないか、と危ぶんだからだ。
「なぁ、タヌキ。まずいんじゃないかな……? 九尾さまはきっと、こんなのもらい慣れてんだよ。ほかにもっと希少価値のあるもんじゃないと……」
「千里の妖力より希少で美しいものなんて、そうはないでしょうからね。そもそも絶望的ではあります」
前を歩きながら、レンはそう言って振り向き、ふっと笑みをこぼす。そのスカした態度に、衛人はたまらずに鼻を鳴らした。
いいヤツ発言、撤回……! やっぱ、コイツ性悪なんじゃねーか……?
この化け狐は、最初からそうだとわかっていて、バカにしたのかもしれない。美しいものを供物にすれば、妖力を取り戻せるなんて、安易に期待を持たせて、まるで協力するような姿勢を見せてから、パッとはしごを外して、もてあそんで楽しんでいるのかもしれない。衛人はじろりとレンを睨んだ。
「レン。お前、さては俺らを騙しておもしろがってんだろ……」
衛人の言葉に、レンは肩をすくめ、かぶりを振る。
「とんでもない、騙そうなんて気はこれっぽっちもありませんよ」
「嘘だね」
「嘘なんか吐きません」
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