【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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第三章 これが最後

7、

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 そこに立っていたのは、温和な顔立ちが印象的な、祖父の親友ベントス様。

「これはベントス殿……なにか御用で?」

 祖父の親友ということで、さすがに無下にはできないと判断したのか、父が対応する。しかしベントス様は父を見ることなく、私に目を向けた。

「私は一体なにごとだと聞いたんだ。キミが自身の娘を突き飛ばしたように見えたが?」

 私を心配そうに見つめてから、不快そうな目を父に向ける。その視線に一瞬動揺するも、苦笑を浮かべ「なに、ただの躾ですよ」と父は誤魔化した。──まったく誤魔化せていないけれど。

「屋敷の重鎮達を解雇するとも聞こえたが?」
「まあ……私には不要の存在ですので」
「ろくな引き継ぎもなしで突然家督を継ぎ、一人でまともな施策ができるのか?」
「……あなたには関係ないことでしょう?」

 祖父の親友とはいえ、相手は格下の侯爵。父が徐々に苛立ち始めてるのが見て取れた。

「これは我が家の問題です、お引き取りを。祖父でしたら療養所へと移しましたから、会いたければ勝手にどうぞ」

 父の、『帰れ』という言葉にまた不快そうに顔をしかめて、ベントス様は何も言わずに父に背を向けた。チラリと私を見る目が心配を物語っている。ニコリと笑みを向ければ、コクリと頷いてベントス様は出て行った。その時、ベントス様がそばにいた人物の肩をポンと叩く。
 そこで初めて気が付いた。ベントス様と共に、メルビアスが来ていたことを。

「メルビアス……?」
「我が家の問題、ね。娘に手を出すような輩なぞまったくもって信用できんな」

 我慢ならんといった顔で、父を睨むメルビアス。

「なんだ貴様は、ベントス殿の知り合いか? 私はもうすぐ公爵となるのだぞ、無礼者め」

 その気迫にタジタジしつつも、精一杯の虚勢をはる父に、対してメルビアスはフンと鼻を鳴らす。

「おい」
「え?」

 父を無視してかけられた声。それは紛れもなく私に対してだった。

「大丈夫か?」
「……ええ」

 助けてと言うのは簡単。そうすればきっとベントス様もメルビアスも助けてくれる。それは予想でも希望でもない、確信。けれど私は言わない。助けてくれとはけして言わない。

──だって私は復讐したいから。

 家族への復讐こそが、私の望み。それがどんなに闇落ちだろうが、地獄への道だろうが、関係ない。私はとうに地獄を経験している。今更なにを恐れよう。

 目で全てを語れたとは思えない。けれど伝わったと信じたい。
 睨むようにお互い無言で見つめ合い、ややあってメルビアスがフッと剣呑さが宿る目の光をゆるめた。

「そうか」
「まあ、素敵なおかた!」

 ならいい、とメルビアスが言いかけたその時。彼に駆け寄り、その腕に絡ませる手が見えた。
 ミリスだ。

「ミリス!? おい、どこの輩かも分からぬ者に、そのように不用意に近付くのは……」
「あらお兄様、大丈夫ですわよ。こんなに綺麗な男性、私は見たことありませんわ。さぞや高貴な出であらせられるのでしょう」
「俺に爵位はないぞ」

 ミリスの言葉を即座に否定するメルビアス。
 その言葉に嘘はない。異国の元王子ではあるけれど、現在は死亡扱いのメルビアス。平民どころかこの世に存在しない彼に身分はない。収入もない彼が一体どうやって生活してるのかは謎だが、おそらくベントス様とか他の魔法オタクが援助してるのだろう。
 爵位が無いと聞かされて一瞬目を見開くミリスだが、すぐにニコッと笑う。

「そんなもの関係ありません。見ての通り、私は公爵家が令嬢。あなた様が家督を継げずに爵位が無いとおっしゃるのなら、私の夫となればよろしいのよ」

 どうやらメルビアスが貴族の次男だかなんだかで、後継者ではないと勝手な解釈をしたのだろう。だがそこでなぜ、ミリスの夫となったらいいのかが分からない。

「なぜ俺がお前の夫にならねばならない。そしてお前の夫になったところでどうなる。お前には兄がおり、後継は兄だろうが」
「うふふ、それは大丈夫ですわよ」

 そう言って、未だ絡ませたままの腕に力を込め、ギュッとメルビアスに抱きつく。……その光景をなんだか見ていたくなくて目を逸らした。逸らした先で絶望に青ざめる兄の顔が目に入って、ちょっと笑える。

 大丈夫だろうかとちょっと心配になる。おそらくミリスはメルビアスに魅了魔法をかけようとしてるのだろう。そして彼には私のような光魔法の防御壁は無い。ミリスの魅了にかからなければいいのだけれど。
 ところが危惧した事態にはならず、メルビアスは不快気に顔をしかめてバッとミリスの腕を振り払った。

「なにが大丈夫だと?」

 不快そうに聞けば、ちょっと驚いた顔をした後、ウフフとまた笑うミリス。

「ねえお兄様、私のために爵位を譲ってくださいますよね?」
「え?」

 ミリスの突然の提案に、さすがに兄が驚いた顔をする。

「ですから、この公爵家の後継はわたしに譲ってくださいと言ってるのです。そしたら私の夫となるあの方が公爵になれます。ほら、これで問題ないわ」

 いや何を言ってるのだろう、この娘は。ループして精神年齢は大人な私と違って、ミリスは紛れもなく12歳。だというのにこの発想が出るとは驚きだ。

「え? いや、それは……」

 魅了の力をもってしても、直ぐに『いいよ』と頷けないのだろう。動揺する兄。それを見て、ミリスが不快気に眉をひそめた。そしてグッと兄に顔を近づける。それはもう悲しみに染まっている。

「駄目ですの? 私の……ミリスのお願い、聞いてくださいませんの、お兄様?」
「あ……」

 その瞬間、私はハッキリと見た。ミリスの体から漏れ出る黒いモヤを。それを兄が包み込むのを。
 闇魔法が発動するのを、私はハッキリと見たのである。
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