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第二章 今度こそ
3、
しおりを挟む「ベントスから返事があった。いつでも良いと言ってるぞ」
祖父にお願いしたのが昨日。私の願いをちゃんと聞いてくれたようで、翌日である今日の午後、早々に訪問の許可がおりた。ホッと息をついて「では今から」と立ち上がった。
「今から? さすがに急では……」
「いつでもとのことでしょう?」
私の行動の早さに目を見張る祖父。私の返答に目を細め、「リリア、お前なにか変わったな」と呟くように言った。
「私はなにも変わっておりません。ただ、お祖父様とお話しすることが増えたからでございましょう」
「……そうか」
家族と最低限の関わりしかもたなかった自覚はあるのだろう。本心から納得したのか知らないが、祖父は頷いてそれ以上は言わない。
「ワシは今日は公務で忙しい。お前一人で大丈夫か?」
「ええ」
むしろそのほうが好都合。お祖父様が一緒では、突っ込んだことまで聞けない。それに私を差し置いて、また二人で話し込まれる可能性もある。それでは意味がない。
「では馬車の手配をさせよう」
「お願いします」
こういうとき、祖父の動きは早い。そうと決めたら行動する人だから。そしてそれは、公務よりむしろ魔法が関連してる時のほうが早くなるのだ。
待つことなく馬車の用意が出来たと知らせがあり、私はお祖父様に行ってまいりますと告げて外に出た。屋敷を出ればすぐに馬車が待機している。乗ろうと足を一歩前に踏み出そうとしたその時。
「出かけるのか」
声がかかり、足の動きを止める。
今出たばかりの扉が開いた気配を感じて、背後を振り返った。
「あら、アルサン兄様ではありませんか。なにか?」
「出かけるのかと聞いている」
「見ての通りで」
この状況を見て、あなたは一体何を思うのか。暗に言えば、兄の顔が歪んだ。
「ふん、そんな見すぼらしい姿で……お前は自分が公爵令嬢である自覚あるのか?」
「自覚なくとも公爵令嬢ですわ」
見すぼらしい格好なのは、ミリスのせいで服がほとんど着れなくなったから。出かけるとメイドに告げたら、慌ててどこからか用意してくれた服。古くなって仕舞われていた私の服だろう。昨日の一件の直後、慌てて出してきて小さいからと直してくれたのだ。
元から地味な服しか与えられていない上に、古い服をリフォームしたもの。嫌でも見すぼらしくなる。それでも私は用意してくれたメイドに感謝して、袖を通した。服など着れればなんでもいい。今そんな些末なことを気にしている暇はない。
それ以上話すだけ時間の無駄と、馬車へと足を向けた。ガッと腕を掴まれたのはその瞬間。
「なにを──」
「リリア、お前は俺の妹だ」
「は?」
突然何を言い出すのか。あまりに唐突すぎて、反応に困って言葉に詰まる。
「お前は……」
「お兄様?」
なんだろう、兄の顔が苦し気に歪んでいる。
「体調がお悪いのでしたら、横になられたほうがいいですよ」
心配などしたくないが、それでも人としてつい出てしまう言葉。それに兄は軽く目を見張り。ややあって、私を掴む手は離された。
「そうだな」
「?」
「ミリスの顔を見てから、寝るとしよう」
心配して損した。そう思うようなことを言って、兄は屋敷内へと戻って行った。
「なんなのよ」
馬車に乗り、街へと向かう。ガタガタと揺られながら脳裏にこびりつくのは、戸惑いと苦しみをはらんだ、兄の歪んだ顔。
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