【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール

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プロローグ

9、

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 食後ということもあり、それほど長い時間の散策にはならなかった。
 それでも主だった部屋を見終える頃には、夜と言うには十分な時間になっていた。見れば広谷さん一家のお父さんが、眠ってしまった健太君を抱っこしている。そりゃ子供は寝ちゃうよねえ。最初の頃は興奮してはしゃいでたんだけど、徐々に飽きてきて……結果ダウンしたのは随分前のこと。お父さんは大変だ。

「夜も更けてまいりましたので、そろそろ今日お泊りいただくお部屋にご案内したいと思います。そこでお荷物が間違いないかご確認いただきました後、その後は自由時間とさせていただきます。ただし」

 さすがに疲れていたので、みんながホッと息を吐いたところでグルンと首だけ後ろに向けて、真顔で真殿さんが私達を見た。そういう演出いいから!

「先ほどご案内しました部屋以外は、勝手に出入りなさいませんように。我々スタッフの部屋もございますし、まだお見せしてない部屋も多数ございます。それは明日以降のお楽しみにということで、はやる気持ちをグッと抑えていただけますと幸いでございます」

 言われた事に皆一様にコクコクと無言で頷いた。それを満足げに目を細めて見てから、真殿さんはまた歩き出した。ふ、雰囲気出してくるなあ。



* * *



「わ、なかなか綺麗でいい部屋だねえ!」

 宿泊用に整えられた一室をあてがわれた私と隆哉は、その雰囲気に息を呑んだ。なんというか……なんと言えばいいのか。とりあえず天蓋付きのベッド一つで、自分がお姫様になった気分ですよ!

「素敵……お姫様になったみたい」
「ぶっ」

 思わず声に出して言ったら噴き出す隆哉。殴っていいかな。

「女の子はいつだってお姫様になりたいのよ」
「女の子……どこに?」
「殴って欲しい?」
「ごめんなさい、冗談です」

 ギロリと睨めば苦笑を返す隆哉。
 実を言うと。実を言えばですね。
 私達──緊張してるんですよ!
 だって当然でしょ、私達カップルだもの。恋人だもの!
 お互い実家暮らしで、互いの部屋に行くなんてこと出来ない。デートはもっぱらお外。ラブホ?何それ美味しいの?
 そんなお子様カップルなんですよ、悪いか!
 だからこそ、今回の旅行は私達にとってかなり踏み込んだ、大きな進展なのである。緊張しないわけがないのだ。

 天蓋付きベッド見てお姫様~だなんて言ったけど、その実、脳内では放送禁止なこと考えてたりするのだから……エロい!私エロいわ!

 経験ないくせに、そんな事を考える自分が恥ずかしい。
 顔が火照るのを感じ、熱を鎮めるべくシャワーでも浴びようかなと考えて、またハタとなる。
 しゃ、シャワー浴びるとか!そういうの妄想させるじゃないか!
 いやまて、普通にシャワーは浴びるでしょ。なんならお風呂も入るでしょ。そんなの普通だ普通。変に考える私がおかしいのであって……

「……なに百面相してるんだよ」
「ひえあおう!!!!」

 あれこれ考えて自分に言い訳してたら、その顔を覗き込まれた。変な声出た!

「大荷物は間違いないみたいだし、着替え出してシャワー浴びてきたら」
「……その言い方はエロい」
「そりゃそういう意味で言ったからね」
「!!」

 もうそれ以上言い返す精神の強さを持たぬ私は、旅行鞄をガバリと開け、大急ぎで着替えを手にして浴室に向かうのだった。
 ……別に気持ちがはやっての行動ではない。単に恥ずかしかったからだ!……って、私は一体誰に言い訳してるんだよおおお!

「うわあ……素敵……」

 それは映画なんかでしか見た事ない浴槽だった。あれですよ、洋画に時折出て来る、脚のついた浴槽。事前調べで知ってる私の豆知識、こういう浴槽を猫足バスタブと言うのだよ!小さい子供はまたぐのが大変で入りにくいだろうが、大人の私には問題ない高さ。
 直ぐにでも入りたいのだが、いかんせん浴槽は空である。つまり湯を張るには時間がかかる。溜まるまで部屋に戻って時間を潰す、なんてことする勇気は真っ赤な顔の私にはない。なので仕方なく、私は猫足バスタブの横、高い位置に設置されたシャワーの取っ手をひねった。
 しばらく待てば、水は湯になり湯気が立ち込める。それを満足げに見つめて、私は服を脱いだ。

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