悪役令嬢にざまぁされるのはご免です!私は壁になりました。

リオール

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7、公爵令嬢に会えないっておかしいでしょ。原作強すぎない?

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「公爵令嬢のお名前?シュリエッタ様のことでしょうか?」
「あ、そうそう、それ!」

アミュに聞いたらアッサリ分かった。
思わず手をポンッと打って叫ぶと、苦笑が返ってくる。かりにも格上の公爵令嬢を「それ」呼ばわりしたからだろうが、今は屋敷のアミュの部屋。
居るのは私とアミュ、信頼に足るアミュ付きのメイドだけだから問題なかろう。

マナーとか勉強してるけど、元はただのOLだ。今更変えられないもの。ちゃんとした場ではちゃんとするよ!……多分。

さて、話は戻って公爵令嬢。
お茶会の時には完全に忘れていたが、家に戻って気付いた。
そういや居なかったなあ、と。

「たしか体調を崩されて欠席されたと聞きましたよ」

そうなのか。本当なら来る予定だったってことか。
でも来なかった、会わなかった。
確か原作では、学園に入学後に初めて会うはず。これが何としても本筋に戻そうとする、矯正力――強制力というやつか。

見えない力が働いてるようでゾッとする。

怖いなーやだなー。

「シュリエッタ様がどうかされました?」
「いや~、公爵令嬢ってどんなんかと思ってね」

侯爵令嬢のチェイシーは、最初こそアレだったが、打ち解けてしまえば気さくな子だった。まだ子供だからかもしれないが、実は結構私に近い雰囲気があると思う。

はたして公爵令嬢の方はどうなのか。

この世界において、最もアイシュラが警戒すべき相手は彼女だ。
ざまぁされない、されたくない。
その為には最も仲良くなるべき相手なのかもしれない。

そもそも、こういった世界のざまぁ話は、大まかに2種類に分かれる。
この世界のみの記憶しかないが、すこぶる優秀で、自力でざまぁするのと。転生してきて未来が分かるため、その対策をとってざまぁするのと。

私の場合は後者だ。

そして件の公爵令嬢は、確か転生者ではなかった。本当に優秀な女性で、私や私の取り巻きとなる貴族の男共を見限り、様々な証拠を用意して論破、ざまぁするのだ。

ということは、だ。彼女は私のように未来を知ってるわけじゃあない。これは非常に対策取りやすいんじゃないだろうか?

仲良く、なっとくべきか……

そう結論づけた私は、アミュの顔を見た。

「一度お会いしてみたいな。次のお茶会っていつになるんだろ?」



※※※※※



暑い。何だこれは。

もう夏と言っても差し支えなくなってきた今日この頃。陽射しは当然強く、庭でお茶会など出来るわけもなく。さりとてどうしても賑やかになる子供の集まりに、屋敷内でお茶会を、などと言い出す貴族もないらしい。

少なくとも秋まではお茶会が無いとアミュから聞き、だれてしまった。そんな私の目の前にスッとグラスが差し出される。

氷と共に入れられてるのは、おそらくはリンゴジュース。この季節ならカルピスが飲みたいところだけど、無いんだろうな。以前聞いたら何それ?って顔されたもんな、誰か開発してよ。私は無理、全力人任せで願う。

お盆の上に乗せられたそれを見やり、次いでそれを差し出してきた本人を見る。

「どうぞ、お嬢様」
「ありがとうメンテリオス」

そう言ってグラスを手に取り、静かにストローで飲む。音を立てないように。間違ってもズズズーっとか音を立てない!一口飲んで、ふうっとため息をつき。
……どちらからともなく吹き出した。

「あっはっは、様になってるよ、メンテリオス!」
「そりゃどうも。そっちは全然お嬢様らしくないけどな。ジュース飲むだけで緊張しすぎ」
「ほっとけ」

使用人見習いのメンテリオスと、お嬢様見習いの私。
お互いにまだぎこちなくて、どうしても笑ってしまう。

う~ん、どうにも「ゴッコ遊び」みたいになっちゃうなあ(苦笑)

