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ハイカブリ(同居人×女主/王子×女主/複数/媚薬/歪/二穴)
私のヒーロー_3
しおりを挟む緊張と恐怖から喉が渇いていたのだろう。淹れたばかりで熱のある紅茶をノイは無言で飲み干すと、まだ少し震えている自分の手のひらを見つめた。
「大丈夫ですか? フレリア」
「え、えぇ……。大丈夫」
「良いか? 無理するな」
「うん、分かってるから」
「……あまり、声をかけない方が……?」
「ううん、そんなことないよ。嬉しいもの。……ありがとう」
こういう目に合うのは、初めてではない。先の赤ずきんでも、似たような目にはあった。回数起こったからといって到底慣れるものではないし、慣れて良いものでもない。自分が今、現実世界にいないということと、これが自分の身体ではないということ。身体の持ち主、物語の主人公には非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、それだけが安心できる材料だった。
「……すぐに戻りますよ。母も心配しています。これ以上帰りが遅くなってしまっては、いつ乗り込んでくるかもわからない」
「お母様は、知ってるの……?」
「あー、あっちの方が俺達よりもブチ切れモードかもしれないな。髪の毛とか、逆立ってんじゃねぇの?」
「母なら私達を見送ってくださいましたよ。鬼の形相と、王子への罵倒と共に」
「……想像がついてしまったわ……」
確かに、あの継母ならそうなりかねない。フレリアのことを大事にしているのは、言葉の端々やその態度からもよく分かった。
“……この世界の灰かぶりは、幸せかもしれないわね”
継母や姉に虐げられている人生しか知らない灰かぶり。彼女もこんな風に家族に思われる人生があったのか。まだ話の途中なのに、まるでもう終わりのような感想が頭に浮かんだ。
“濃い、濃いのよ、ここまでが……”
それが、今のところのこの話の、率直な感想だった。
「――あの、お茶のおかわりは……」
「ありがとうございます。ですが、結構です。家族も心配していますので、そろそろ帰らせていただきますね」
「……はい」
「そうだ。別に、今回の話を表に出すつもりはない。だが、王子への対処は必ず俺達に報告するように。それによっては、こちらも考えがある、と王様に伝えてくれ」
「わ、分かりました」
「そんなに怖がらないでください。彼の言う通り、大事にするつもりはありません。ご本人にお伝えしましたが、王は必ず正しい判断をしてくださる――と、そう信じておりますので」
「……必ず、伝えます」
「えぇ。それでは」
「じゃあな」
「……お茶、ありがとうございました。お菓子も。……美味しかったです」
「ありがとう、ございます」
深々と頭を下げた使用人達に見送られ、城を後にする。ノイはおぼつかない足取りだったが、その状態を見たシアは馬車を手配し、家までそのまま帰宅することにした。……馬車の中ではみな無言だった。車輪の回る音と馬の蹄が地面を蹴る音が辺りには響いている。初めに一言二言、フレリアを心配する言葉が上がった。が、馬車から見える景色を、まるでここではないどこか遠くを見つめるようなフレリアの視線に、シアもランスももう何も言わなかった。
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