吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

33、吸血鬼とメイド(4)

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「さて、えーっと……あ~っと……ピンク頭のお嬢さん」

 名前ど忘れしたでしょ、ヨシュ。いいですけど、覚えなくて。一生忘れててください。

 ヨシュは冷静にピンク頭に話しかけます。強く握られた拳が、苛立ちを感じますが、さすが名執事。いかなる時も冷静さを忘れないんですね。

「あなた行き当たりばったりっぽかったけど、実は計画的に来たでしょ?しかも誰かの命令じゃないですか?」

 誰かって……王家以外にあるんでしょうか。一応そこは断定せずに聞いてるのでしょうかね。

「ふえ!?知らひゃい知らひゃいよ!おーけとか、あらし知らひゃいから!」

 良かった、安定の馬鹿だった!
 気を失ってたピンクは王太子を見てはいない。なのに「王家」とか言ってる時点で答えは見えたわけです。

「そうですか。ちなみに王太子から何か言われてませんか?」
「おーじさま?べつになにも……あ~おーじさまかあ……こーしゃく様もいーけど、おーじさまもいーよね~。やら、あらしのこと取り合いとかなっちゃっひゃらどーしよぉぉ!?」

 はい、公爵様が手を振りかぶりましたー!
 私は当然のことですが、ヨシュも今度は止めません。

 あ~部屋に響き渡るビンタの音が心地よいですねえ。

 いつまでも聞いていたいですが、そうもいきません。何よりフィーリアラお嬢様が大事!

 どうするのかと様子を見ていれば。

 また気絶したピンク頭をヨシュが縄で縛りあげてました。行動が早い。どこから出したんですか、その縄。いきなり出てくるの流行りですか。

「ふう、汚いものを触ってしまった」

 大概あなたも毒舌ですね。
 ゴシゴシとタオルで手を拭き、そのタオルはゴミ箱イン。

 そして公爵を見やる。

「で、どうするんですか?」
「決まってる、フィーリアラを助けに行く」
「場所は分かってるんですか?」
「城に行けば分かるだろう」

 人さらいをしておいて、素直に城にフィーリアラ様を連れてってるわけはないと思いますが。誰か一人くらいは王太子の行動を知ってる者がいるのではないか。そういう事なんでしょう。

 けれどヨシュはため息をついて肩をすくめました。

「これだからゼルストア様は……いつも僕に押し付けてるからこういう時困るんですよ。王族の隠し別荘くらい知っておいてください」
「む……」

 なるほど、隠し別荘!さすがヨシュ、あったまいい!惚れ……ません!

 なんだかフィーリアラ様に似てきたと感じる自身の頭を振って、現実に戻ります。

「別荘なんてたくさん有りそうですが、全部見て回るんですか?」

 それならば、やはり城で誰かひっ捕まえた方が早いのでは?
 そう聞くと、ヨシュは人差し指を立てて横に振ってニヤリと笑いました。

「ちっちっち、僕の情報網を舐めないでいただきたいなあ。舐めて欲しいですけど、舐めないでくださいよ」
「何言ってんですか」

 夜のジョークだよ、とか言われても笑えませんよ。どこのオヤジですか。あ、あなたオヤジどころかミイラレベルに年いってましたね。

「ミイラって……ふっ、はっ……!」

 そこツボ?お腹抱えて笑われてしまった。
 いやもういいから、早くしてくださいよ!

「はは、すみませんすみません。えとですね、王太子の別荘は一つしか無いです。まあ他の別荘も利用できますけど、王太子が自由に出来るのは一か所だけなんですよ。なのでそこにフィーリアラ様がいる可能性大です」
「よし案内しろ」

 言うが早いか、公爵様がヨシュを肩に担ぎ上げました!

 おおお、さすが公爵、ちっからっもち~!

「え、そこはお姫様抱っこで」
「落とすぞ」
「ごめんなさい」

 余裕があるのか無いのか、二人はいつも通りの飄々としていて。だから私も安心して任せられたんだと思います。

「エミリー、その変態は危険だから、そのまま近づくな触るな見るな、埋め……るな」

 一瞬、埋めろって言いかけたでしょ。
 私も埋めたいですけどね。

「心配しないでも大丈夫ですから。すぐにフィーリアラ様を連れて戻りますからね」
「分かりました。公爵様も……ヨシュも、どうかお気をつけて」

 何か温かいものを用意して待ってますね。

 私がそう言うと、公爵様は一つ頷き。
 ヨシュはニッコリ笑ってくれた──公爵様の肩に担がれてなかったら、イケメンだなあとときめいてたかもね。

 公爵様はベランダから飛び降りたかと思うと、一瞬で闇の森へと消えて行った。それはもはや人間業ではありませんでした。

 そして、その後を追う複数の影──。
 あれ、見間違いかな。

 と思いたかったですが、見間違いではないですね。

 確かに見えました。フワモフ達が森の中へと消えて行くのを──公爵を追いかけて行くのを、私は止められなくて呆然と見送る事しか出来ませんでした。



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