【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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第一章 戻る時間

4、

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 当面の課題は、お祖父様の病の原因を究明し、延命させること。お祖父様の亡くなられた年齢は、平均寿命よりもかなり短い。頑張って長生きしてもらえれば、父を筆頭とする愚かな領土支配はまぬがれるのだから。
 考えにふけっていたが、メイド達の掃除する音にようやく我に返る。
 打開策は思いつかないものの、何をすべきか理解し、私は自室へ戻ろうと祖父の部屋を出た。

 戻る途中──会いたくもない奴に会ってしまったけれど。

「あら、お姉様」

 義理の妹、ミリスである。
 美しい金の髪を一つにまとめて、見かけた私へと駆け寄って来た。返事もしてないし呼んでもいないのだけれど。

「大丈夫でした? 大変でしたわね。それにしても、今日は仕置きが終わるの、早くありませんか?」

 大丈夫かって?
 大変だったなって?
 早かっただと?

 お前が言うな!
 この娘は、誰のせいで閉じ込められたか理解出来てるのだろうか?

 イラッとしたので、その感情のままにギロリと睨みつけたら「ひっ……」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。そうよ、不必要に近づかないで頂戴、不愉快だわ。

「ミリス」
「は、はい?」

 このまま無言で立ち去っても良かったのだけれど、いい加減何かを言っても良いと思う。そうして私は睨みながら口を開いた。

「お祖父様の壺を割ったのは自分であること、ちゃんと正直に言ってきなさい」

 今お祖父様は機嫌が良い。きっと大した罰は受けないだろう。
 それが分かってるから言った、私の一応の温情。

 だが、そんな事は分からないミリスは、みるみるうちに目に涙を溜め……そして頬を濡らすのだった。

「酷いわお姉様! 私がお祖父様にお仕置きされても良いのですか!?」

 何を言ってるのだお前は。
 ではお前は、私が罰を受けるのは良いと思ってるの?
 そう言おうとしたのだけれど、それより早く登場した人物に私は内心ため息をついた。

「ミリス!? どうしたんだ、リリアに虐められたのか?」
「お兄様! お姉様が……お姉様が酷い事を言うのです!」
「リリア! お前はどうしてそんな酷い事が出来るんだ!?」

 笑ってもいいでしょうか?
 大声で笑ってもいいかしら?

 私は兄に冷たい目を向けながら、心の中で呟いた。

 お前は私とミリスの会話を聞いていたのか?
 聞いてないなら……

「お兄様は引っ込んでてください。これは私とミリスの問題です」
「そんなわけないだろう! 俺はお前たちの兄だ! 妹のミリスを虐めるお前を放っておけるはずがないだろう!?」

 だからお前は何を見たのだ!?

 怒りで頭がおかしくなりそうになるのに、逆に頭が冷えるのが不思議だ。
 かつては兄に言い返す私も居た。
 だが何度も人生をループした私は、もうそんなことをしない。それは愚行だ。兄に言い返せば、もれなく両親のどちらか……へたすれば両方が出てきて、私が責められるのだから。

 冷静になれ。自分に言い聞かせる。

 冷静になると、気になることが出てきた。そういえば、とふと思ったのだ。

「そういえばお兄様」
「な、何だ……」

 自分でも分かるくらいに冷たい目、冷え切った声で兄を呼べば、11歳の兄はビクッと体を震わせた。

「ミリスが割った壺、私のせいにしましたよね? おかげでお祖父様に怒られたではありませんか。私に謝ってください」
「そ、それがどうした!? 姉なら大事な妹の罪をかぶるくらいのことをして当然……!!」
「当然? ではお兄様がミリスの罪をかぶれば良かったではありませんか」

 そうすれば、後継者である兄に、祖父はそれほど酷いことはしない。一番平和的解決が望める方法。
 だというのに、兄は私を犠牲にするのが当然だと言ってのける。

「兄である貴方は何をしたんですか? 妹が大事? 私もあなたの妹なのですが? 兄である貴方は私を庇うどころか、私を犠牲にしましたよね?」
「そ、それは……」

 所詮は11歳の子供。何度もループして、精神年齢はすっかり大人になってる私の気迫に勝てるわけもない。

 ジリと近づく私に対し、兄は涙目になりながらジリと後退する。

 だが逃がさない。
 素早く手を伸ばした私は──

ガッ!!

 その胸倉を掴んだ!

「お兄様!」
「うぐ!?」

 ミリスと兄の悲鳴が廊下に響き渡るが、私は気にせずグッとそんな兄に顔を近づけた。鼻と鼻の距離5センチ。

 闇より黒くて恐ろしいと言われた瞳で、兄の春の葉のような緑の瞳を睨みつける。

「ひ──」

 なんと間抜けな兄。弱い兄。
 こんな奴にいいようにされてたのかと思えば、情けなくなってくる。

「次、同じ事をしたら容赦しない」
「──!?」

 ボソリと低い声で呟き、私は思い切り兄を突き飛ばした。

「うあ!!」

 情けない声を出して床に転がる兄。

 私はそれを冷たく見下ろし、無言でその場を立ち去るのだった。

 背後から聞こえる声はない。
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