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「お兄様といえば……私のお兄様なんてどうかしら?」

 ミランダの言葉を聞いて、ふと思いついたようにナディアがポンと手を叩いた。

「ご遠慮させていただきたく」

 それに対して私は即答。即答ですよ。

 ナディアのお兄様……それ即ちナディアの家である公爵家長男。ナディアと同じ青みがかった髪と瞳をもち、整いすぎて恐いくらいの美形な人。

 ……でもって変人。
 どこが、とは言わないでおこう。あまり思い出したくないので。ナディアが幼い頃からの幼馴染であるから、当然彼とも昔から知り合いなのだよ。

「あら、それいいんじゃないの?」
「いやソーニャ、良くないよ。あの人は……ラディは公爵家の後継ぎでしょうが」

 そう。そもそもナディアの兄であるラディは長男であり一人息子。ナディアは彼の2歳下で、更にナディアの5歳下にも妹が居る。
 絶対的必然的に、彼が後継者なのだ。

 だがナディアは「大丈夫よ~」とあっけらかんと言ってのけた。何が。何が大丈夫なのよ。

「お兄様、昔っからリフィの事が大好きだったでしょ?セブールとの婚約が決まった時なんてこの世の終わりのような顔してたもの」
「あらそうなの?だからラディ様って未だに婚約者が居ないのね?」

 ナディアの言葉に、ソーニャが納得いった、という顔をする。

「そうそう。このままいけばきっと誰とも結婚せず、結局私かミディーナの子供が後継になるだろうから。だからお父様も、別にラディお兄様が後を継がなくてもいいかなって思ってきてるみたい」

 ミディーナとはナディアの5歳下の妹ね。

「え~そうなんですかあ」

 ミランダが間延びしながら驚いたような声を出す。そんなミランダに大きく頷くナディア。「でもね」とそこで声を潜めてボソボソと彼女は「それをお父様はお兄様に言えないみたいなの」と小声で言うのだった。いや今私ら以外居ないし、別に声潜める必要ないよ?何となくか?

「どうして?」
「それ言っちゃったら、『それなら自分がリフィの婚約者になれたじゃないか!!』って泣いて暴れるから。だからお父様も言えないみたい」

 泣いて暴れるって!どんだけですのん!

「あらあら。リフィ、愛されてますわねえ」
「ミランダ、違うと思う……」
「お兄様は昔からリフィを猫可愛がりしてましたものねえ」
「いやナディア、あれは可愛がってるとは……」
「いいじゃない!リフィ一筋なら文句なしのお相手じゃなくって?」
「ソーニャ、他人事だと思って……」
「他人事だからね!」
「いっそ清々しいまでに正直ね!」

 私以外の三人はニコニコしながら、実は絶対内心ニヤニヤしてる顔で私にラディ様を押してくるのだった。

 くそう、親友なんて一瞬にして悪友となるのね!!




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