元・社畜とオーク ~コピースキルで【異世界行商】始めました~

たいよう一花

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04-3. 親切なオーク 3

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「これ、スーツって言うんです。俺のいた国のサラリーマンの、仕事服なんですよ」

 スーツとかサラリーマンとか、自動翻訳でどの程度相手に伝わっているのか不明だったが、雪成はもう、深く考えないことにした。話しているうちにだんだん疲れてきて、考えを巡らせるのも億劫(おっくう)になってきたからだ。
 雪成のその様子に気付いたのだろう、オークは「ちょっと待っていてくれ」と言って席を立つと、何かの液体と食べ物を手に戻ってきた。

葡萄水ぶどうすいとサツマイモのふかしたものだ。嫌いでなければいいのだが……」

「あ、好きです、葡萄もサツマイモも。ありがとうございます」

 見たところ、その食物は雪成のよく知るものと大差はない。匂いもよく似ている。
 それに、「サツマイモ」と翻訳されたところを見ると、神様が授けてくれた自動翻訳はかなり精密のようだ。「薩摩(さつま)」という土地のないこの異世界では別の名前が付いているだろうが、雪成が理解できる名称に置き換えてくれたのだろう。
 そう思いながら、雪成はサツマイモを食べてみた。ほくほくした馴染みのある感触と素朴な甘さ。まさに、サツマイモだった。雪成はうんうんと頷きながら、今度は葡萄水を口に含んだ。

「わ……美味しい……」

 酸味を伴った豊かな甘さが喉を下り、瑞々しい葡萄の香りがふわっと漂う。雪成はホッと一息ついた。
 オークは自分も同じものを飲み食いしながら、静かに話し始めた。

「ここは人間たちの暮らす世界だ。魔物の俺はこことは別の、魔界と呼ばれる世界で生まれたため、この世界について充分に知っているとは言えないが、疑問があれば何でも教えよう」

「ありがとうございます。というと、ここはあなたの国……ではないんですね?」

「ああ。今いるこの森は、『神聖ノルシャル王国』と呼ばれている国の、南の端にある。この世界には他にも数多くの国があり、それぞれに特色がある」

 オークの王国じゃなかったんだ……と雪成はどこか残念な気持ちになりながら、オークの声に耳を傾けていた。

「この『神聖ノルシャル王国』は、この辺りで一番の大国だ。今いるこの森を北側に抜ければレザン村があり、そこから少し離れた場所に町がいくつか点在している。更に北上すると王都があり、そこでは多くの人々が暮らしている。王都には立派な神殿もある。先程おまえの話に出てきたノルとシャルというのは、この国の守り神で、姉神と弟神の双子神らしい」

「やっぱり神様なんですね……」

「ああ。俺は余所者(よそもの)だからよく知らないが、この国に住む者は皆、熱心に双子神を信奉しているようだ。だから先程の話は、あまり人にしない方がいい。神に会うのは王か神官、それに選ばれた勇者にしか許されないことだと、偏(かたよ)った信仰心を持つ者もいるからな。嘘つき呼ばわりされるだけならまだしも、最悪、投獄されるかもしれん。神を貶(おとし)める不届きものだ、と」

「……え……それは怖い……。気を付けます」

 雪成は泣きそうな気持ちになってきた。見知らぬ世界で投獄される恐怖が原因ではなく、オークの親切に感情を揺さぶられたからだ。
 初対面かつ身元不明の雪成の話を、オークは「丸ごと信じる」と言ってくれた。その紳士的で誠実な態度に、雪成はこの世界で初めて会ったのが彼で本当に良かったと思う。自分の授かった「女神ノルの幸運」の威力が発揮されていることをひしひしと感じた雪成は、この際、彼を全面的に頼ることにした。

「あの、もしご存じでしたら教えてください。神様がくださった、無限収納空間ってどうやったら使えるんでしょう?」

「ステータスを介して使うのではないかと思う。『ステータスを開く』と念じれば、自分のステータスが目の前に表示される。やってみるといい」
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