23 / 42
第二章 今度こそ
10、
しおりを挟むメルビアスが言うところの光魔法。それが発動したのは後にも先にも一度きり。閉じ込められた箱を爆発させた時のみだ。
首を傾げて不思議がっていると、「何を言ってるんだ」とそれこそ不思議そうに眉をひそめるメルビアス。
「お前、ずっと光魔法を使ってるじゃないか。ケーキ屋で会った時から今もずっと」
「え?」
今度は私が「何を言ってるんだ」と眉をひそめる番だ。
「なに言ってるの? 使ってるって……爆発もなにもしてないわよ」
「本当に何を言ってるんだ。光魔法が爆発? そんな危険なもののわけないだろ。光魔法は攻撃より防御に特化してるんだ。自分の体に防御壁を張りながら、寝ぼけたことを言うんじゃない」
言われたことを直ぐには理解できず、頭の中で整理する。そして私は「防御壁?」と呟きながら、自分の体をマジマジと見つめた。
そこで初めて気付く。
「体が……うっすら光っている?」
言われるまで、自分の体をジックリすみずみまで見るということをしたことがない。なにせ私は自他共に認める平凡で可愛くない顔立ちだったから。顔どころか体も何も、自分を見るということをしてこなかったのだ。
そして初めて自分の腕や体を見て気が付いたのだ。
体が光っていることに。
「これが光魔法?」
「そうでなくて何だと思ってる」
「これ……なんの意味があるの?」
思ったことを素直に疑問として口にしたら、メルビアスがガックリと項垂れる。
「なによ」
「お前な……宝の持ち腐れという言葉は、お前のためにあるんだろうな。それはあらゆる攻撃からお前を守ってくれるんだよ」
「あらゆる攻撃? でも私、両親や兄からの暴力を思い切りこの身に受けていたわよ?」
「物理攻撃からの守護となると、また違う光魔法だろ。お前の体に張られた防御壁は、攻撃魔法から身を守るやつだ」
「こ、攻撃魔法?」
驚いて聞き返せば、そうだと頷かれた。
「攻撃魔法なんて、そんなものほとんど無縁だと思うんだけど……」
つまり意味のない防御壁を常に張ってたということか。考えて、己の無能さに脱力する。だがそこで脱力するのは早かったらしい。
「はあ……お前、本当に無知だな。魔法オタクなウディアスの孫とは信じられん」
「家族の中で魔法オタクはお祖父様だけだもの」
「魔力持ってるならもっと勉強しろ。……魔法ってのは俺のように意図して使うこともできるし、お前の時戻りのように意図しないで発動することもある。そして、攻撃された時に自動発動するオート機能もまたあるんだ」
「オート機能……」
「お前、常に魔法攻撃くらってるだろ。だからもう体が常に防御壁張るようになってるぞ」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「常に魔法の攻撃を受けてる? そんなの……」
身に覚え無いわ。そう言いたいのに、なぜか言葉が出ない。
「魔法が発動してるのに気付かないくらいだ、攻撃くらってても気付けてないんだろ」
「そんな……」
「どうやら相手の魔法も、気付かせないような地味で陰湿な魔法らしいな」
地味で陰湿。
なぜだろう、その言葉を聞いて頭に浮かんだのは、まったく逆のイメージの存在。
「ミリス……?」
義妹の顔が脳裏に浮かんだのだ。
「なんだその、聞くだけで不快になる名前は」
メルビアスが義妹の存在を知るわけがない。教えていないのだから当然だ。だがそれでも名前だけで不快になると彼は言う。
そしてその言葉通りに、綺麗な顔が嫌そうに歪む。
彼には何か分かるのだろうか。百年以上生きて、魔力に、魔法に詳しい彼には感じるものがあるというのか。
「……帰ります。ベントス様に挨拶させて」
「ん? まあいいが。疑問は解決できたのか?」
「まだ分からない。それを確かめに家に戻らなくちゃ」
何かを探るようなメルビアスの目を、私は真っ直ぐに見返す。
一瞬の沈黙の後、メルビアスはスッと手を挙げた。それが合図。魔法の解除と発動の合図。
「こらメルビアス、子供相手に大人げない……あれ?」
メルビアスに手を伸ばしたベントス様が、制止しようと走り寄り、だがあったはずのメルビアスの手のケーキが無い事に驚く。見れば窓の外では風で木の葉が揺れ、鳥が羽ばたいてどこかへと飛んで行った。
時間が動き始めたのだ。
「ええっと、ケーキは……」
「あ」
そうだ、ケーキはどうなったの!? と慌てて見れば、いつの間にかテーブルの上にケーキ皿が置かれていた。勿論、ケーキは綺麗サッパリ無くなっている。
「……食べたわね」
「なんのことやら」
話に夢中で意識してなかったとはいえ、なんという素早い動き。
恨みがましくジトリとメルビアスを睨んでから、ベントス様に向き直って慌てて頭を下げる。
礼と、急用を思い出してすぐに帰らねばならないことへの詫びと。
驚いた顔をするベントス様と、何を考えてるのかサッパリ分からないメルビアスを残して。
私は帰路につくのだった。
176
あなたにおすすめの小説
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる