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しおりを挟む「さあ選べ人間!闇である俺の手によってズタズタに引き裂かれるか、それとも『光の私』の拷問によって罪をあがなうか!」
手を広げ、魔王は楽し気に笑う。
精霊王としての力が消えたせいで、蔦が消え、吊し上げられていた人々は床へと放り出された。
痛みでしばし呆然としていた人々は、魔王の言葉に戦慄する。
「選ばないというならそれもいい。このままいけば、七日間の天災の後、世界は滅びるだろう。それは俺の力ではない、聖女であるリーナの力だ!」
そう言って、愉快そうに魔王スピニスは私を見た。
私はそれに応えるようにニコリと微笑んだ。
「リーナが?ど、どういう意味だ」
「どうもこうもありませんよ。私は聖女ですので。この世界の平和を、安寧を願うべき存在。私の願いに魔王であり精霊王であるスピニスが応え、世界を導いてくれます。つまり私の願いをスピニスが聞いてくれるってことですね」
私の言葉に、スピニスは無言でウンウンと頷く。
それを見やってから、私は再びテルディスを見た。
「けれど今のままでは当然私はそんな願いをしません。何も願わなければ、これまで通り国は衰退した状態でしょう。ですが、私は願うのです」
「な、何を……」
聞きたくないけど聞かねばならない。
そう思うのか、テルディスは小声で私に問うた。
私は彼にニッコリと笑みを向けて言う。
「滅びを」
滅びを、私は願う。
こんな国……いや、世界は滅んでしまえばいい。どうしてあんな目にあって、この世界の平和を望めようか。この国の成長を望もうか。
「ふざけるな!貴様が本当に聖女だと言うのなら、そんな望みをするはずが無いだろう!聖女とは無条件で国の、世界の平和を望むもの!己の身を粉にして、ただただ安寧を、国の繁栄を祈るものだ!命を削ってでもそうするのが聖女だろうが!」
唾を吐きながらテルディスは叫んだ。
その様はなんと醜いことか。
私は冷え切った目で、彼を見下ろした。
「まあ恐ろしい。国のために私の命を犠牲にせよと?」
「聖女一人の犠牲で国が幸せになるのだぞ!聖女一人の命くらいどうということなかろう!」
ああ駄目だ。テルディスが言葉を発すればするほど、私の心はどんどん冷え切っていった。それを感じる。
「では、私の幸せはどうなるのでしょう……」
一人を犠牲にして大勢が助かる。その為にこの身を犠牲に……なんて偽善もいいところだ。
そんなものは聖女でもなんでもない。
ただの、生贄だ──。
理不尽に怒りを感じた。
同時に、私は自身の変化を感じ取る。
「な……なんだ?リーナ、お前姿が……!!」
「あら、思わず変化してしまいましたね」
お母さまから譲り受けた紫の髪が、あっという間にどす黒い闇の色へと染まる。
欲しくもなかった父譲りの紺の瞳は何色をしてるのだろう?スピニスと同じ赤なら嬉しいのだけど。
「リーナ、リーナ!お前は一体……!?」
「あら、テルディスが言ったのでしょう?」
皆が言ったのでしょう?
クスクス笑いながら。
首をコテンと傾げて言えば、蒼白な顔が居並ぶ。
テルディスだけじゃない。
国王も騎士たちも、他にも集った城中の人間が。
血の気が引いた顔で私を見ていた。
私はそうと自覚しながら。
どす黒い笑みを……壮絶な笑みを浮かべて言うのだった。
「私は聖女。そして私の半身……光と対になる闇の私……私は魔女。この世界の滅びを願う、魔女よ」
肩にかかった黒髪をふぁさりと払いのけて。
私はニッコリと微笑んだ。
「さあ選びなさい、人間。罪人への罰か、それとも一蓮托生の滅びか。私は優しいからね。選択させてあげる」
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