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第三章 これが最後
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しおりを挟む「なるほど。妹に殺されて時間が戻った、ね……」
ベントス様の屋敷に着いて、お土産のケーキを渡す。箱の中身は前回と同じくショートケーキ。ベントス様には申し訳ないけど、フルーツケーキは持ち帰り用の箱の中だ。
「闇のように黒いものを身にまとっていたって、それはそのまま闇魔法だな」
そう言って、メルビアスはケーキのイチゴを残して食べる。いや、そこはイチゴから食べなさいよ! 私のケーキからはイチゴを真っ先に奪ったくせに。
ちなみに今回はメルビアスの分も買ったので、彼は私からイチゴを奪わなかった。おかげで心置きなく好きにケーキが食べられる。口の中に広がる甘酸っぱさに思わず目を細めた。時戻り、サイコー。
って、いけない。本題を見失うわけにはいかない。
「闇魔法?」
聞き返せばメルビアスは頷いた。
「そう。光魔法と相性最悪のやつ。お互いにな」
「私の光魔法が自動発動してるのは、闇魔法から身を守るため?」
「そうとしか説明がつかんだろ。お前の経験談から察するに、お前の家族、闇魔法による魅了がかけられてるな」
「そうなのね……」
魅了魔法。それによって家族はミリスを溺愛してるらしい。私は光魔法の防御壁があるから、効かなかったようだ。
「お前を虐げるのはミリスがそう誘導してるんじゃないのか? 魔法の効かないお前を排除したいんだろ」
なるほど、それは何となく分かる。だからって、家族にされたことを許すつもりはないが。
「お祖父様はどうして効かないんだろ」
そこが一番の疑問。
「あれに子供を可愛がるという発想が皆無だからだろうね」
疑問への解答はベントス様がくれた。
「可愛がる発想が皆無……」
なんだそれはと思うけど、あの祖父なら納得。あの屋敷に古くから勤める執事に聞いたことがあるが、祖父の一人息子である父を可愛がってる姿を見たことないらしい。孫である私達ですらあれだもの。
父も寂しい子供時代を過ごしたのだな。
まあ許すつもり無いけど。何度でも言う、理由なんぞどうでもいい、私は絶対に家族を許さない。
そういえばともう一つの疑問が湧き上がる。
「では箱が爆発したのは? あれは一体なんだったのかしら」
この疑問にはメルビアスが答えてくれた。
「箱の中、真っ暗だったって?」
「うん」
「なんの光もない真っ暗って状況は、そう滅多とならないだろ。光魔法持ってるやつにとって暗闇は最も嫌な状況だ。そんな最強のストレスが、大嫌いな義妹のせいで引き起こされたんだから……まあ不満と共に爆発したってとこじゃないか?」
「じゃあ歌は関係ないの?」
「そうだな」
なんだ、歌は関係ないのか。あんなに喉が枯れるまで歌いまくったというのに。なんだか拍子抜け。
結局のところ、私は魔法使いとしては未熟で、光も時間もうまく操れてないってことか。
「訓練すれば、それなりに使いこなせるさ」
「そうなの?」
「俺様のもとで修業すればな」
「教えてくれる?」
そう問えば、目を細めてニヤリと笑われた。あ、嫌な予感しかしない。
「俺のことをお師匠様と呼び、お願いしますと頭を下げてフルーツケーキを寄越せ」
「おししょーさま、わたくしめにマホーをおおしえください。よろしくおねがいします」
「そんな棒呼びでは教えん。あとフルーツケーキ」
「そんな物はこの世に存在しません」
「いやあるし」
誰がお前を師匠と呼ぶか! そしてケーキは渡さん!
しばし睨み合いしてたら、「こんなメルビアスの姿は初めて見るなあ」となぜか感心するベントス様の声が耳に届いた。
「で、これからどうするんだい?」
本題に戻すとばかりにベントス様に問われて、悩む。
「とりあえず家に戻ります。でもって……自室に行かずに祖父の部屋に直行します」
「それで?」
「ミリスのあの口ぶりから察するに、お祖父様の病気も彼女が関係してる可能性が高くなりました。私の光魔法でどうにかならないか調べたいと思います」
「そうだね。友として頼むよ」
前回は話さなかったが、今回はベントス様に話した。祖父がもうすぐ病に倒れて亡くなることを。驚きに目を見張り、寂しそうなベントス様の顔が脳裏に焼き付いて離れない。彼にそんな顔をさせたくなかった。
「俺からも頼む」
メルビアスも言う。
「へ?」
「ウディアスは少ない俺の友だ。まだ逝くには早すぎるだろ。だから……頼む」
「うわ、気持ち悪い」
失礼だとは思いつつ……彼にもそんな感情があるのかと、驚きと感動を覚える。
だがそれを伝えるのは恥ずかしくて、思わず出た言葉に対し、
「お前、本当に可愛いレディだな」
メルビアスは私の頬をムギュッと引っ張るという行動で、応戦するのであった。
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