【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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第一章 戻る時間

5、

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「ああきたない。あんなのを触って手がよごれたわ」

 兄の胸倉を掴んだ手をペッペッと振り払い、私は急ぎ自室へと戻る。手を清めたいとメイドに命じれば、すぐに用意がなされた。
 まだこの頃は、メイドも私の命に従うのだ。
 だがそのうちメイドは居なくなる。祖父が亡くなり父が爵位を継ぐと、父はありとあらゆる節約を始めることとなる……自分の金を増やすために。無駄だからと、私付きのメイドは全て解雇されるのだ。
 両親兄弟、ミリスのメイドも一部を除いて大半が居なくなった。
 そんなことをして、両親達も不便であるはずなのに。ではどうするのか。答えは簡単、家族は私をメイドとして扱うのだ。

 いいようにこき使われる日々。あらゆる用を命じられ、かと思えば急に呼び出され、少しでも遅れたら折檻された。父の振るう拳は痛かった。母が振るう鞭は恐ろしかった。

 贅沢の限りを尽くしながら、自分達以外のことにはとことんまでケチり、私に全ての苦行を押し付ける家族。

 そんなことは、二度とさせない。
 何度もループしてるうちに、嫌でもメイドとしての仕事に慣れた。だが反抗してそれをやらなかったこともある。

「そういえば、お父様に殴り殺されたこともあったっけ……」

 勇気をもって反抗したら、父が恐ろしい形相で殴って来た。激高した父は己の心を制御することができず、死ぬまで私を殴り続けたのだ。何度も死に戻りすぎて忘れていたけど、処刑エンドではなく虐待死もあったなと思い出して顔をしかめた。
 あれもまた祖父が亡くなってからだから、14歳以降。

「なんとしても、お祖父様の病を克服しなければ……」

 現在私は10歳で、祖父が病気を発症するのが13歳のとき。闘病一年で祖父は亡くなる。
 つまり、発症するあと三年のうちに、どうにかしなければならないということ。

「まずは医者に話を聞くのが賢明かな?」

 公爵家お抱えの医者には何度か会ったことがある。
 執事にでも命じて呼んでもらおうか。
 そう思い、立ち上がった。
 その時、突然バタンと勢いよく部屋の扉が開け放たれた。

「リリア!」

 父が血相変えて部屋に飛び込んで来たのである。その顔を見て、うんざりする。その顔は怒りで真っ赤になっていたから。
 チラリと見れば、父の背後に兄とミリアが見て取れた。
 なるほど、父に救いを求めたか。

「なんでしょう、お父さ……!」

 お父様と、最後まで発言することはかなわなかった。突如頬に熱が走り、私の幼い体はいとも簡単に吹き飛んだから。
 椅子にしたたかに体をぶつけ、ガタンと音を立てて椅子が倒れる。私もまた、床に倒れ込んだ。心配する声はかからない。

「貴様、アルサンとミリスに酷いことをしたらしいな!?」

 兄と義妹の名を口にして、父は倒れ込む私に向かってズカズカと近付いてきた。
 グイと胸倉を掴まれ、強引に体が起こされる。全身が痛くて、抵抗できない私は顔をしかめた。

「アルサンはこの公爵家の後継、私の大事な後継だぞ!?」
「ですが、お兄様は嘘をお祖父様に……」
「それがなんだ! アルサンが必要だと判じたなら、それが正しいのだ! ただの小娘が偉そうに発言するな!」

 そう言って、また父は私をぶつ。
 うっすら開いた目に、父の背後に立つ兄と義妹が見えた。

 二人は──ニヤニヤ笑っている。
 ああそうか。

 痛みで頬が熱くなるのに、心は冷える。氷のように冷えるのが分かる。

 そうか、お前たちはまたそうやって、私を苦しめるのね。私が苦しむのが楽しくて仕方ないのね。
 つと、右手を動かせば、何かが手にふれた。倒れた椅子だ。私の部屋に置かれた子供用のそれを、グッと握る。

「いいか、またアルサンやミリスに反抗したら──」
「うるさい、黙れ」

 父の目が見開かれるのを確認した直後、私は椅子を振り上げた。それは見事に父の体にヒットする。

「ぐが!?」

 あまりの痛みに、父が顔を苦悶に歪めた。その拍子に私の胸倉を掴んでいた手は離れ、私は解放される。
 さすがに立つことができなくて、床に座り込んだ私は口の中が気持ち悪くて、ペッと床に吐いた。床が私の血で汚れるのを何の感慨も無く見つめてから、私はノロノロと顔を上げた。

「リ、リア……きっさまあ……」

 痛みに体をくの字に曲げながらも、私に伸ばされる父の手。足は動かないが、動く手で私はそれを払いのけた。いとも簡単に、父の手をはじく。また父が驚きに目を見張った。
 直後、その顔が歪む。

「貴様あ!」

 叫んで、父は私に飛び掛かった。私に馬乗りになり、父が何度も私を殴る。何度も、何度も……。
 けれど私は泣かなかった、叫ばなかった、ただ淡々とそれを受けた。かつて殴り殺された時は必死に抵抗し、泣いて喚いて救いを求めたけれど。そんなことをしても死はまぬがれなかったのに、今更そんなことをしてなんになろう。

いっそ笑ってやれ──

 そんな風に考えて浮かべた笑み。
 きっとそれは壮絶なものだろう。
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