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しおりを挟む今日も今日とて図書室へ……と歩いておりましたら、呼び止められました。もはや感動を感じません。むしろこのパターンに飽きてきました。
いっそ無視したい気持ちはやまやまなのですが、公爵家の者としてそのような態度は出来ません。それに最近私の悪い評判が広がってるようでして、声をかけられて無視なんてしようものなら、噂に拍車がかかるのは目に見えております。
仕方ないので私は立ち止まって振り返りました。内心盛大な溜め息をつきながら。
「ルリアナ様!」
「……なんでしょう?」
「ビスタ男爵令嬢を虐めるのをやめてください!」
はい、思った通りですね。一体全体なんなのでしょう。私はビスタさんとやらを一度だけ窓越しに見たことがあるだけなのですが。一度も会話した事もない、接点皆無の女性をどうやったら虐められるというのでしょう。それを聞きたいですね。
と思っても言えない複雑な立場。
少ない友人達に心配されるくらいに根も葉もない噂が広まってるのは存じております。そしてそれを否定すればするほど、噂を信じてる者達は怪しみ、余計に私に悪意を向けてくるのです。
かと言って黙っていても、一向に噂が消える事もない。むしろ増えてるようで、呼び止められる回数も増えてきました。
ここでふと思います。学園内では上下関係を気にすることなく、皆が平等であること。が、この学園のルールなのですが……だからって皆さんこぞって私の所に来るのはおかしくありません?言いたい事言いすぎ。
とにかく有りもしない事で非難されるのは気分良くありません。実に不愉快です。
なので私は「そんな事した覚えはありません」と答えるのです。
答えたら。
「嘘言わないでください!」
とか言われるんですから。
どうしたらいいんですのん。
もう内心ではなく、あからさまに溜め息をついて私は「私は嘘が大嫌いです。そのような腐った人間になってはいけないと厳しく教えられてきました。いいですか、皆さん」と言いました。
私は首だけではなく、体ごとご令嬢達に向き直りました。
キリッと真剣に睨むように見れば、皆さんちょっとたじろいでおります。気迫の出し方、教わってて良かった。
私は一歩前に出て、発言してきた女性を見据えました。ビクッと体を震わせる彼女に向かって私は──ニッコリ微笑んだ。
その瞬間を私は見逃しません。
同性ですが、私の笑顔を見た瞬間、彼女とその周囲の人間全員が顔を赤らめた事を。
なるほど、自分ではそうは思ってませんでしたが、私の顔は武器として使える程には整ってるんですね。ちょっと嬉しい。
とか思ってる場合ではなくて。
ニコッと微笑んだまま、私は言った。
「見てもいない事をさも真実のように言ってはいけません。噂を簡単に信じてはいけませんよ」
噂を信じちゃいけない……とかいう歌があったような無かったような気もしますが。
歌はともかく、それはとても正しい。
どうして人は自分の目で見てもいないのに、さもそれが真実であるかのように信じるのでしょう。
噂の恐いところは、最初に聞いた話を信じやすいところにあります。今回の場合、私がビスタさんを虐めたという噂が先に出たので、皆はそれを優先的に信じます。
もしこれが『ルリアナ公爵令嬢はビスタ男爵令嬢を虐める事は絶対にしない』という噂が先に出回っていたら、そちらを優先して信じてもらえてたのでしょうねえ。
本当に、噂というものは恐ろしいものです。それを理解してる方が、この嘘を触れ回ってるのだとしたら……なかなか悪い人なのではないでしょうか。
ああそうか。
そこでようやく私は思いつきました。
もういい加減こんなやり取りにはウンザリしてましたからね。そろそろ噂の出どころを探った方が良いのかもしれません。どうしてそんな簡単な事に気付かなかったのでしょう。私もまだまだですね。
というわけで。
私はもう一度ニ~ッコリと悩殺スマイルを浮かべるのでした。
そして真っ赤になったご令嬢達に質問します。
「お聞きしたいのですが、皆さんは私がビスタさんにどのような仕打ちをしてるとお聞きになったのですか?そしてそれは誰からお聞きになりましたか?」
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