【第一部完結】「子供ができた」と旦那様に言われました

リオール

文字の大きさ
42 / 63
第一部

42、選択したらピコンと音がするかな

しおりを挟む
 
 公然の秘密であるところの、私の光魔法。クラウド様と婚約結婚して公爵家の後ろ盾ができても、それでも手を出す輩はやはりいる。
 この三年、ほぼ平穏ではあったが完全にとは言えなかった。

 未遂も入れれば、誘拐事件は結構あったのだ。
 今回ほどの完璧なのは初めてだけれど。

「私を誘拐するために闇魔法を使ったってことですよね?」
「そうさね」
「じゃあ……私の誘拐に対する報酬は高額ってことですか?」
「……なんでちょっと嬉しそうなんだい」

 いやあ、なんかちょっとVIP扱いな気分? 照れまんがな。

「違うさ。今回は誰の依頼でもない」
「え。というと?」

 首を傾げる私に、銀髪美人なノンナリエがフッと笑った。どんな笑顔も綺麗だなあ、羨ましいなあ、胸でかいなあ羨まし……くないぞ、絶対。

「今回は、あたしの独断であんたを拐ったのさ。闇魔法使いは私の相棒だからね、私の要望なら報酬なくても動いてくれる。あたしがあんたを欲しいと言ったからね」
「え、ごめんなさい、私は既婚者で夫がおりまして」

 こんな銀髪美人に惚れられるとか、私が男なら小躍りして喜んだけど……いや、女の身でも喜ばしいのだが、残念ながら私にはクラウド様がいる。彼がいなけりゃノンナリエのお嫁さんになっても良かったんだけどねえ。

「どんな勘違いしてるんだよ。あんた、光魔法の使い手だろ?」

 ビシッ。

 もし空気がガラスのようであったなら、多分ヒビが入った。いや私は確かに聞いたよ、空気にヒビが入る音を。
 それくらいの衝撃。

「え、えーっと、なんのことでせう?」
「なにその言葉遣い。あんた嘘つけないタチだろ」
「いえいえタチも座りもございません。わたしゃちんけな小娘で……」
「あの屋敷に飛び込んできたとき、おもいっきり光魔法使ってたじゃないか」

 あーーーーー…………

 あの時ですかーーーー……

 バッチリ見られていた、と。
 マジで最悪なんですけど!

 内心頭を抱えたい気分ではあるが、それをしたら光魔法使いであることを認めたも同然。別に隠すつもりはないが、悪党には教えたくない公然の秘密。

 なので

 ▶黙ってる
 ▶話す

 の選択肢があるならば、確実に ▶黙ってる を選択だ。

「私は魔法は使っておりません。旦那様からいただいた魔道具ならば使いましたけど」

 どうよ、この満点解答。これならば、いい感じに説得力あるでしょ。
 魔法教会や魔塔に属する魔法使い達の一番の稼ぎは、魔力を付与した魔道具作成だ。それらは人々の生活に根付き、時に魔物との戦闘にも役立っている。

 公爵家ともあれば、高額な、凄い魔道具だって手に入れられるんだい。

 そう言えば、「ははは」と笑われた。すっごい乾いた笑い、いただきましたよ。

 全然信じてないな~。さてどうしましょ。

 いっそ、光魔法使って逃げるか? どうせそうだと思われているのだ、今更バレても困るものでもない。
 でもそうなると今後が面倒なんだよねえ。

 こういう裏社会は裏社会で、情報網ってのがある。時に敵になり、時に味方として暗躍する彼らの間で、私が光魔法使いだとバレたら……バレちゃったらどうなるか。

(うん、確実に平穏な日々が遠のく)

 これまでは『そんな噂があるよ』程度だったものが、『噂は本当だった』となるのは非常にまずい。
 いくら裏稼業の者であろうとも、公爵家においそれと手出しはできない。だからこそ、私が本当に光魔法使いであるか調べる者は、どこにもいなかった。

 ……拐って調べようって輩はいたけどさあ。

 直接聞かれることもあったけれど、そういった質問には「違います」とキッパリ否定していた。そこはね、ほら、やっぱ公然の秘密ですから。秘密をバラすなんてことはいたしませんよ。

 一貫して『誤魔化す』しかないな。

 そう思っていたら、ノンナリエが私の顔を覗き込んだ。

「あんたこれまでにも誘拐されたこと、あるだろ?」
「え……」
「裏世界のやつらがやってることを、あたしが把握してないとでも?」
「さ、さあ?」
「まあいいさ。とにかく、あんたには私の頼みを聞いてもらうよ」

 そう言って、ノンナリエはカーテンの隙間から外を見る。その目が、窓の外の景色ではなく、もっとずっと遠くを見ているようで気になった。

「あなたの頼みとは?」

 光魔法使いを調達するなんて、なんとなくは想像できる。
 でも詳細までは分からない。
 どんな事情があるかなんて分かるはずもない。

 私の問いに、ノンナリエはまたニヤリと、綺麗な笑みを浮かべるだけ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...