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第二章 今度こそ
8、
しおりを挟む「時使い? それって……?」
「知らんのか、知らないで使うとか器用なやつめ」
なんとなく馬鹿にされてる言い方にムッとなる。
「知らないのだから仕方ないでしょう? 教えて」
素直に教えを請えば、意外だというように目を見張るメルビアス。外見が子供ゆえムキになって突っかかってくるとでも思ったのか。それを理解しながらわざわざ嫌味な言葉遣いをすると。
つまりこの男は、わざと私を煽ってる?
「かまってちゃんかな」
「なんだそれは」
思わずポロッと口にして、慌てて手で口元を押さえる。目はあさっての方向へ。なんのことやら? と、とぼけるポーズだ。
「……まあいい。時使いってのはそのまんま、時間を操る魔法使いのことだ」
「時間を操る……」
それはつまりアレのことだろうか。ずっと、不思議に思っていたこと。
──なぜ、死ぬと時間が戻るのか。
その理由が今目の前にある。
「どういった魔法が発動するかは個々で異なる。俺の場合は見ての通り、時間を止める」
「……悪いことし放題ね」
こんな風に時を止めれてしまうのなら、一体どれだけの悪事を働いて来たのか。だって見るからに悪そうな顔してるもの。
だが男は意外にも「そんなことするわけないだろ」と笑って否定した。
「時を止めて悪事をするなら、時間を止めてケーキを盗む事もできたんだぞ。だが俺はちゃんと金を払って購入した」
「私から奪うという悪事を働いてますが」
「お前に生きる厳しさを教えてやったんだ」
「ケーキで人生教えられるとか……!」
思わず脱力するわ。
「本当に、今まで悪事したことないの?」
「あるわけないだろ。そもそも俺は常に自分の体の成長を止めてるんだ、魔力は同時発動できん。今現在は世界の時間を止めることに使ってるが、これを乱用すると俺の時間が進むから困るんだ。老ける」
ちなみにとメルビアスは話し続ける。
「俺が魔力を理解しこの魔法を行使できるようになったのが、10歳の時。基本は自分の体の時間を止めているが、たまにこうやって世界の時間を止める。そのたびに成長して……今こうなってるというわけだ。およそ20歳くらいの肉体年齢だな」
「なるほど。それだけの時間を止めて、何やってたんですか?」
やっぱり悪事でしょ? と暗に問えば、ニヤリと笑うだけで無言が返って来た。なんとなく聞きたくない、聞いたらヤバイ気がするので聞かないことにしよう。今はどうでもいいことだ。
「ただ、俺と同じ時使いの魔法使いには、俺の魔法は効かん。お前を見た時、身にまとう時間がおかしな気配を漂わせていたから、ひょっとしてと思ったが……やっぱりだったな」
「身にまとう時間?」
「細かいことは気にするな。百年以上生きてる俺だからこそ分かることだ」
「そう……」
難しい事はいい。とにかく私は知らないうちに魔法を使えてたと。そういうことなのだろう。
「で?」
「え?」
考え込んでいたら、頭上から声がかかる。顔を上げたら思ってたより男の顔が近くて、思わずのけぞった。
「お前、本当は何歳なんだ?」
「え? ええっと……13歳」
「嘘つけ」
「本当よ」
これまでのループで17歳まで生きた事はあるが、現在は紛れもなく13歳なのだ。嘘は言ってない。
「ただし、精神年齢はもっと上。ちなみにこれまで最長で17歳まで生き、10歳に戻ったことがある。今回は14歳で死んで13歳に戻ったけど」
「お前時を戻す魔法が使えるのか」
「意識してはできない」
「死んだら勝手に発動すると?」
ズバッと聞いてくるなと思うが、むしろその方が良い。回りくどい言い方は好きじゃないから。
「そうだよ」
「ふうん」
反応は予想以上に淡々としたものだった。男の眉はピクリとも動かず、わずかに目が細められただけ。
「死んだら時が戻る、ねえ。へたすりゃ俺より長生きできそうだな。まあ同じ時間をずっとなんて、飽きちまいそうだがな」
「飽きるなんてことないわ」
思わず反論すれば、細められた目が逆に大きく開かれた。少し驚いたように。
「何度同じ人生繰り返しても、楽しいって?」
「そうじゃない」
逆だ。辛くて苦しくて悲しくて寂しくて……憎くて。
「何度ループしても、私は17歳かそれ以前に死ぬ。家族に殺されるから。どんなに足掻いても、人生を変えても、結果は変わらない。そんなのが楽しいと思う?」
「そりゃ大変だな」
同情するでもない。笑い飛ばすでもない。
その抑揚のない返答が、なぜだか嬉しかった。
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