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第一部
31、吸血鬼とメイド(2)
しおりを挟む皆様こんばんは、メイドのエミリーでございます。
この吸血鬼公爵家にやって参りましてから早一ヶ月。なんだかんだで慣れてきた今日この頃。
イメージと違った、フィーリアラ様にぞっこんメロメロちょろい吸血鬼公爵に脱力した事も、もう懐かしい思い出に感じてしまうくらいに遠い昔に感じます。
ついでに優しく思いやりがあり、なかなかに聡明な人狼とも仲良くなってドキドキの日々を……いえ、その話は今必要ないですね。
本日、会いたくもなかった、懐かしい顔を持ったピンク頭が屋敷にやって来たのには驚きましたが。まあ流石に公爵家で何かするはずはないだろう。
──と思った自分を殴りたい!壁に頭打ち付けたい!
ピンク頭の素敵な悲鳴を夢うつつに聞いた時には、本当にスカッとしたものでございます。というか、その悲鳴の直後にはピンク頭がボロボロの顔になってる夢を見まして、痛快だったものです。
疲れとは恐ろしいもので……そのまま二度寝しそうになったところで。
『きゃああぁぁ!?』
お嬢様の悲鳴が!
一瞬で覚醒した私は、ガバッと起きて声がした方へ──公爵様のお部屋へ走ったわけですが。
「何ですか、この状況は」
部屋に足を踏み入れた瞬間、見たくもないものを見て顔をしかめてしまったのはお許しください。
だってどうしようもないくらいに不快なんですもの!
なんでピンク頭がピンクのベビードール着て倒れてるんですか!
……鼻血を出して白目向いてるし。
ホッペのグルグル渦巻は、絶対お嬢様の仕業ですね。グッジョブです、フィーリアラ様!ちょっと映像記録魔道具ありませんか?絶対残しておくべきなんですけど、この間抜け顔。あ、無いですかそうですかそれは残念。
「で、この状況はつまるところ?」
横に立つヨシュさんに聞くと。
「はあ……まあそういう事です」
そういう事ですか、夜這いって事ですね、説明要らないですね、この状況。
で、お嬢様はどこに行かれたのでしょうか?先ほどの悲鳴が気になるんですけど。
「お嬢様は?」
「誘拐されました」
「はあ、誘拐……ゆーかい!?」
叫んでヨシュさんの顔をガン見しましたよ!
なにサラッと誘拐とか言ってるんですか!
「だだだ誰にですか!?」
「この国の第一王子ですねえ」
それはあれか、王太子ってやつですか!?
なんでそんな大物がこんなところに!?
そしてそこで理解しました。なぜベランダで呆然としていたのに、鬼の形相でコチラに公爵が向かってくるのかを。黒いオーラ出てるし。
「あれは激おこぷんぷんな状況でしょうか?」
「激おこぷんぷんですねえ」
なんでしょう。人は恐怖しすぎると一周回って恐怖無くなるんでしょうかね。
鬼の形相の公爵を冷静に見てる自分が恐い。
ズカズカと大股で歩いてきた公爵は、床にしゃがんで片膝をつきました。
目の前には、未だ白目のピンク頭。
そのピンクのベビードールの胸倉をムンズと掴んで……
ビターーーーーーーーーーーン!!!!!
ビンタしたー!
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