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第二章 今度こそ
11、
しおりを挟む公爵邸に戻ってすぐに、私は大急ぎで自室へと向かった。いったん冷静になって考えようと思ったから。
まずはお祖父様に今日の報告だ。今はまだ興奮してるから、落ち着いて話したいことをまとめよう。それから、ミリスを捜して話を……と思って扉を開ける。
そこに居るはずのない人物を見つけ、私は動きを止めた。部屋の入り口で、私は固まる。
「あらお帰りなさい、お姉様」
「……なにをしているの、ミリス」
私の部屋の中央にいたのは、義妹のミリスだった。
「また何かしようとしてたの?」
それとももう既に何かしたのか。
そう問うと、可笑しそうに義妹が笑う。
「そんなことしませんよ。私のこと、なんだと思ってるんですか?」
「最悪な存在だと思ってるわ」
「ふうん?」
何を考えてるのか分からない。すっかり日が落ちて室内は暗い。月明かりが部屋に入るも、ランプが付いてない部屋ではミリスの顔が良く見えない。
ツツ、とテーブルに指をはわすのがかろうじて見えた。
「お姉様、今日はどこへ行ってらしたのですか?」
「あなたには関係ないでしょ」
「冷たいですのね、姉妹ですのに」
「義理のね」
姉妹とか、どの口が言うかと顔をしかめる。
「ふふ、本当に冷たいですわね」
何が言いたいのか分からない。暗闇で顔が見えないせいか、なんだかミリスの雰囲気がいつもと違って見える。
「ミリス、あなた……」
言いかけて言葉を呑み込む。何かが変だと気付いた。
「暗い、ではないわ。黒い……?」
ミリスの周囲、体の周りがなんだか変だ。黒くぼやけたものが見える。
それは、私の体をまとう光と真逆の……
「ミリス!?」
「どうしてかしらね」
私の驚きの意味を理解してるのか分からないが、ミリスは淡々と私に告げる。
「どうしてお姉様には、効かないのかしら」
何がと問う間は無い。
あっという間にミリスが私の目の前に迫って来たから。
闇の中で、彼女の金髪は一切輝かない。月明かりすら反射していたはずの美しい髪は、けれど今はそのなりをひそめる。
まるで暗闇。
私達家族のような黒髪、ではない。
闇、なのだ。
暗闇をその身にまとった義妹が、私の眼前に迫る。
直後、腹部に激痛が走った。
「え……?」
見下ろせば、腹部に深々と刺さるもの。それは、昨日私が拾った──ハサミ。
「ミ、リス……?」
痛みに顔をしかめながら、私は義妹を見た。
そこに闇を見た。
闇をまとった髪、闇色の瞳、全身が闇に包まれた義妹が、そこに立っている。
微笑みながら……肌すらも闇のように黒く、目と歯だけが白く浮かび上がる恐ろしい笑みを浮かべて私を見ている。
「効かないだけじゃなく、私に歯向かうなら要らない。排除するまで」
「排除……」
「大丈夫。私の魅了にとりつかれた家族は、きっとお姉様の死をうまく隠蔽してくれるわ。私が泣いて頼めばなんだって聞いてくれるもの。まああの祖父さんはなんでか効果ないけど、あれはそう長くないからもういい」
そう言って、ミリスは右手を振り上げた。そこに光る刃を認める。
腹部に走る痛みと、予想外の状況に動けない私に、それは振り下ろされる。
それが今回の私の人生を終わらせることを、私は確信した。
「次こそは──」
その言葉がミリスの耳に届いたかはわからない。だがそんなことはどうでもいい。
失敗した。また失敗した。
けれど次こそは。
もう、失敗しない。
そう思った瞬間、世界が暗転する。
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