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第一部
51、魔の森
しおりを挟む魔族側の領土に入るため、割れた大地を渡る方法として設置されたのは、あまりにも心もとない吊り橋一本。今にも縄が切れそうだし、風が吹けば揺れるのが非常に絶叫系アトラクション。
「遊具と違うのは、落ちたら死ぬってことだけさね」
それは冗談なのか本気なのか……多分両方なんだろうなと思いつつ、突っ込む勇気もない状況で、私はおそるおそる足を進める。
「みみみみんな、よよよよく、ここここんな」
「……なに言ってるか分かんないんだけど」
恐怖のあまりどもりまくったせいか、怪訝な顔をされてしまった。どうしてそんなに平然としてられるの!?
下を見れば、大地の裂け目はどこまでも続き、底が見えずに真っ暗け。落ちたら反対側の国に出るのではなかろうかと思えてしまう。それほどに割れは深い。
よくこんなところで、橋が作れたなと感心するわ。
「私が協力したんだよ」
「あ、なるほど」
ノンナリエならば、れいの闇魔法使いがいるから、向こう側に移動して吊り橋を作るなんてこともできるのだろう。定期的に来てるらしいから、その都度メンテナンスしているのかな?
「見た目ほど脆くないから安心しな。今のところ、ここから落ちたのはまだ片手で足りている」
「落ちた人、いるんですか?!」
「冗談だよ、そんな間抜けはいない」
この状況でよく冗談が言えますね!
そしてそんな間抜けの第一号になりそうな予感がひしひしとしますよ。
「ほら、ちゃっちゃと進みな」
「ひい!押さないでえ!」
こんなところで背中を押すのはマナー違反ですよ!
叫んで前を見れば、同行していた村人は既に渡り終わっている。
「ほら、みんなあんたを待ちきれなくて、森に向かっちまってるじゃないか」
「あああ、待ってえぇ……」
語尾がか細くなるのは、また下を見てしまったからだ。
「渡り終えるまで下を見ない!」
「はいいっ!」
村人がさっさか向かっている先には、魔の森と呼ばれる魔族管轄の森がある。そこでは希少な薬草が採れるってんで、村人がときおり行っているらしいのだけど。
『昼間は、それほど危険ではありませんよ』と一人が言っていたが、森はあまりに広大で、奥の方は暗くて昼も夜もなさそうな感じ。
薬草は森の入口で採取しているらしいから、きっと彼らも奥がどうなっているかは知らないだろう。
しかし隣町で取引されているという獣肉……おそらくは魔物肉。それは入口近辺であるとは考えにくいんだよねえ。
あんなふうに穢れがあるのだ、奥の方で生息する魔物の間で、何かしら起きているのかもしれない。でもって、その肉を持ち帰る人間ってどうなの。
ある意味、魔物より人間のほうが恐いのかもしれない。
そんなことを考えていたら、いつの間にか橋を渡り終えていた。
「や、やっと渡れたあ!」
「帰りもあることをお忘れなく」
「……オンブしてくれませんか?」
恐る恐る言ってみた私の言葉は、華麗なスルーと共にノンナリエはスタスタと森へと向かうのであった。あああ、待ってええっ!
「結構な距離がありますね」
割れ目の向こう、人間側の領土から見ていた森は、もっと近くにあるように感じていた。だが実際に歩いてみると、これがなかなかの距離で、先を行く村人たちですら、まだ到達していない。
「それほどに大きいってことさ」
「つまり?」
「距離感が狂うほどに大きいんだよ」
「ああ、なるほど……」
魔の森の闇は深いようだと、ため息をつく。
と、不意に森で「ギャア、ギャア!」と獣だか魔物だかの叫びが上がり、黒い鳥が一斉に飛び立った。
そういうホラーな効果はいらないです!
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