54 / 63
第一部
54、私がここにいる根本的原因はあなたなのですが
しおりを挟む私とノンナリエとゼンの三人は、ゆっくりと森の奥に向かって歩き出す。
時折獣だか魔物だかの鳴き声や気配がするも、どれも私達を襲ってくる様子もなく、平穏そのもの。異様なまでに暗いこと以外は、森は至って穏やかだ。
「光魔法って、普通に光を作り出せるんだね」
「まあ光魔法ですから。その名の通りの魔法を使えなかったら、名乗っちゃ駄目でしょってなりますし」
私達の進行方向に浮かぶは、ランプのように明るい光の玉。私が作り出した光のおかげで、暗い森も難なく進めるというもの。
「ねえねえ」
不意にゼンが私の腕を引く。
「ん? なあに?」
「どうしてメリッサは、ノンに対して敬語なの?」
それな。
私も自分で言ってて不思議なのだが、なぜかノンナリエには敬語を使ってしまうのだ。彼女の、誰にも媚びへつらうことのない、威厳ある態度ゆえなのか。
「私のほうが偉いからだよ」
いきなりノンナリエが変なこと言い出した。
「え、そうなの?」
ゼンが知らなかった、というように目を丸くする。
「ちょっと。子供に妙な嘘教えないでくださいよ」
「嘘じゃないさ。実際、私のほうが上だと思うから、あんた私に対して敬語なんだろ?」
「いや知りませんよ、そんなの」
どっちが上で下かなんてどうでもいいわ。
「あなたとは、いずれ決着をつけなければいけませんね」
「お望みとあらば、いつでも」
なんなら今からでも、と言い出しそうな雰囲気だ。その表情からは、負けることなんて一切考えてないということが伝わってくる。私、そんなに弱そうに見える?
まあ勝てる自信なんてないけどさあ。
などと他愛ない(?)会話をしつつ歩いていたら、結構な奥まで来たらしい。
「この辺は、光が一切入ってきませんね」
上を見れば、わっさわさ生えた木々が空を覆い隠し、最初はかすかながらもあった陽の光はまったく感じられなくなっている。
「そろそろ森の中心部くらいかねえ」
ずいぶんと歩いたよね。
そう言ってノンナリエが周囲を見回したとき。
「おんや? 何かいるね」
目を細める。
え、魔物? と警戒と共にゼンを背後にして前方を見据えた。
「まだ距離があるから何かは分からないが……」
「人、ですね」
「見えるのかい?」
「まあ光魔法のおかげで、視力いいので」
「便利なもんだね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「魔法を褒めただけであんたを褒めたわけじゃない」
「でしょうね!」
魔法を褒めて私を褒めないという理屈がわからないが、疑問は今は横に置いておく。
「魔の森の奥深くにいるんだ、人……じゃないだろ」
「魔族ってことですか?」
「十中八九は」
そう言いながらも、八でも九でもなく、100%そうだろうなと思っていそうな顔のノンナリエ。その手は剣に伸びている。いつでも戦闘態勢に入れるってことか。
とはいえ、正体を見極める前にいきなり斬りかかるのは、あまりに不躾……なのか?
万に一つの可能性で、人間であることも捨てきれないので、とりあえずはいきなりってのはやめたほうがいい。
「待ってくださいね」
「分かってるよ。あんたはどうでもいいけど、ゼンを守らにゃならんからさ、警戒を怠らないだけさ」
「いや私も守ってくださいよ」
「なんで」
なんでときたか。なんでときたか。あと三回くらい繰り返したい。
と、不意に私の手を握る温かな手を感じた。怖くてまた握ってきたのかな?
「ゼン、危ないので少し離れて……」
手の主を振り返って、私は言葉を失う。
57
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる