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第一部
19、全て計画通り!…ということにしておこう ※アーサー視点※
しおりを挟むさて困った、どうしよう。
誘拐された俺は、現在非常に難しい問題を前に内心頭を抱えている。
「いい子だね~、ねんね、ねんね」
およそ子守歌なんてものを知らないであろう女が、俺を腕に抱いて揺れている。おそらくは浅い知識で、そうすりゃ子供は寝るだろうと思ってのこと。
たしかにちょっと眠くなってきた。なにせ体力のない1歳児の体だ、誕生日パーティーからここまで、随分と時間が経過している。おそらく時刻はとうに夜。子供は寝る時間であり、眠気がおそってきている。
だがしかし、俺はここで眠るわけにはいかない。
理由の一つに、脱出計画なるものがあるから。
しかし! だがしかし! 駄菓子は美味しい駄菓子菓子!
最大の理由がここに!
うとうとする俺を、女がギュッと抱きしめる手に力をこめた。そうなるとどうなるか?
豊満なお胸に俺の頬が押し付けられるわけですよー!
いやいや、まて俺、落ち着け俺。
俺は今、そんなことに鼻の下を伸ばしている場合ではないのだよ。
一刻も早く相手を油断させて、風魔法でもって飛んで逃げないと……逃げないと、ああ逃げないと……。
・・・・・・
無理!!!!
おっとさんおっかさんゴメンよ、俺は今、けして逃せぬ至福タイムに入っているのだ。
逃げたくないわけではない。でも相手のことをよく知るのも必要なことであって。
そう、これは戦略。
けして狙ったわけではない、偶然による結果としてのだなあ……!
なんか延々と言い訳しているが、つまるところは俺は脱出を放棄したってことですはい。さーせん。
しかしなんだな、この女、いい香りがするわ温かいわで、なんかこう眠くなるな。
このままではまずい、本気で眠ってしまう。
そうは思っても、抗えない1歳児の睡魔。くっ、体力のない体が口惜しい。
駄目だと抵抗しても、瞼がくっつきかけて……熟睡まであと十秒。
ガシャーン
「なんだ!?」
不意に女が叫び、体が震える。俺は睡眠を邪魔されて、若干の苛立ちを覚えた。
なんだよ一体、俺の至福タイムを邪魔するふてえ輩はどこのどいつだ!?
原因に対して理不尽に怒りを覚える。
すると俺の心の問いに答えるかのように、「あーさぁぁぁぁっっ!!!!」と原因が叫んだのだ。
「メリッサ?」
つい名前を呼んでしまったが、銀髪女には聞こえなかったらしい。
「侵入者かい!? くそ、どうやってここが!?」
慌てて俺をベッドに寝かせた女は、ドタドタとうるさい足音と共に部屋を出て行った。
そして部屋に一人残される俺。
あれ、これチャンスじゃね?
ちと計画と違ったが、結果として一人になることに成功した。
屋敷内外がなにやら騒がしいが、この騒ぎに乗じて逃げるが得策と感じる。すぐさま俺は体内を巡る魔力に意識を向けた。
まだ幼い体では、自分の体を浮かせることしかできない。
でも今はそれで十分。ここから逃げようとしているのは、自分一人なのだから。
魔力に集中した俺の、髪がフワリと揺れる。
直後、俺の体がベッドから数センチ浮かび上がった。このまま窓まで飛んで……
目を閉じて集中していた俺は、そこで目を開き窓の方を向いた。
そうだ、あの窓に向かってまずは飛んでだな。
フワフワと体が窓に向かう。
窓の外はすっかり真っ暗で、夜であることを示していた。
その窓の外に、金色の光を認めて、俺は目を細めた。満月か? そういや今日は満月だよってメリッサが言ってたなあ。
にしても、いくら満月とはいえ、やけに眩しいな。
まあいい、真っ暗闇の中を飛ぶよりは、光源があったほうが安全だ。
そうして浮遊する俺の体はどんどん窓へと近付いて行った。
金の光もどんどん近付いてくる。
どんどんと近付いてきて……って、え、なんで光が近づいてくるんだ?
窓の外に目をこらした俺は、見えたものにギョッとなった。
「メリッサぁっ!?」
その光が、実はメリッサの金髪であることに気付いて上げた叫びと。
ガラスが割れる音と共に、メリッサと彼女がまたがる大きな獣が部屋に飛び込んで来たのと、それはまさに同時であった。
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