【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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第三章 これが最後

8、

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「……いいよ。ミリスのためなら、どんなお願いでも聞いてあげる」

 どこか目がうつろな兄。抗えぬ魅了に、兄の意思は綺麗に消え去った。そこに立つのは操り人形な兄。

「わあ、嬉しい! 大好き、お兄様!」
「へ、へへ……」

 ミリスに抱きつかれて、だらしない顔で笑う兄。なるほどなあ、こうやってミリスはずっと家族をいいように操っていたわけか。

「というわけで問題解決ですわ。ねえ、私の婚約者になっていただけません? あなたのような美しい方は、美しい私にこそ相応しいと思うんですの」

 ミリスの黒いモヤは、収まらなかった。それは続けてメルビアスに向けて放たれる。

「メルビア……」

 光魔法を自在に操れるでもない私に一体何ができるのか分からない。ただイヤだと思った。思ったら勝手に体が動いた。考えるより先に手を伸ばし、ミリスから出る黒いモヤをつかみ取ろうとした。
 だがそれより早く──

パンッ

「え?」

 黒いモヤが弾かれるのが見えた。メルビアスに届かんとするまさにその瞬間、黒いモヤが霧散したのである。

「え?」

 私の驚きの声と同時に、ミリスが驚きの声を上げる。私もミリスも何が起こったのか分からないという顔をする。
 それに対し、メルビアスが見たのは──私。「ふんっ」と鼻で笑って、ニヤリと私に笑みを向けてきた。

「なにが……」
「俺を誰だと思ってる、どれだけの時を生きてきたと思ってるんだ。この程度の魔法を阻止するすべくらいとうに会得している」

 そう言って、メルビアスはミリスに背を向けた。

「あ、待って……!」

 ハッと我に返ったミリスがメルビアスに手を伸ばす。
 だがパンッと、今度は誰もがその音を耳にする。メルビアスがミリスの手を叩き落したのだ。

「え……」
「触るなけがらわしい。お前が美しいだと? どこが? 俺はお前ほどに醜い女を見たことがない」
「え!?」

 呆然とした驚きから、今度は息を呑み目を見開いて驚くミリス。その様を一瞥してから、今度こそメルビアスは出て行った。部屋を出る瞬間、一瞬だけ私をチラリと見て。私は慌てて彼の姿を追いかけた。放心状態のミリスと家族を置いて。

「待ってメルビアス!」

 声をかければ、すぐに彼は立ち止まって私を振り返った。

「なんだ」
「あなた……大丈夫なの?」
「見ていただろう? 俺にはあいつの魅了魔法は効かん」
「そうみたいね」

 まさか私の他に彼女の魅了魔法が効かない者がいるとは。驚く私に、メルビアスは「あの魅了魔法は大したことない」と言ってのけた。

「まず範囲が狭い。せいぜい家族にかけるだけで精一杯だろうな。その証拠に、この屋敷の使用人は魅了されてないのだろう?」
「たしかに……」

 私を虐げるのは、あくまで家族だけ。もしミリスがもっと大きな魔力の持ち主だったならば、使用人すらもかけれていたはず。なのに使用人達は平等に、私のことをあくまでこの家の令嬢として扱ってくれている。そういえば、そのことに疑問をもったこと無かったな。

「ああやって兄貴にやったように、強化することはできても多人数は難しいみたいだな。俺にもかけようとしたが、そんな弱い魔法は俺には通用せん」
「そっか。あなた凄いのね」
「当然のことを言われても嬉しくないな」

 本来ならその傲慢さに苦笑ものなのだろうが、嫌味のないストレートさに素直に笑ってしまった。
 スッと私の頬をメルビアスの大きな手が包む。ドキンと心臓が高鳴った。

「メルビアス」

 だが何も言わない彼を見上げて声をかければ、「大丈夫か?」と問いが返って来た。

「え?」
「これから起こること……お前が話したこの先の未来、かなり苦しい日々なんだろう? なのに、お前はそれを甘んじて受けるという。俺達に助けるなと言った。それで本当に大丈夫なのか?」

 それは事前に話していたこと。これから先何があろうと手出し無用、助けないでほしいと言ってあったのだ。手伝ってもらうことはあっても。

「ええ。私は……復讐したいから」
「家族は魅了魔法をかけられているだけだろ?」
「だからって、やっていいことと悪いことの判別もつかないなんて……そんなことで許せる範囲を超えたことをされたから。もう、私は家族を許せないのよ。復讐しなければ私の心は救われない」
「……」
「そんな私を軽蔑する?」
「まさか」

 言っておきながら、メルビアスが私を見る目がどうなるか不安になる。不安で問いかければ、即答で否定された。その瞬間、安堵が胸を満たす。

「だが俺もベントスもいることを忘れるな。もう無理だと思った時は、必ず俺達を呼べ。俺達に救いを求めろ。いいな?」
「ええ」

 その言葉だけで十分とニコリと微笑めば、フッと笑ってメルビアスは去って行った。ベントス様と共に。
 馬車に乗り込み二人が完全に居なくなるまで見送って、そして私は屋敷を振り返った。

「……さあ、始めましょうか」

 始めよう、復讐を。
 終わりを迎えるために。
 全ての終わりを始めよう。
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