妹は聖女に、追放された私は魔女になりました

リオール

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「おい、早くしろ!」

 目の前に広がる光景を目でチラチラ気にしながら。
 私を連れてきた男は、私の腕に繋がれた鎖を乱暴に引っ張った。

 つんのめりながらも踏ん張って、どうにか転ばないで歩く。

 虚ろな目を薄っすら開けて、私は眼前に広がる光景に視線をやった。

 そこは闇の森と呼ばれる場所。
 その名にふさわしく、暗く鬱蒼とした森だった。

 その森に入って少し奥まった場所。討伐隊などがまだ行き来している範囲での所で馬車は止められ、私は降ろされた。

 視界一杯を覆い尽くす木々。それらのほとんどが枯れ木。茶色くカサカサになってるのに、落葉することなく木にしがみつく葉。けれど足元にもまた、枯れ葉が地面の存在を隠すかのように埋め尽くしていた。

 陽を通さぬほどに生い茂った森の奥は真っ暗で、どうなってるのか全く分からない。

 生き物の気配など皆無で、カサカサと歯が擦れる音しか聞こえなかった。

 いや、そうでもないか。

 時折聞こえるギイギイと不快な音は、恐らくは魔物の声。何度討伐隊が送られても、けして滅びる事のない存在。

 それらの息遣いが、確かに聞こえた気がした。

「ひ……!相変わらず不気味だ!ちくしょう、なんで俺がこんな役目を……!!」

 ガチガチと奥歯を震わせながら、男がぼやく。
 震える手で拘束具を外そうとするのだけど、うまくいかなくて焦る様子がうかがえた。

 その時。

ギャア!ギャア!

 叫びと共に、何かがバササと飛び立つ音がした。

「ひいいいい!!!!」

 それにビクッと体を震わせた男が、手に持った鍵を落としてしまった。

「あ、くっそ!枯れ葉の中に……どこだ!?」

 ガサガサとかき分けるも、見つからず焦りは大きくなっていった。
 そして。

「ああもういい!俺の役目はお前をここに連れて来ることだったんだから!どうせお前はすぐに死ぬ運命の罪人だ、拘束なんてそのままでいい!!!!」


 悲鳴のような叫びを上げて。

 男はドンッと私の背中を押した。

 さすがに踏ん張りがきかずに、私は前につんのめった。

「あ──!」

 叫んでどうにか拘束されたままの手で支えて。顔面強打だけは免れた。
 その時。
 ガラガラと音を立てて、馬車が去るのが視界の隅に見えた。

 必死の形相で、馬を操って。落ち着きのない馬をなだめながら、男は去って行ったのだった。

 1人ポツンと残された私は。

 ホウ……とため息をついて、視線を足元へと巡らした。

 暗いけど、全く何も見えないというわけでもないのが不思議だった。どうして?と一瞬考えるも、すぐにやめた。

 この森は奇怪で謎多き場所なのだ。どんなにおかしなことがあっても不思議な事ではない。

 だから私は膝をついたまま、作業を進める事にした。

 この森で最初にすべき事。

 つまり、拘束を外すカギを探す事を──。

 時間はタップリあった。
 あるけど無い。そんな複雑な状況の中、枯れ葉に手を入れて私はゆっくりと鍵を探した。

 そしてそれは思いのほか、早く終わる。

「あ、あった……」

 カサカサと葉の感触が続いた中で、不意に金属の感触。
 持ち上げて見れば、それはやはり目当ての物であった。

「良かった……」

 誰が聞いてるでもないけれど、独り言ちて私はそれを握りしめた。

 今の私にとって、これが、これだけが現実世界とのつながり。生きてる事を実感させてくれる物となったのだ。

 カチャンと呆気なく解き放たれた拘束。
 それを何とは無し持ったまま、私は移動した。

 戻る道が分かれば戻ろうと思ったけれど、それは甘い考えだったとすぐに分かる。

 馬車が戻って行ったはずのその道には、もう枯れ葉が積もり、道筋はもう見えなくなっていた。そうでなくても暗い森の中、かすかに目はきいても詳細は分からない状況だ。

 右も左も分からないこの森で、私は果たしてどれだけ生きていけるのか──。

 恐い事を考えて、ゴクリと喉が鳴るのがやけに響くのだった。



 
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