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第一部
34、吸血鬼と愚かな男
しおりを挟む目を覚ますと、私は知らない部屋のベッドに寝かされていた。一瞬記憶が混濁したけれど、すぐに思い出す。
ああそうだ、たしか馬鹿な妹がやってきて、公爵に夜這いかけた馬鹿妹が殴られ気絶したのを見て、その顔に落書きをして……で、私は突然現れた王太子に連れ去られたんだっけ。
──どうやら気を失っていたようだ。
キョロキョロと部屋を見渡す。
豪華だけれど、どこか味気ない、無機質さを感じる部屋。
なんというか生活感がないのだ。使い込んだ自室とかではなく、滅多と使わない部屋のような。
ただ、豪華とはいってもそれほど大きくはない部屋。という事は、ここは王城ではないということか。
となると、ここは一体──
頭を捻っていると、不意に扉が開いた。
カチャリ……
そこから顔を出すのは、王太子──ではなかった。
「レイオン!?」
予想外な人物の出現に、私は驚いて大声で相手の名前を呼ぶのだった。
「えっと、ごめんねフィーリアラ」
「どういうこと?」
顔を見るなり謝られたのだけど。どういうことなのか説明してもらいたいものだ。
「ここはどこ?王太子は?どうして貴方がいるの?」
矢継ぎ早にかける私の質問に、レイオンは困ったような笑みを浮かべた。
屋敷にウェンティが来て。
王太子に攫われて。
攫われた先にレイオンが居た。
全ては仕組まれていたということだろうか。
「まさかキミを攫ってくるなんて思わなかったんだ。これは本当だよ」
私の考えを読んだかのように、言い訳がましくレイオンが言う。
「どうだか。じゃあどうして貴方がいるのよ」
睨みつけるように見ると、ポリポリと頭をかきながら、近くにあった椅子を引き寄せて、レイオンはそれに座った。私はベッドの上で、正座をして聞く体制になる。
「王家がね、キミと吸血鬼公爵がどうなったのか見てこいって言ってきたんだよ。キミの実家に」
「うん」
「そしたらなぜかウェンティが行くことになってね」
「うん」
どうせあのハゲ親父のことだ。恐いとか言ってウェンティに押し付けたんだろうな。でもよくウェンティもそれを承諾したもんだ。
「なんかね、もし君が死んでたら、ウェンティが公爵の妻になれって言われたらしくって」
「いやそれ酷いな!」
本当に酷いな!
何それ、私は使い捨てですか!駄目ならハイ次~ってか。酷くね!?
「本当に酷いよね。ウェンティは僕と結婚予定だったのに」
「あーそうね」
そっちか。
そういえばそうだったわね。あなた達、くんずほぐれつの関係でしたね。どうでもいいから忘れてたわ。
「ウェンティも泣いて嫌がるかと思ったら、なんだか嬉しそうに出てくもんだから。僕不安になっちゃって」
知るか。姉の婚約者を寝取るようなウェンティが、一途にお前を愛すると思うなよ。
「案の定、公爵にせまったって言うじゃないか」
そうね。返り討ちに遭ってたけど。
「王太子からさっき連絡があって、慌てて来たんだよ。ねえ、僕のウェンティは大丈夫なの?」
僕のとかキモイこと言うな。仮にも元婚約者の私にそんなこと聞くか。
「知らないわよ、そんなこと」
「つれないなあ」
そっけなく返したら、ムッとした顔で言われた。いやなんで私が貴方に優しくしてやんなきゃいけないのよ。
「とにかく私は帰ります。王太子は今居ないの?なら今のうちに帰らないと」
「え、ちょっと待ってよ」
ここがどこかは分からないけれど、このまま居るのは危険だと思う。なので私はすぐに出ようとベッドから降りようとしたら。
なんで押し戻す。
なぜかレイオンに遮られてしまった。
「ちょっと、どいてよレイオン」
「折角ベッドがあるんだしさ。ちょっといいことしようよ」
「はああああ!?」
いやほんと、はあ!!!???だよね。
何言ってんの、こいつ。ウェンティに毒されすぎなんじゃない?
「僕、ウェンティとで色々勉強したんだよ。きっとキミも満足させてあげれると思うから」
何言うてますのん。あなた本当に何言うてますねん。
あれか、何も知らない無知なお坊ちゃまが、あれこれ大人の階段上っちゃって。
んでもって意味不明な自信つけちゃったってやつか。
全ての女を虜に出来るとか思っちゃったわけか。
恐っ!
何その思考。考えたら怖いわ!
ウェンティもそのクチなんだろうなあ。全ての男は私のモノ!とか言ってそうだもん、あの子。
「どいて、レイオン。……どかないと殴るわよ」
「出来るものなら」
余裕な顔が、なお腹が立つ。女だと思って舐めてるな、こいつ。
気持ちの悪い顔で、レイオンがのしかかってきた。
プツンと何かが切れる音がしたのはそれと同時。
股間を思いっきり蹴り上げるのと。
何者かがレイオンの頭を殴るのと。
それはほぼ同時のことだった。
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