「ねーメンテリオス」
「ん?」
「格上の令嬢と仲良くなるには、どうしたらいいのかなあ?」
「は?」

間抜けな返事をされてしまった。
それに突っ込むこともせず、飲み終えたグラスをメンテリオスに渡し、私はテーブルに突っ伏してしまった。

普通、貴族の子供同士が顔を合わせるのはお茶会くらいだ。そこで仲良くなって、初めて個々に互いの家を行き来して遊ぶ。

お茶会で仲良くなれなかったら、もう学園に入学するまでは話す機会も無い。

確か入学は、16歳直前。春生まれの私がまだギリギリ15歳の初春。

入学しても公爵令嬢なんて格上の存在、こちらから話しかける事など出来ない。何かしらのキッカケがあって、向こうから話し掛けてくるのを待つのみ。

原作のアイシュラは、格上だろうがそれこそ王子だろうが、気にせずグイグイ行ってたようだが。まともな礼儀を学んでる私としては有り得ない。精神年齢34歳の大人、無礼な事なんて致しません!そもそもコミュ障だし(本音こっち)

うーん……素直に次のお茶会まで待つしかないかあ。まだチャンスはある。入学するまで何度かお茶会があるはずだし、1回くらいは会えるだろう。

そう思ってたのに。

なのに

私はやっぱり原作へ導く強制力を、見くびっていたのかもしれない。



※※※※※



「ふおおおお……!」
「変な声出さないで下さい、お嬢様」

パリッと紺のブレザーに白のシャツ、グレーのズボンを着こなすメンテリオスが、鋭く突っ込みを入れる。ブレザーと同色のネクタイがよくお似合いで。

対するは白のブレザーに紺のリボン、同じ紺のフリルスカートは裾の方に白ラインが入っている――を着る私。……よくお似合いではないようで。

自分への悲しい突っ込みは心の中でおさめ、改めて自分の姿を鏡に映した。

制服は可愛い。文句なしに。さすが、王家お抱えのデザイナーがデザインしたと聞いてるだけのことはある。

いかんせん、着てる方に問題があるのだ。

この数年、頑張って……というか、周りが伯爵令嬢とは!と、厳しくしてくれたこともあって、体型は維持できていた。元々栄養失調気味のせいで痩せ型だったから、それを健康的な状態で維持したような感じ。

……胸まで維持しなくても良かったんだけどな。

恨めしいやらアミュが羨ましいやら。

1歳下の彼女は、けれど私とは真逆に立派な成長を続けている。あれか、母親の血のせいか。いや私の母もでかかった。じゃあ何でだ。

不毛な悩みに頭を悩ませている私を、メンテリオスが白い目で見てくる。私の考えてることなんざお見通しか。じゃあフォローしてくれ。しないか、そうか。

せめて顔がもう少し整ってたらなあ。
折角の紫紺の髪と金の瞳が勿体ない。もうちょい母の美人因子が欲しかった。絶対クソ親父の血が邪魔してるんだ。おのれ、クソ親父め。

今頃クシャミしてるかもしれない父親に恨み言を心のなかで呟き、もう一度鏡を見る。「何度見ても良くならねーよ」おい聞こえたぞ、今の声。

ギロッとメンテリオスを睨みつけてやると、シレッとした顔の彼がいた。タヌキめ。

「お嬢様、用意出来ましたか?」

お前絶対私のこと「お嬢様」とか思ってないだろ。いいけどさ。

ふ~~~

緊張を和らげるため、深呼吸を一つ。スッと顔を上げると、そこには立派な伯爵令嬢の顔があった。

「ええ、行きましょうか」

今日は王立学園の入学式である。

15歳の春--
結局私は、あれから公爵令嬢に会うことはなく。

今日の入学式を迎えることとなったのである。


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