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しおりを挟む煌びやかなシャンデリアが輝くパーティ会場。美味しそうにデコレーションされた料理の数々。
誰もが思い思いのドレスに身を包み、明るい未来を信じて、皆が楽しそうに歓談している。
今日は卒業パーティの日だ。学園内のパーティ会場で、私もまた水色のドレスに身を包み、ワクワクしながら会場入りしていた。ジュース片手に、友人達と楽しく会話していたその時。
「ここに居たかエリス」
不躾に肩に置かれる手。思わず顔がこわばってしまった。
手と声の主は見なくても分かるが、敢えて睨みつけるように相手を見上げる。
「いきなり失礼ではありませんか、サルボス様」
「気にするな、俺とお前の仲ではないか」
相変わらずの『気にするな』。それはもう私の意思を無視し、馬鹿にしてるとさえ感じてしまう言葉。
見れば彼の手にはワイングラスがある。空になっているところを見ると飲み干したのだろう。そういえばかなり顔が赤い、一体何杯飲んだのやら。
「私とあなたの間には、何の仲も関係もありません。迷惑ですので話しかけないでください」
「婚約者だろう?」
「違います」
サルボスはまだ信じてるのだ。私が彼を愛し、再婚約が為されると。いや、既に再婚約は為されたと思ってるのだろう。
……そんなわけ無いというのに。
「サルボス様には、ベリイ様がいらっしゃるではありませんか」
「ベリイ?それは一体誰のことだ?」
ヘラヘラと笑いながらとぼけるサルボスに、怒りを覚えたその時。
「お待ちくださいアンディ様!」
賑やかな会場内であっても、響き渡る大きな声。思わず向けた目線の先には、派手すぎる、真っ赤なドレスに身を包んだ女性が佇んでいた。いくら卒業するとはいえ、学生らしさを忘れたかのように胸元が顕になったドレスを身にまとう女性。こぼれんばかりに強調された胸に、女である私も一瞬目がいってしまったくらいだ。べ、別に羨ましいとかではない。
その胸を押し付けるかのようにして、女性はある男性に密着していた。それを見て私はギョッとなったのである。
それはサルボスも同様。
「べ、ベリイ……?」
呆然と呟くように、サルボスは赤いドレスの女性の名前を呼んだ。ついさっき、一体誰の事だととぼけていたのは何処の誰だよ。
私達の目線の先には、サルボスの愛人予定である、真っ赤なドレスを着たベリイ嬢が居た。そして彼女は、どうやら一人の男性に猛アタック中なようで……どうにかこうにか気を引こうとしている様子が見て取れた。
豊満な胸を押し付けるも邪険に払われ、汚い物でも見るような目を向けられて流石にたじろいでるご様子。
「あれは……アンディ殿か……」
サルボス様が記憶を辿って、男性側の情報を引き出してきた。
ベリイ嬢がアタックする相手。それはアンディ公爵令息……青い髪と瞳が印象的で美しい男性です。美しいが冷たさを感じさせ、どこか近寄りがたい雰囲気があると、ちょっと女性陣からは遠巻きにされるかた。
そんな彼に、恐いもの知らずなベリイ嬢が食い下がる。
「一曲だけでいいのです、どうか私と踊ってくださいませ」
「申し訳ないが、私は貴女とは踊れない」
「そんな!私の何がいけないのですか?」
黒い髪がシャンデリアの光を反射してキラキラと美しく輝き、同じく黒い瞳もまた輝いて魅力的なベリイ嬢。少し悲し気な顔をすれば、周囲の男性陣は胸に矢が刺さって顔が赤くなる。……ただしアンディ様を除いては、だけど。
「チッ」
そんな二人の様子を見ていたら、横でサルボスが舌打ちするのが聞こえた。まあ気に入らないでしょうね。本命の彼女がどこぞの美形に言い寄ってるんだから。ベリイ嬢も、サルボスの眼前でよくやるわ。
「お願いです、どうか一曲だけ。思い出をどうか……」
その一曲で、アンディ様を陥落させる自信がきっとあるのだろう。それくらいには、確かに彼女は美しかった。
熱い視線を投げる男性陣とは真逆に、冷めた目を向ける女性陣。私もまた冷たい目になってるのが、自分でも分かる。
不意に、誰かが私の手を取った。
ギョッとして見れば、なんとサルボスではないか。……消毒液あるかな。
「サルボス様?」
「チッ……おい俺達も踊るぞ!」
「え、え、え……?」
オロオロしてるうちに手を引かれ、ダンススペースに引っ張り出されてしまった。困った。絶対に、死んでも踊りたくないのに。
差し出される手。これ取らないと、不敬罪にでもなるのかしら?
「おいエリス、早く手を出せ!」
「え~~~っと……嫌です」
「なんだと?」
たっぷり間を置いて拒絶の言葉を吐くと、サルボスの眉間に皺が寄る。
その皺をキッと睨んで、私はもう一度ハッキリキッパリ言った。
「サルボス様とのダンスは応じられません!」
これだけは譲れない。
絶対に、何があっても。譲れないものが私にはあるのだ。
最大限の勇気を振り絞って、私はサルボスを突き放したのだ。
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