墻壁の公爵とつがいの小鳥

シロツメクサ

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プロローグ

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「ふふん、ほら、貴方を受け入れてあげる! わたしを好きにしていいのよ」
 
 得意げな表情と共に、ざくろのような色の瞳がとろりと甘く蕩ける。普段は耳の後ろで二つに巻いてまとめているはずの柔らかい桃色の髪が、薄いネグリジェを纏っただけの白い肌にふわりとかかった。
 見せつけるようにして肩の紐をはらりと落とし、感情の昂りを表すかのように、その背で髪と同じ桃色の小さな羽が、ぱたぱたとはためいて。
 
「……」
 
 けれどその美しい女に跨られている黒髪の男は、控えめに形容しても死んだ目でそれを見上げ、その温もりが夢でないことをさまざまな要因から確認したあと──頭痛を堪えるようにして、そっとこめかみを手で押さえた。
 男の心情を示すように、幾つかその肌に浮かぶのと同じ灰色の鱗に覆われた長い尾が、柔らかな寝台を重い音を立て何度も叩く。
 
 家具や装飾品のどれをとっても最高品質でありながら、主人の性質を表すように殺風景なこの広い部屋は間違いなく見慣れた男の寝室で、窓から差し込む月明かりは青白くぼやけている。
 普通なら、これほどにわかりやすく夜分に据え膳として意気揚々と乗り込んできた女に、手を出さない理由などないと誰もが考えるに違いない。
 
 ましてや知らない仲ではない──どころではない。
 この美しい女は、男の本能が運命のツガイと認めた、この世で唯一無二の存在なのだから。
 
 ……──けれど。
 
「え……カ、カゲ? どうしてそんな無の表情なのよ……」
 
 不安そうな表情で首を傾げるその姿は、打って変わって年相応に見える。当たり前だろうがと舌を打ちそうになって、男──カゲはどうにかそれを飲み込んだ。それでも絞り出した声は、控えめに言っても唸るようだった。
 
「……取り敢えずそこを退け、チビモモ。──オマエ、自分が何やってんのか何一つ分かってねェだろ」
 
 砂糖を煮溶かしたような声はいとけなく、ねだるように男の鱗を辿るその手は性差という言葉では誤魔化せないほどに小さい。
 ……女という形容の前に、ひとつ、「幼」という字を入れなくてはならないくらいには、小さい。
 
 ────つまりは男の寝室に夜這いに来たのは、年端もいかない幼子だった。
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