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第三章 これが最後
2、
しおりを挟む前回と違ってゲットした、大人気のケーキ。それが嬉しくてニヤニヤしてたら「気持ち悪い」と言われたので、横に座る発言者の足を思い切り踏みつけてやった。だが「痛い」とまったく痛くなさそうに言うので、なんだか不完全燃焼。
ガラガラと音を立てて、馬車は進む。どうせ後で合流するのだから一緒に行けばいいと誘ったのは私。メルビアスを乗せて、馬車は街中をゆっくり行く。
「乗って行けばと言ったのは私だけれど、どうして横に座るの?」
私の正面にも席はあるのだけど。
「可愛いレディの横に座りたいのが男のサガだろ」
「うわ、気持ち悪い」
「自分のことか」
「うわ、気持ち悪い」
「……」
たった一度、前回の生で出会っただけの男。だというのに、もう扱い方がわかっている自分がいる。メルビアスは実に扱いやすい人物なのだろう。
「なあお前、ひょっとして……」
「あ、私時戻りの魔法を使えるから。時間を止めても私には意味がないよ、同じ時使いだし」
「なるほどね」
私とちょっと違うけど、同じ時戻りの魔法が使える奥さんがいるのだ。今の言葉で全て理解できたようで、黙り込む。
そういえば、前回はちゃんと聞けなかったので、一応聞いておこう。
「あなたの奥さんも、時を戻せたんでしょ?」
「俺は、そんなことも話したのか?」
「ベントス様の屋敷でね」
「そうか」
「どんな人だったの?」
彼の口ぶりから察するに、奥さんが居たのは過去のこと。もう彼女は──
「お前と違って素敵な女性だった」
過去形で語ることから、やっぱりと確信する。
「別れたの? それとも──」
「五十年ほど前に亡くなってるよ」
「……そっか……」
時が止められるというのは良い事ばかりではない。むしろ悪い事……というより悲しいことのほうが多いのではなかろうか。
きっと彼が初めてベントス様や祖父と出会ったのは大昔で、お二人が若い頃なのだろう。なのに今や、二人はすっかり年老いて、祖父にいたってはもうすぐ──。
「それでも自分の時を止め続けるのね」
「ゆっくり進んではいるさ」
「寂しくないの?」
飄々としてる彼にこんなことを聞いてなんになると思ったが、ああすれば良かったと後悔するのにも疲れた。聞きたいことは聞くことにする。
「初対面なのにズケズケ聞くな」
「初対面なのに、私からラスイチケーキやイチゴを奪う図々しい輩に言われたくないわ」
「俺はそんなことせん」
「その厚顔無恥な頬を思い切り引っ張ってもいいかしら?」
どの口が言うか!
「寂しいと思う時期はもうとうに過ぎた。今はただ、亡き大切な者達が見れなかった物を俺が代わりに見るんだという意思の元に生きている。それに」
「それに?」
「あいつらを覚えてる限り、みな俺の中で生きてるのさ」
「……へえ……」
まさかそんなことを考えてるとは思わなかったので、意外だと思わずその綺麗な顔に見入ってしまった。
「なんだ」
「あなたを誤解してたかも。ただの時間を止めてイタズラしたり、ケーキ泥棒だと思ってたから」
「そのイメージは案外間違ってないぞ?」
そう言ってニヤリと笑う顔は、悔しいけどカッコイイ。
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