妹は聖女に、追放された私は魔女になりました

リオール

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「いやあああぁぁっ!!」

 心地よい悲鳴が聞こえる。
 ロアラの泣き叫ぶ声が響く。

「やめろ!貴様ら、誰に手出ししているのか分かってるのか!?」

 テルディスが必死の形相で叫ぶ。いい顔をしてるなとウットリ見入ってしまう。

 国王はテルディスにしがみつくしか出来ない無能だ。

 そして、更に増えた存在に私の笑みは絶えない。

「まあお父様にお義母さま、掴まってしまわれたのですか?」
「リーナ!貴様……!!」

 彼に力があれば、その視線で私を殺すことが出来ただろう。それほどの殺気だった視線を父は私に向けていた。
 けれど残念、父は無力だ。

 城に押し寄せた民衆。
 そして城内の騎士に使用人。

 誰一人救わない。私を陥れた連中を、虐げた連中を救う者は誰一人居なかった。

 この世界を滅びの危機に晒した彼らは、稀代の大罪人となった。

 おそらくその身は焼かれ、骨まで残さず地獄へと落とされる事だろう。

「た、助けろ……!」

 歯をガタガタ震わせながら。

 民衆に縄をかけられ引きずられながら。

 それでもなお、彼らは私に懇願する。

 遥か高く、天空からその光景を見下ろす私を。私とスピニスを見上げて。
 涙を浮かべながら彼らは助けを乞うのだ。

「今すぐ助けろ、リーナ!私を誰だと思っている!お前の父だぞ、お前のその身に流れるは私の血だぞ!」
「汚い……唾を飛ばさないでくださいな」

 まさか飛んでは来ないだろうが、それでも必死に唾を吐きながら叫ぶ様に、眉間に皺が寄る。

「今更父親面されましてもねえ……そんなに血が大事ですか?」
「お前が今生きてるのは誰のおかげだ!?私という存在があったからだろうが!」

 散々放置し見捨てておきながらよくもまあ……。
 厚顔無恥な台詞を吐く男に、吐き気を感じる。

 だが私が何か手を出す必要はない。もうその必要は無かった。

「こいつ……!聖女様に対してなんて無礼な!」
「誰のせいで世界が滅びそうになってると思ってんだ!」
「よくも俺らの命を危険にさらしてくれたな!絶対許さねえ!」

 民衆の手が伸びる。

「!?やめろ、触るな!ぐ!やめろ、やめてくれ……痛い!いだいいい!!!」

 民衆に埋もれて見えなくなってしまった男の姿。けれど何が起きたかは想像に難くない。

 血が飛び、断末魔の叫びが響き……そして消えた。

 残るは男の残骸のみ。

 けれど私には何の感慨もなかった。感傷は生まれなかった。

 魔女たる私には、全てが楽しい遊びのようだから。

 ただ気分が高揚するのみ。

「ふふ、いいわ、いいわよ……少しだけ望みましょう。聖女たる私が、少しだけ、貴方達に希望をあげましょう」

 そう言えば、バッと人々は天空を仰ぐ。
 聖女たる私へ頭を垂れる。

「ああ、ありがとうございます、聖女様!」
「もっと罰を与えますので、気をお沈めください、魔女様!」

 そうして手は伸びる。
 今度は女へと。

 父の最期を声も出せずに蒼白な顔で見ていた義母へと。

 その顔が、バッと私に向いた。
 幼い頃から見てきた、汚い物を見るような目を私に向ける。

「リーナ……この売女!あばずれ!これまでの恩を忘れて……なんて女だい!この悪魔!」
「残念、私は魔女です。近いけれど少し違いますわ」

 そう言ってニッコリ微笑みを向けてやれば。
 それはかなり壮絶な笑みだったのか、義母は言葉を失った。

「貴女という存在は私にとって無意味無価値、ですわね。本当に……この世界にこれほど不要な存在、初めてですわ」

 それでおしまい。私はもう興味を失って視線を義母から外した。

 それが合図。
 悲鳴と共にグシャリと聞こえて。

 そして何も聞こえなくなった。

「お母様……少しは気が晴れましたか?」

 きっと母は父の裏切りと愛人の存在を知っていたのだろう。最期に見せた悲し気な笑みをふと思い出す。

 私は随分近くなった天を仰ぎながら。
 少し感傷に浸って涙を一筋こぼした。


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