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第二章 今度こそ
9、
しおりを挟むそういえばとふと思い出す。メルビアスは10歳で己の魔力に目覚めたと言っていた。私もあの祖父の箱に閉じ込められて、初めて魔法を使ったのが10歳の時。
「魔力って10歳で目覚めるものなの?」と聞けば、「俺がこれまで出会った魔法使いは、バラバラだったな。老人の域に達してから目覚めた奴もいるぞ」という答えが返ってくる。
「そうなんだ……じゃあお祖父様もそれを期待してるのかしら」
祖父の魔力に対する情熱の炎は、熱くてヤケドしそうなくらいだ。
「お前の祖父って……ベントスの友人のウディアスか?」
「知ってるの?」
「俺、あいつ苦手なんだよな」
そう言ってメルビアスは思いきり顔をしかめた。
だがなんとなく分かる気がする。
自分にも他人にも厳しい祖父が、この飄々とした、存在そのものがふざけてる男と気が合うとは思えない。
「昔、あんまり難しい顔してるから、時間を止めて顔に落書きしてやったんだよ。鏡見たら爆笑すると思って。したらあいつ全然気づかなくて、そのまま王城行って王と謁見したんだよなあ」
「うわあ……」
「激怒したあいつに殺されそうになった」
「よく逃げれたね」
「時間止めて逃げたに決まってるだろ」
なるほど、今理解した。この男、時間を止める魔法を悪事に使うことはないのかもしれないが、非常にくだらないことに使ってるのだ。そのくだらないことで、合計10年分の時間を止めたということか。
「……く、くだらない」
「なんでだよ、時間魔法最高だろ?」
どこが最高なんだ。ガックリ項垂れる私に、カラカラと笑うメルビアスであった。
そして「ちなみに時戻りの魔法を使えるやつ、過去に一人知り合いでいたな」と、脱力してる私に、サラッととんでもないことを言ってのける。
「それを最初に言ってよ!」
「お前が聞かないからだろ」
「色々情報が一気に入りすぎて追い付かないの」
それで? と続きを促せば、顎に手を当てて思い出すように首を傾げる。
「あいつはお前と違って、戻せてもほんの数分とか、頑張って数時間だったな」
「え、そうなの?」
「しかも死んで発動とかじゃなく、生きてる時に時間を戻せた。あれ便利だよなあ、美味しいと思ってたケーキが不味かった場合、買う前に時間戻して別のに変えれるんだから」
「そういうくだらない発想するの、あなたくらいよね」
「なんでだよ、あいつも使ってたぞ。これは不味いからこっちにした方がいいとか言われたら、ああ時間を戻したんだなってすぐに分かった」
「……同類か。さぞや気が合ったでしょうね」
「そりゃまあ。俺の妻だったからな」
「……え?」
先ほど知り合いと言わなかったか? という目を向けたら
「妻だって知り合いだろ?」
と言ってニヤリと笑みを返された。
百年以上生きてりゃ結婚くらいするってことか。
「あなたと結婚するなんて、さぞや心の広い女性だったんでしょうね」
「まあ否定はせんよ」
しないんだ。自分のウザイ性格を理解してなお、直すつもりないのか。
「百年以上生きて出来たこの性格が、今更変わると思うか?」
「……思わない」
思わないけど、自分で言うなと心の中で突っ込んでおいた。
「一つ聞きたいのだけど」
「本当に一つだな?」
「……たくさん聞きたい」
面倒なやつ、揚げ足をとらないでほしい。
「初めての魔法発動はどんなだった?」
「というと? お前はどうだったんだよ」
「箱の中に閉じ込められてるときに歌ったら、いきなり光り輝いて爆発起きて箱が壊れた」
「ふうん?」
また目を細める。何かしら思うところがあると出るクセなのかな。
「それ、本当に初めてか?」
「そう言われたら違うけど……。何度死んでも同じ10歳、同じ箱の中に戻ってたんだけど、前回の戻りで初めての行動したらそうなった」
「じゃあ初めての魔法発動じゃないだろ」
どうにも揚げ足取りなやつめ。
「ま、何度目とかはどうでもいいが……そりゃ光魔法だな」
「光魔法?」
「稀に複数の能力持ってる奴がいるが、お前は時使いと共に光魔法も使えるってことだな」
「そうなんだ……」
思わず自分の手をマジマジと見つめる。
「でも、じゃあどうしてあの時しか発動しないんだろう?」
疑問は次々に湧いて出る。質問を1個にしなくて良かったわ。
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